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<月刊「狭山差別裁判」402号/2007年6月>

政府・法務省・裁判所は国連拷問禁止委員会の勧告を
真剣に受けとめ、取調べ可視化、証拠開示改善をはかれ!

 国連の条約機関のひとつである拷問禁止委員会は、2007年5月18日、日本政府の報告書の審査をふまえて、最終見解を出した。日本は、拷問禁止条約を1999年に批准、条約の実施状況についての第1回報告書を2005年12月に国連に提出していた。その報告書の審査が2007年5月9日、10日にジュネーブで開かれた拷問禁止委員会でおこなわれたのである。
  委員会の最終見解は、受刑者処遇法などのこの間の改善を一定評価する一方で、日本の刑事司法について非常に厳しい見解を示すとともに改善の勧告を出している。
  とくに、日本の代用監獄について、被疑者の身柄を拘束する場所として警察の留置場を使用することを制限することを求めるだけでなく、捜査と拘禁を完全に分離することや、国際的な基準に見合った警察への拘禁期間の制限を設定すること、弁護人の取調べ立ち会い、警察の持つ記録への弁護人のアクセス(証拠開示)を保障することなどの改革を求めている。
  また、今回の見解では、取調べと自白の問題についてとくに項目をたてて指摘がなされていることも注目される。委員会は、警察拘禁中のすべての取調べが録画や弁護人の立ち会いによって監視され、録画等の記録は刑事裁判で利用可能にしなければならないとし、取調べ時間を厳格に規制すべきと勧告している。
  そもそも、拷問禁止条約にいう拷問には、精神的な拷問もふくまれ、条約15条は、「拷問によってえられた証拠は排除されなければならない」としている。委員会は、この条約に適しない取調べで得られた自白を証拠排除するよう刑事訴訟法の改正も求めている。委員会を対象に上映された映画「それでもボク
はやってない」や志布志事件における自白強要をとりあげた「ヘラルドトリビューン紙」、日弁連やNGOの報告などによって、日本において、自白強要によるえん罪が後を絶っていないことが明らかになり、代用監獄制度、警察での取調べのやりかた、自白に依存する裁判のありかたなどを根本的に改革しなければならないことが世界に問われたのである。代用監獄の廃止、取調べの可視化や弁護側への証拠開示の保障は、国際的には当然のこととされ、1998年に国連・自由権規約委員会からも改善の勧告が出されている。今回あらためて拷問禁止委員会から勧告が出されたことは、その後の政府の司法改革ではこれらの点の改善がなされていないことを示している。
  拷問禁止委員会の懸念、改善勧告の内容が、狭山事件にあてはまることは、別件逮捕、弁護人の接見禁止、代用監獄への長期の勾留と密室での取調べなど石川さんがウソの自白によるえん罪に陥れられていく過程を見れば明らかであろう。こうした刑事司法改革は、事実調べをおこない自白の全面的な再検討と証拠開示を求める狭山弁護団の取り組みを後押しすることでもある。委員会が懸念を表明した99パーセントという高い有罪率も、狭山事件をはじめとするこの間の再審請求を棄却した裁判所の決定の判断も、「疑わしいときは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則が日本の刑事裁判では機能していないこと、自白依存の捜査、裁判の現れである。
  2009年の裁判員制度導入を目前にひかえ、拷問禁止委員会が指摘した刑事司法の改革は緊急の課題と言わねばならない。
  拷問禁止委員会の勧告とこの間あいついだえん罪・無罪判決をふまえて、民主党は2007年12月4日、取調べ可視化法案を参議院で提出した。これらえん罪を生まない司法改革は市民一人ひとりの問題であることを訴え、早急に可視化の審議をすすめ、法案成立をはかるよう国民世論を大きくしなければならない。
  国連拷問禁止委員会の勧告を真剣に受けとめるよう政府、法務省、裁判所に求めよう。取調べ可視化の実現を強く求め、司法民主化と狭山第3次再審闘争を結合し取り組みを進めよう。


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