<月刊「狭山差別裁判」420号/2010年03月>
開示証拠にもとづく筆跡鑑定の事実調べをおこなうべきだ
「犯行現場」の疑問は消えない!徹底した証拠開示を
2010年12月14日に、狭山弁護団は証拠開示された石川さんの筆跡資料にもとづく新たな筆跡鑑定2通を東京高裁に提出した。東京高裁の開示勧告によって、2010年5月の三者協議で、東京高検の検察官は、石川さんの筆跡資料6点を証拠開示した。そのなかに、1963年5月23日付けの石川さんの上申書がふくまれていた。これは47年ぶりに日の目を見たまったく新しい筆跡資料である。しかも、この上申書は、逮捕直前の5月21日付けの上申書と同様に、当時の石川さんが部落差別の結果、文字を奪われた非識字の状態であったことをはっきりと示している。
脅迫状との筆跡の違いは一目瞭然である。弁護団はこの上申書を資料として筆跡鑑定を依頼し、遠藤織枝・元文教大学教授と魚住和晃・神戸大学名誉教授が鑑定書を作成した。この2つの鑑定は、証拠開示された石川さんの当時の上申書は漢字が書けていないことや字の形、書き癖も異なり、脅迫状は同一の筆者ではないと鑑定している。
再審請求についての最高裁の著名な判例である白鳥決定(白鳥事件の再審請求についての特別抗告審決定 1975年5月20日)は、再審開始すべき明白な新証拠かどうかの判断は、「もし当の証拠が確定判決を下した裁判所の審理中に提出されていたとするならば、果たしてその確定判決においてなされたような事実認定に到達したであろうかどうかという観点から、当の証拠と他の全証拠とを総合的に評価して判断」すべきだとしている。
今回、証拠開示され新証拠として提出された5月23日付けの上申書は、47年目に日の目を見た資料であり、それにもとづく筆跡鑑定書もふくめて新たな証拠であることは疑いがない。これを最高裁の白鳥決定にいう「当の証拠」にあてはめれば、狭山事件で「確定判決を下した裁判所」 である2審の東京高裁の裁判中に、もし、この上申書が明らかになっていたら、はたして、脅迫状を書いたのは石川さんであることに疑いはないという有罪判決の認定になっただろうかという観点から、他の全証拠と総合的に検討しなければならないということになる。他の全証拠とは、これまで証拠とされた石川さんの筆跡資料や弁護団が提出したたくさんの筆跡鑑定である。証拠開示された上申書の筆跡が脅迫状と異なるという鑑定結果は、自宅で、まんが雑誌から漢字を拾い出して脅迫状を書いたとする石川さんの自白が疑わしいということにも波及する。これら一連の自白の信用性も再検討されなければならない。
すなわち、第3次再審請求の審理を担当する東京高裁第4刑事部・岡田雄一裁判長は、最高裁の判例にしたがって、開示された上申書と筆跡鑑定について、遠藤、魚住鑑定人の尋問などの事実調べをおこない、総合的に検討すべきであろう。
こうした重要な無実の証拠を隠してきた警察、検察の姿勢こそ問題にし、東京高裁が徹底した証拠開示の勧告と事実調べをおこなうことを強く求めたい。
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