(月刊「狭山差別裁判」458号/2015年2月)
「(日本政府の報告では)検察官が提出する意思のある情報について(弁護側は)アクセスする資格があるとしか述べられていません。しかし、検察官が提出する意思のある情報というのは、検察官の利益になるものしかないことは明らかです。」「証拠提出の命令が発せられるのは、弁護側が情報の存在を知っていて、特定の証拠が見たいのだということができてはじめて、裁判所はその証拠の開示を命じることになるのです。しかし、多くの場合、弁護側はこのような情報の存在を知りません。・・基本的な原則としなくてはならないことは・・検察官によって収集された証拠はすべて弁護側にも利用可能にすることであると思います」
これは1998年10月にジュネーブでおこなわれた国連の自由権規約委員会における委員の日本政府代表への質問である。このとき委員会は日本政府の報告を審査した結果、「法律と実務において弁護側が関連するあらゆる証拠資料にアクセスすることができるようにして、防御権が阻害されないよう確保すること」を日本政府に勧告した。いまから17年も前のことだ。その後の日本の刑事司法がこの国連の勧告や委員の指摘を受けて改善されたとはとうていいえない。2004年の刑訴法改正で証拠開示請求の手続きができたが、あくまで開示するかどうかは検察官の判断にゆだねられたままだ。事件後何年も経過して無実を叫ぶ再審事件では証拠開示の保障が最も必要だが、再審における証拠開示の手続きは法的に何もないのが現状だ。
狭山事件の再審請求で、弁護団は、当時の捜査資料や新聞報道などを分析して、証拠の存在を指摘し、開示を求めてきた。また、開示された証拠物に付けられた番号を整理し、番号飛びを指摘して、未開示証拠物があるはずだとして、開示を求めた。それでも検察官は証拠物を特定しなければ開示できないと抵抗した。半世紀以上たって裁判所の勧告で高検の証拠物一覧表だけは出された。この一覧表がもっと早くに弁護側に提示されていたら、逮捕当日の上申書も取調べ録音テープももっと早くに開示されていたはずだ。袴田事件のように 半世紀近くたって、当時の写真ネガや録音テープが探したらあったなどということもおこらないはずだ。証拠の一覧表(リスト)を弁護側に提示することがいかに重要かつ必要不可欠であるかを示している。
捜査段階でどのような証拠資料が集められ、何が検察庁に送致され、検察官の手元にどれだけ保管されているのか、弁護側にはわからないという、国連の委員会でも指摘された明らかに不公平な状態はいまも続いている。検察官は出すべきものは出すはず、証拠隠しはしないという「性善説」では一向に証拠開示が進まない現実を見るべきだ。
国連の委員が指摘したように、検察官は自分たちに都合のいい証拠しか出さないという前提にたって不公平・不公正な制度を変えていかねばならない。再審における証拠開示とりわけ証拠リスト開示(提示)を確立するよう世論を大きくしよう!狭山事件の弁護団が求める東京高検以外の証拠物一覧表を開示するよう強く求めよう!
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