(月刊「狭山差別裁判」467号/2016年6月)
きわめて重大な新証拠だ。被害者の所持品が自白通り石川さんの家から発見されたとして有罪判決の証拠となっていた万年筆が被害者のものではないということが科学的に明らかになった。狭山弁護団が8月22日に東京高裁に提出した下山鑑定だ。
2013年に被害者のインキ瓶が証拠開示され、弁護団は50年目にしてはじめて写真撮影することができた。この写真をもとにパイロットに問い合わせ、被害者の使っていたインキが従来はその色からライトブルーと呼ばれていたが、ジェットブルーという商品名のインキであることが判明し、弁護団はさらに当時のジェットブルーインキを入手した。下山鑑定はこれら当時のジェットブルーとブルーブラックのインキを使って実験をおこない、ブルーブラックインキに微量にでもジェットブルーインキが混じっていれば、当時の科学警察研究所がおこなったペーパークロマトグラフィー検査で分離した成分が現れることを確認した。そして、事件当時、石川さんの家から発見された万年筆のインキと被害者のインキ(家にあったインキ瓶や書き残した日記文字のインキ)を検査した科学警察研究所の荏原鑑定を検証し、発見万年筆には被害者が事件当日まで使用していたジェットブルーインキが入っていなかったことを指摘した。発見万年筆に被害者のインキが入っていない、すなわち被害者の万年筆ではないことを科学的に明らかにしたのだ。
発見万年筆が被害者のものでないということは、殺害後に被害者の鞄から万年筆を筆箱ごと持ち帰り、自宅のお勝手入口のカモイに置いていたという自白が虚偽であることを示している。ふだん字を書くことのなかった石川さんが万年筆を持ち帰り、自宅の入り口に置いたままにしておくというこの自白じたいが不自然であるし、高さ175.9センチ、奥行き8.5センチしかないお勝手入口のカモイの上にあったという万年筆が2回の徹底した警察の家宅捜索で発見されず、3回目に見つかったという経過もおかしい。これらの疑問と今回の下山鑑定をあわせてみれば、万年筆はねつ造された証拠といわざるをえない。
万年筆の疑問は、同じように自白にもとづいて発見されたというカバン、腕時計の疑問を深めることにもつながる。また、開示された取調べ録音テープによって、石川さんが犯人でないゆえに犯行内容を全く知らず、何も語れていないことや、警察官に教えられながらすべてひらがなで図面の説明文を書き、それでも正しく書けていないこと、当時の石川さんが脅迫状を書けたとは考えられないことも明らかになった。これらの物証と自白の疑問を総合的に見れば、自白通り被害者の所持品が発見されたとした有罪判決(東京高裁・寺尾裁判長による無期懲役判決)の誤りは明らかだといわねばならない。狭山事件の再審請求を審理する東京高裁第4刑事部(植村稔裁判長)は鑑定人尋問をおこない、再審を開始すべきである。
開示された証拠によってカバン、腕時計、自白の疑問がつぎつぎと明らかになったように、裁判所の勧告によって被害者のインキ瓶が50年ぶりに証拠開示されたことがきっかけで被害者が使っていたインキがジェットブルーであることが判明し、下山鑑定につながっていったことも忘れてはならない。再審請求において検察官手持ち証拠の開示はやはり不可欠である。東京高検は、弁護団が求める埼玉県警の証拠物一覧表や万年筆、財布等に係る証拠開示請求にすみやかに応じるべきである。東京高裁は証拠開示を強く勧告すべきである。
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