(月刊「狭山差別裁判」469号/2016年8月)
弁護団は8月22日に下山鑑定を提出するとともに万年筆に関する捜査資料の開示を求めていたが、10月21日付けで被害者の兄の供述調書1点が開示された。内容については今後精査することにしているが、弁護団の粘り強い証拠開示請求の取り組みの成果である。狭山事件の第3次再審請求では、これまでに186点の証拠が開示され、逮捕当日に石川さんが書いた上申書や取調べ録音テープ、手拭いに関わる捜査資料、被害者のインク瓶など重要な証拠が開示され、石川さんの無実を明らかにする新証拠が発見された。狭山事件の再審実現にむけて証拠開示は重要な課題だ。
布川事件や東電社員殺害事件などあいついで再審で無罪が確定した冤罪事件で、開示された証拠が再審のカギになったことの教訓をふまえて、国会における刑事訴訟法改正の審議のなかで、再審においても証拠開示を保障すべきという議論がくりかえしなされてきた。ことし5月の刑訴法一部改正で、裁判員裁判の公判前整理手続きで証拠リストを弁護側に交付する制度が導入されたが、事件発生から年月を経た再審請求こそ検察官手持ち証拠のリストを弁護側に開示する必要があるだろう。再審請求は新証拠の提出が要件とされているのだから、新証拠になる可能性のある公判未提出の証拠や資料の一覧表を弁護側に交付してこそ公平な審理と言えるはずだ。法案採決にあたって「政府および最高裁判所は、本法が度重なるえん罪事件への反省を踏まえて重ねられた議論に基づくものであること」に鑑みて、「再審が無辜の救済(無実の人を救う)のための制度であることを踏まえ、証拠開示の運用、刑事訴訟法第四百四十五条の事実の取調べの在り方をめぐる国会の審議の状況の周知に努める」という附帯決議がなされ、最高裁から全国の裁判所に国会議事録とともに送られている。東京高裁第4刑事部の植村裁判長も、国会審議をふまえ再審の理念に従って、狭山事件の再審請求においても、弁護団の求める証拠開示を積極的にすすめ、検察官に開示を促すべきである。
狭山弁護団は10月31日、被害者の財布や手帳に関する証拠の開示を求めて再度意見書を提出した。狭山事件では被害者はチャック付の財布と身分証明書の入った手帳を持っていたが、捜査段階で発見されていない。真犯人によって奪われたと考えられるが、石川さんの自白では「財布は盗っていないし知らない」となっており、身分証明書の入っていたのは「三つ折り財布」で、家に持って帰るとちゅうで「紛失」したとなっており自白は不自然だ。有罪判決は石川さんが真実を語っていないとごまかしたが、開示された取調べ録音テープでも石川さんは「財布は知らない」「わからない」とくりかえしており、被害者の財布・手帳についても石川さんが まったく知らないこと、犯人でないがゆえの「無知の暴露」が明らかなのである。
弁護団は、埼玉県警が作成した証拠物の一覧表について、開示の必要がないとする検察官に反論する意見書を提出し、証拠物はできるかぎり開示するべきものという原則にたって、すべての証拠物の一覧を客観的に確認できるようにすべきだと訴えている。また、5月21日に石川さんが上申書を書いた経過や自白の経過、自白の変遷に関わる捜査資料などの証拠開示も求めているが、三者協議で検察官はいずれも検討中としている。証拠開示の闘いは続いている。下山鑑定や取調べテープの学習・教宣とあわせて証拠開示を求める声をさらに大きくしよう。
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