(月刊「狭山差別裁判」471号/2017年3月)
2010年5月に、東京高裁の開示勧告を受けて、狭山事件の取調べを録音したテープ9本、約15時間分が証拠開示された。弁護団は、取調べ録音テープを分析した心理学者の鑑定書(浜田鑑定、脇中鑑定)を新証拠として提出している。これらの鑑定は、石川さんの自白が虚偽自白であり、石川さんが犯人でないことを取調べテープから明らかにしている。
今回、これらの鑑定書をもとに、取調べ録音テープのやりとりを再現したドラマのDVDが製作された。芝居として演じられているが、そのやりとりは53年前に実際に石川さんに対しておこなわれた取調べそのものである。
石川さんは最初の逮捕後から警察の取調べで、脅迫状を書いて届けたことを認めるよう迫られた。石川さんの否認期の調書には、何回も聞かれているが、自分は字が書けないし脅迫状は書いていないと訴える記載が出てくる。実際に当時の石川さんは部落差別によって学校教育を十分受けられなかった非識字者であった。警察は最初の逮捕から26日目に石川さんをいったん保釈し警察署内で再逮捕、川越警察署分室へ移し取調べを続けた。自白直前の取調べテープには、3人の警察官が「脅迫状を書いたことは間違いない」とくりかえし迫っている場面が録音されている。こうした自白強要ともいえる厳しい取調べの後に、地元の警察官で以前からよく知っている関巡査が取調べ室に入れられ、人間関係を利用して、石川さんに自白を迫っていることも録音から浮かび上がった。
犯行を自白した後も、当て字が多数書かれた脅迫状をどのように書いたのか、死体に結びつけられた長い縄の意味、被害者のビニール風呂敷が入っていた芋穴の意味など、犯行の態様を石川さんがまったく説明できていないことが取調べテープで明らかになった。石川さんが犯人ではないゆえに死体の状況も鞄の捨てられ方もまったく知らず、犯行体験を語れない「無知の暴露」がはっきりと取調べ録音テープに現れているのだ。
さらに、石川さんが供述調書に添付する図面の説明を書いている場面が取調べテープに多数出てくる。石川さんは警察官に教えられながら書いているが、実際に書かれたものはほぼ平仮名で書かれ、促音や拗音といった小学校低学年で習う平仮名表記のルールが正しく書けていないことも判明した。取調べ録音テープは当時の石川さんが部落差別によって学校教育を受けられなかった非識字者であることも浮かび上がらせている。今回のDVDは、これら実際にあった取調べの場面を再現したものだ。
取調べ録音の分析もふまえて、石川さんが脅迫状を書いていないことを明らかにした筆跡・識字能力鑑定(森鑑定、魚住鑑定)も提出した。万年筆が被害者のものではなく、脅迫状の訂正に使われたものでもないことを科学的、客観的に明らかにした下山鑑定、川窪鑑定とあわせて、狭山事件の有罪判決(寺尾判決)は完全に崩れたというべきである。東京高裁は、鑑定人尋問などの事実調べをおこない、再審を開始すべきである。
わたしたちは、取調べ再現DVD「冤罪を作り出す『取調べ』―狭山事件の場合」を活用した学習会をおこない、取調べ録音テープが示す石川さんの無実を広く訴えよう。47日間にもおよぶ警察の代用監獄での石川さんに対する取調べの実態がいかに酷いものであり、虚偽の自白がいかに作られたかをDVDを通して学習・教宣をすすめよう。
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