(月刊「狭山差別裁判」476号/2017年9月)
1979年に鹿児島県大崎町でおきた「大崎事件」で原口アヤ子さんが求めた再審請求で、鹿児島地裁(冨田敦史裁判長)は再審を開始する決定をおこなった。大崎事件では、もともと原口さんは自白しておらず、原口さんを主犯とする警察の見立てに合う共犯者とされた3人の自白以外に証拠がなかった。鹿児島地裁の冨田裁判長は、有罪判決をささえたこれらの供述について、弁護団が提出した心理学者による鑑定によって「非体験性兆候」や「無知の暴露」が見られるとして信用性を否定し、証拠を総合評価して再審開始を決定している。狭山事件でも自白の信用性が大きな争点であり、取調べ録音テープが証拠開示されたことを受けて浜田鑑定、脇中鑑定など心理学者による供述心理鑑定が出されており、今回の大崎事件の再審開始決定は大きな意味をもっている。
大崎事件の第3次再審請求では裁判所が積極的に検察官に未開示証拠の開示を求め、あらたに18本ものネガフィルムが開示された。それをもとにプリントした写真を使って弁護団は裁判官に対するプレゼンテーションもおこなえたという。再審開始決定の根拠となった供述心理学鑑定についても2回にわたって心理学者の鑑定人尋問がおこなわれた。証拠開示と事実調べがやはり重要なカギであることを示している。
原口さんは38年も無実を叫び現在90歳今回の2度目の再審開始決定に対して検察官は高裁に即時抗告をおこなった。許されない暴挙というほかない。検察官があくまで争うというならすみやかに再審公判を開けばよいのではないか。再審開始決定に対する検察官の不服申立てを禁止するよう早急に法改正が必要だ。
狭山事件の第3次再審請求の33回目の三者協議が先日おこなわれ、東京高裁の植村稔裁判長は、弁護団が求めていた証拠物4点については証拠開示を検察官に勧告したが、そのほかに弁護団が求めていた財布・手帳関係の捜査資料や自白の経緯に関する証拠については開示勧告をしないとした。昨年の刑訴法改正では、再審請求においても弁護側への証拠開示を保障すべきだという議論が国会でくりかえしおこなわれ、採決にあたっての附帯決議で、この間の冤罪を教訓として、証拠開示や事実調べの必要性について議論されたことを最高裁判所は周知させることが確認された。東京高裁にたいしても国会の議事録等が送られ、裁判官もそのことを知っているはずだ。植村裁判長は、もっと積極的に証拠開示をすすめるべきではないか。
公平・公正な審理を受けることを憲法は保障し、公務員である検察官、裁判官は憲法の擁護と遵守を義務づけられているはずだ。わたしたちは、狭山事件においても公正・公平な再審の審理を裁判所、検察官に求めていかなくてはならない。また、改正刑訴法附則に「再審における証拠開示を検討する」ことが盛り込まれたこともふまえて、再審手続きを公正・公平なものに変えていく運動を幅広くすすめていくことも重要だろう。
石川一雄さんは半世紀以上も無実を叫び、弁護団とともに40年も再審を求めているが、一度も事実調べがおこなわれていない。検察官は下山鑑定に対する反証を提出し、弁護団は再反論を今後提出する。東京高裁は、今度こそ事実調べをおこない、万年筆の疑問を総合的に評価し、再審を開始すべきだ。脅迫状、自白、万年筆を中心に石川さんの無実を示す新証拠を広く訴え、東京高裁に再審を求める世論をさらに大きくしよう。
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