(月刊「狭山差別裁判」482号/2018年6月)
2009年6月4日、足利事件で東京高裁が命じたDNA再鑑定で、犯人の型と一致しないという結果が出たことを受けて検察官は菅家利和さんを釈放した。菅家さんは1年前には宇都宮地裁で再審請求を棄却されていたが、即時抗告審で東京高裁が再鑑定をおこなうことを決め、1月に2人の鑑定人による鑑定が始まり、5月には不一致の結果が出たのだ。裁判所が弁護側の求めた証拠調べをやれば半年も経たずに菅家さんの無実が判明したのだ。菅家さんは無実にもかかわらず17年半も獄中生活を余儀なくされ、家族も苦しめられてきた。この経緯を考えれば、これまで菅家さんの訴えや弁護団の要求を無視し再鑑定もせず、警察の鑑定と自白調書を根拠に誤った有罪判決を続けてきた地裁、高裁、最高裁の裁判官たちの責任は大きいと言わねばならない。虚偽自白をさせた警察官、検察官は言うに及ばず司法全体が猛省しなければならなかったはずだ。
わたしたちは、足利事件の冤罪の真相をしっかりと見すえ、司法が真にその教訓と反省をふまえて、冤罪をなくし誤判から無実の人を救済する努力をしているのか厳しく監視すべきだ。
2009年には最高検察庁が「検察の理念」なるものを発表し、「あたかも常に有罪そのものを目的とし、より重い処分の実現自体を成果とみなすかのごとき姿勢をとってはならない」「基本的人権を尊重し、刑事手続の適正を確保する」「被疑者、被告人等の主張に耳を傾け(る)」と宣言したが、この「理念」はいったいどこへいったのか。現実には、裁判所が冤罪の疑いを認め再審開始決定を出したにもかかわらず、これに対して上訴(抗告)し、弁護団の証拠開示請求に対しては「必要性がない」などと一方的に拒否し続けている。
裁判所もまた密室で作られた自白調書の危険性を忘れ、有罪を求めることに汲々とする警察、検察の作成・提出する証拠(「科学捜査の勝利」などと称して出される鑑定も含めて)や自白調書を十分検討・吟味せず、安易に頼って誤判をくりかえしていないか。裁判所は足利事件の教訓・反省をふまえて、密室で作成された自白調書に安易にこれらに依存せず自白の信用性、任意性を慎重・十分に検討すること、公判廷で犯行を認める自白を維持していても安易に判断せず自白の経過を慎重に検討しなければならないこと、積極的に検察官手持ち証拠の開示を勧告・命令し、弁護側の求める証拠調べ、再鑑定や鑑定人尋問などの事実調べをおこなうことをしなければならないはずだ。
私たちも、足利事件や多くの冤罪事件の教訓をふまえて、冤罪防止と誤判救済制度を充実化させるための司法改革を求めていく必要がある。2016年の刑訴法改正で、再審における証拠開示の保障について検討するという附則も確認された。再審開始に対する検察官の抗告の禁止、再審における証拠開示の立法化など、再審に関わる法(刑事訴訟法)の整備・改正を冤罪事件弁護団、学者、市民団体など冤罪と闘う人たちとともに求めていこう。
狭山事件の石川一雄さん、足利事件の菅家利和さん、布川事件の桜井昌司さん、杉山卓男さん、袴田事件の袴田巖さんら冤罪被害者の生き方と思い、闘いと交流を描いたドキュメンタリー映画「獄友」の上映運動を通して、冤罪の酷さと司法の現状を多くの人に知らせ、冤罪を作らない社会、人権を守られる社会をめざす市民の声を広げよう。狭山事件の第3次再審で東京高裁(後藤眞理子裁判長)が鑑定人尋問をおこない再審を開始するよう求める世論をさらに大きくしよう。
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