(月刊「狭山差別裁判」483号/2018年7月)
さる6月11日、東京高裁第8刑事部(大島隆明裁判長)は、袴田事件の即時抗告審で静岡地裁の再審開始決定を取り消し、再審を棄却する不当極まりない決定をおこなった。
静岡地裁の再審開始決定は、証拠開示された「5点の衣類」のカラー写真と弁護団がおこなった衣類の味噌漬け実験にもとづいて、「5点の衣類」の血痕の赤みが強いことから「1年以上も味噌タンクの中に漬けられていたにしては不自然である」としてねつ造の疑いを指摘した。これに対して今回の大島決定は、カラー写真が40年以上も前のものであり、劣化退色などの問題があり、5点の衣類の色合いを正確に表現したものとはいえないとして、再審開始決定の判断を否定している。しかし、黒くなった血痕の写真が40年経過すると「劣化退色」して赤くなるというのだろうか。「劣化退色」という抽象的な言葉で長期間味噌漬けになった衣類の血痕の色がこんなに赤いはずはないという私たち市民の常識的な疑問を強権的に否定していると言わざるを得ない。
大島決定の言い方からすれば、このカラー写真はもはや判断材料には使えないことになるが、このカラー写真を「劣化退色」するまで40年以上も開示しなかったのは検察官であり、ねつ造の疑問をもたれることを恐れた検察官の証拠隠しを非難すべきだ。大島裁判長は弁護団が求めた証拠開示に対して積極的に検察官に促すこともしなかったのではないか。大島決定はあまりに不公平・不当と言わねばならない。大島裁判長は、このカラー写真が1審裁判で出されていても「5点の衣類」に何の疑問ももたず死刑判決を出していたというのであろうか。
また、即時抗告審で証拠開示された取調べ録音テープを分析した心理学者・浜田寿美男さんの鑑定について、大島決定は、袴田さんの取調べには「供述の任意性・信用性確保の点から疑問と言わざるを得ない手法が含まれていた」と認めながら、有罪判決は警察官作成の自白調書を証拠として犯人性を認定していないから、これらの新証拠は有罪判決の認定に合理的疑いは生じさせる証拠ではないとしている。また、弁護人の主張する5点の衣類がねつ造された可能性は、具体的な根拠に乏しく、いまだ抽象的な可能性をいうに過ぎず、捜査機関がねつ造した合理的疑いは生じないというがねつ造の具体的根拠を示すなどということは可能なのだろうか。全証拠の開示も保障しないで、弁護団に根拠に乏しいとするとするのは不当だ。拷問まがいの取調べをやっていた実態は証拠ねつ造をした疑いにつながるはずだ。再審は有罪判決に合理的疑いがないか新旧の証拠を総合的判断するという最高裁の白鳥・財田川決定に反する不当決定と言わざるをえない。
狭山事件では、5月の三者協議にあわせて弁護団は、取調べ録音テープにもとづいて、石川さんの自白は真実ではなく、任意になされたものでもないことを主張する補充書を提出した。証拠開示された取調べ録音テープで明らかになった取調べの実態は拷問とも言える自白の強要だ。犯人に仕立て上げていく突破口として石川さんに脅迫状を書いたと認めさせようとしていることが明らかだ。そのことは、自白にあわせて万年筆をねつ造したという疑いにも結びつく。東京高裁第4刑事部・後藤眞理子裁判長は万年筆の疑問や取調べテープが示す自白の疑問を総合的に検討すべきだ。
誤判救済制度の確立にむけて、再審開始に対する検察官の不服申し立ての禁止、再審における証拠開示の保障、再審請求人の拡大など再審法改正が早急に必要だ。
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