(月刊「狭山差別裁判」484号/2018年8月)
狭山事件再審弁護団は、7月10日、東京高裁に元京都府警科学捜査研究所技官の平岡義博・立命館大学教授による鑑定意見書を新証拠として提出した。狭山事件の有罪確定判決である寺尾判決は客観的な有罪証拠の一つとしてスコップをあげている。死体発見現場から約125メートルの麦畑で発見されたスコップは石川さんがかつて働いていたI養豚場から盗んで死体を埋めるのに使ったものであると自白を離れて認定できるというのである。その根拠は埼玉県警鑑識課のスコップ付着土壌と油脂の鑑定である。
平岡意見書は、スコップ付着土壌に死体発見現場付近の土と類似するものがあったという埼玉県警鑑識課の鑑定の結論は誤りであると指摘している。また、警察の鑑定からはスコップ付着物に油脂があったというだけで、I養豚場で使われていたスコップであると特定できないと指摘している。証拠のスコップが死体を埋めるのに使われたものとも、I養豚場のものとも言えないことが長年、警察の捜査で土の分析の研究と実務を担ってきた元科捜研技官の科学的な分析で明らかになったことは重要だ。寺尾判決の有罪証拠がまた崩れたのであり、東京高裁は再審を開始すべきだ。
第3次再審で証拠開示された当時の捜査報告書で、スコップ発見直後から、県警鑑識課が捜査本部に発見スコップが養豚場で使われていたものとして差し支えないなどと連日、報告していることがわかった。5月21日にはI養豚場でかつて働いていてスコップが盗める者として石川一雄さんの名前が捜査本部に報告されている。発見スコップが犯行に使われたものという証明もI養豚場のものと特定できる根拠もなかったにも関わらず、警察はスコップをI養豚場に結びつけ、I養豚場関係者を中心に被差別部落に見込み捜査をおこない、石川さんを狙い打ちして別件逮捕したのである。そして、逮捕した石川さんが字があまり書けないことがわかっても、捜査当局は県警鑑識に筆跡は同一という中間回答を出させ、密室の取調べで脅迫状を書いたことを認めさせようとしたのである。証拠開示された自白直前の取調べ録音テープには3人の警察官が石川さんに「脅迫状を書いたことは間違いない」「議論の余地はない」と繰り返し自白を強要している取調べが録音されている。犯人取り逃がしによって警察庁長官が辞任するまでにいたり、捜査にあせった警察が、住民の差別意識を背景に被差別部落に対する見込み捜査をおこない、証拠もなく石川さんを別件逮捕し、自白を強要していったのである。東京高裁第4刑事部の後藤眞理子裁判長は、こうした狭山事件の捜査の経過の問題を直視し有罪証拠や自白が信用できるのか再検討すべきだ。
先日の東京高裁第8刑事部(大島隆明裁判長)による袴田事件の再審開始取り消し決定は、袴田さんに対する取調べは自白の任意性、信用性の確保の観点から疑問があると認めながら、取調べ状況から有罪証拠とされた5点の衣類のねつ造を結び付けることは論理の飛躍と決めつけている。そして、5点の衣類がねつ造された可能性は具体的根拠に乏しく抽象的な可能性に過ぎないとして弁護側の主張をしりぞけている。しかし、証拠ねつ造を弁護側が具体的に示すことはきわめて困難であろう。弁護側にねつ造の証明を不当に課していないか。強引な取調べで自白を強要した警察、検察が当初の自白では有罪を得られないと考えて証拠をねつ造することは十分ありうる。捜査・取調べに疑問があればねつ造の疑いも十分検討すべきではないか。再審取り消し決定はあまりに捜査当局を擁護する不当、不公平な認定と言わざるをえない。
虚偽自白を誘発するような密室の不当な取調べと証拠のねつ造は一体のものだ。裁判所は警察の捜査に厳しい目を向け、弁護側の証拠を公平に、かつ総合的に評価し、捜査と自白の問題をふまえて有罪証拠を徹底的に再検討すべきだ。冤罪の真相を広く市民に訴え、狭山事件、袴田事件の再審無罪をともにかちとろう。
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