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主張&声明

東京高裁は下山第2鑑定をはじめとする新証拠につき
鑑定人尋問をおこない狭山事件の再審を開始すべきだ

(月刊「狭山差別裁判」485号/2018年9月)

 狭山事件再審弁護団は、8月30日、下山進・吉備国際大学名誉教授が作成した鑑定書(下山第2鑑定)などの新証拠を提出した。下山第2鑑定は、蛍光X線分析装置を使ってインクに含まれる元素を分析することで、証拠の万年筆が被害者のものではないことを客観的、科学的に明らかにしている。狭山事件の有罪判決(東京高裁の寺尾判決1974年10月31日)は、被害者の万年筆が石川さんの自白通り石川さん宅から発見されたとして、これを「秘密の暴露」(犯人しか知らない事実が自白によって判明した)と認定し、自白が真実で、石川さんが犯人であることを示す決定的証拠とした。弁護団は、事件当時の科警研によるインク鑑定を精査し、発見万年筆に被害者が使用していたインクが入っていなかったことを指摘した下山第1鑑定を2016年8月に提出。同年10月に、事件当時、発見万年筆で書いたとされる数字が添付された調書が証拠開示された。

 また、パイロット社への照会で、被害者が使用していた当時のジェットブルーインクには、クロム(金属元素の一つ)が含まれ、一方、ブルーブラックインクにはクロムは含まれていないこともわかった。下山第2鑑定では、開示された発見万年筆で書いたとされる数字のインクや被害者が使用していたインク瓶のインク、被害者が事件当日に書いたペン習字浄書のインクなどについて蛍光X線分析をおこなった。

 蛍光X線分析は、物質にX線をあてると含まれる元素に固有のエネルギーの蛍光X線が発生することを利用して、物質に含まれる元素を分析するものである。その結果、被害者が使っていたインク瓶のインク、被害者が事件当日に書いたペン習字浄書の文字インクからはクロム元素が検出され、一方、証拠の万年筆(発見万年筆)で書いたとされる数字のインクからはクロム元素が検出されなかったのである。

 この検査結果は、被害者が事件当日まで使っていたインクが石川さん宅から発見され有罪証拠とされた万年筆に入っていなかったことを示している。下山第2鑑定では、クロム元素を含むジェットブルーインクが入っていた万年筆にブルーブラックインクを吸入して書いた文字のインクも同じ装置で検査し、クロム元素が検出されることを確認している。別インクを「補充」しても元のインクのクロム元素が検出されなくなることはないのである。下山第2鑑定は、証拠の万年筆が被害者のものではないということを端的に明らかにしている。

 寺尾判決は、石川さんの家から発見された万年筆が被害者のものであることを前提として、自白通り発見されたことを自白が真実であることを示す「秘密の暴露」として有罪の証拠としている。

 下山第2鑑定によって、殺害後、被害者の万年筆を自宅に持ち帰ったという石川さんの自白がまったく虚偽であり、有罪証拠とされたものが事件と関係のないものであることが明らかになったのだ。下山第2鑑定は、寺尾判決を突き崩す決定的新証拠だ。

 当時の石川さんが非識字者で脅迫状を書けなかったことを明らかにした森鑑定、コンピュータによる筆跡鑑定で石川さんと脅迫状を書いた犯人は別人と指摘した福江報告書、取調べ録音テープを分析した心理学鑑定などの新証拠によって石川さんの無実が明らかになっている。東京高裁第4刑事部(後藤眞理子裁判長)は一日も早く再審を開始すべきだ。

 下山第2鑑定が今回検査した発見万年筆で書いた「数字」や被害者のインク瓶、ペン習字浄書はすべて証拠開示されたものである。再審における証拠開示がいかに重要かを示している。再審における証拠開示の法制化は刑訴法改正の際に国会の附帯決議で検討するとされた。証拠開示の保障を含む再審法改正が国会で審議されるよう求めたい。


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