(月刊「狭山差別裁判」486号/2018年11月)
狭山弁護団が提出した下山第2鑑定は、事件当時に発見万年筆で書いたとされる数字が添付された調書が証拠開示されたことを受けて、この発見万年筆で書いた数字、被害者が事件当日に書いたペン習字浄書のインクなどについて蛍光X線分析をおこなったものだ。蛍光X線分析は、物質にX線をあてると含まれる元素に固有のエネルギーの蛍光X線が発生することを利用して、物質に含まれる元素を分析するものである。その結果、被害者が使っていたインク瓶のインク、被害者が事件当日に書いたペン習字浄書の文字インクからは金属元素のクロムが検出され、一方、発見万年筆で書いた数字のインクからはクロム元素が検出されなかったのである。この検査結果は、石川さん宅から発見され有罪証拠とされた万年筆に被害者が事件当日まで使っていたインクが入っていなかったことを客観的、科学的に示している。
再審を認めなかったこれまでの裁判所の決定は、発見万年筆のインクが被害者が使用していたインクと違うことについて、別のインクを補充した可能性があるとして、被害者のものでないとはいえないとしてきたが、別インクを「補充」しても元のインクのクロム元素が検出されなくなることはない。下山第2鑑定は、インクに含まれる元素の違いから、発見万年筆が被害者のものではないということを明らかにした決定的な新証拠である。
再審請求では、確定有罪判決に合理的疑いを生じさせる新証拠を発見したときに再審を開始するとされている。狭山事件で確定有罪判決となっているのは1974年10月31日に東京高裁(寺尾正二裁判長)のおこなった無期懲役判決である。これがいまも石川一雄さんに冤罪の「見えない手錠」をかけている。この寺尾判決から44年が経過する。この間に多くの無実の新証拠が明らかになったが、第1次、第2次再審請求においてはまったく事実調べがおこなわれなかった。
寺尾判決は有罪の根拠として、筆跡が一致する、現場の足跡が石川さんの家の地下足袋と一致する、死体を埋めるために使われたスコップはI養豚場のもので石川さんが盗んで使った、犯人の血液型はB型で一致する、犯人の音声、目撃証言、犯行に使われた手拭いは石川さんの家のものなどといった7つの客観的な証拠が石川さんと犯行との結びつきを示しているとしている。そのうえで、鞄、万年筆、腕時計など被害者の所持品が自白通り発見されたことを「秘密の暴露」(犯人しか知らないことが自白で判明した)として自白が信用できる根拠としてあげ、さらに、自白は客観的事実の矛盾しておらず信用できるとしている。
コンピュータによる筆跡鑑定で石川さんが脅迫状を書いていないことを科学的に明らかにした福江鑑定、取調べ録音テープの分析もふまえて石川さんに脅迫状は書けなかったことを明らかにした森鑑定、下山第2鑑定、取調べ録音テープにもとづく心理学鑑定など、第3次再審で弁護団が提出した新証拠によって、これら有罪判決の根拠は崩れている。弁護団はさらに、有罪判決の誤りを完膚なきまで明らかにするべく、脅迫状の指紋の不存在、死体を芋穴まで運んだという自白の不自然さ、万年筆の捜索・発見経過の不自然さ、足跡などに関する新証拠を準備しており、提出していくことにしている。弁護団は今後、検察官の反論に対しても徹底的に再反論するとともに、鑑定人尋問などの事実調べを求めていくという。福江鑑定、下山第2鑑定、取調べ録音テープなどの新証拠によって、石川さんの無実が明らかになっている。東京高裁第4刑事部(後藤眞理子裁判長)は、鑑定人尋問をおこない、狭山事件の再審を開始すべきだ。新証拠の学習・教宣を強化し、狭山事件の再審を求める世論をさらに大きくしていこう。
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