(月刊「狭山差別裁判」488号/2019年1月)
狭山事件再審弁護団は2018年12月、福江潔也・東海大学教授による意見書(福江意見書)、元栃木県警鑑識課員の齋藤保・指紋鑑定士の指紋鑑定(齋藤指紋鑑定)、流王英樹・土地家屋調査士による報告書(流王報告書)を提出した。
検察官は、弁護団が2018年1月に提出した福江鑑定(コンピュータによる筆跡鑑定)に対する反証として、科学警察研究所技官による意見書を提出した。福江意見書は、これに福江鑑定人自身が反論したものだ。検察側意見書は、福江鑑定の鑑定結果を具体的に批判するのではなく、コンピュータによる筆跡鑑定の手法について「問題がある」などと論難し、福江鑑定の手法によって筆者が同一か否かを判断することは適切でないとするものであった。この検察側意見書が「問題がある」としてあげる点について、福江意見書は、長年にわたる研究の過程ですべて検討し、検証済みであることを指摘している。福江鑑定のコンピュータによる筆者異同識別の手法は2005年に日本法科学技術学会で発表されて以来、学会発表論文として他の専門家による吟味も受け、研究を重ねた科学的根拠をもつ手法である。コンピュータによる筆跡の相違度の客観的な計測の結果、99.9%の識別精度で脅迫状を書いた犯人と石川さんは別人であるとした福江鑑定の結論は科学的根拠があり揺るがないことは明らかだ。
福江鑑定は具体的に確率を示して別人であると考えるのが合理的だと結論づけている。同じ人でも書きムラがあり、書くたびに筆跡にズレが生じる。福江鑑定は、脅迫状と石川さんが書いた文書のズレ量(筆跡の相違度)が同一人の書きムラである確率を客観的な計測結果から示している。たとえば、上申書と脅迫状のズレ量が同じ人の書きムラである確率は0.00000000023%である。この結果について検察側意見書は何も言及していない。検察側意見書は誤っており、石川さんが脅迫状を書いた犯人ではないことは明らかだ。
齋藤指紋鑑定は、指紋検出実験にもとづいて、脅迫状から石川さんの指紋が検出されていないことは石川さんが脅迫状に触れていないことを示しているということを指摘したものである。具体的には、石川さんと20代、30代の被験者2人が、自白内容と有罪判決の認定にもとづいて、脅迫状や封筒を作成し、日付や宛名の訂正、あるいは折るといった行為をおこない、当時と同じ方法で指紋検出をおこなったところ、石川さんを含む3人のいずれも手指が触れた多数の痕跡と本人のものと合致が確認できる複数の指紋が検出されている。この鑑定結果は、脅迫状・封筒から石川さんの指紋が検出されていないことは、石川さんが脅迫状・封筒に触れていないことを実証的に示しており、有罪判決のように「指紋は常に検出が可能であるとはいえない」といった一般論ではごまかせない。石川さんが脅迫状・封筒に触れたことに合理的な疑問が生じるということは、筆跡・識字能力鑑定(石川さんには書けなかった)や福江鑑定(筆者は別人)などとあわせて、石川さんと脅迫状がまったく結びつかないこと、石川さんが脅迫状を書いて届けた犯人でないことを完全に明らかにしている。脅迫状を有罪証拠の主軸とした寺尾判決は完全に崩れている。
弁護団は重要な無実の新証拠をあいついで提出している。第3次再審請求で提出された新証拠は220点におよぶ。検察官からも反証の意見書が出されており、鑑定人尋問は不可欠だ。今後、事実調べを求める世論を大きく広げなければならない。各地でこの間提出された福江鑑定、下山第2鑑定、平岡鑑定、さらに齋藤指紋鑑定、福江意見書などの新証拠の学習・教宣を強化し、再審開始を求める取り組みをすすめよう。
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