(月刊「狭山差別裁判」491号/2019年4月)
弁護団は4月1日に再審請求の新証拠として原・厳島鑑定を提出した。原・厳島鑑定は心理学者が探索についての実験をふまえて狭山事件における万年筆発見経過の疑問を指摘したものである。
狭山事件では、被害者の万年筆が石川さんの自白にもとづいて自宅から発見されたとして有罪証拠とされた。しかし、万年筆が発見されたのは事件後2か月近く経過した6月26日で、警察はそれ以前に2度にわたって石川さん宅の家宅捜索をおこなっていた。しかも万年筆が発見された場所は、床からの高さ175・9センチ、奥行き8・5センチしかないお勝手場の入り口の鴨居の上だった。このような場所に置かれていた万年筆を警察官らが捜索で見落とすとは考えられない。弁護団が当時、家宅捜索に従事した警察官らに面会調査をおこなったところ、「鴨居に手を入れて調べたが何もなかった」「あとから万年筆が発見されたと聞いて不思議に思った」という元警察官の証言も明らかになった。狭山事件は警察庁長官が辞任し国会でもとりあげられる埼玉県警はじまって以来と言われた大事件だ。2回も家宅捜索がおこなわれ、それぞれ県内の各警察署から経験を積んだ警察官が集められ、1回目は12人で2時間、2回目は14人の警察官が2時間あまり捜索をおこなっている。徹底した家宅捜索がおこなわれたことは明らかだ。有罪判決の通りであれば、こうした捜索がおこなわれたにもかかわらず、鴨居の上の万年筆が発見されなかったということになる。これまでの有罪判決や再審棄却決定は、「(発見場所の)鴨居は背の低い人には見えにくいから警察官らが見落とした」「明るさや見る位置によっては見えにくい」「鴨居は見落とすような場所」などとして発見経過に疑問はないとしている。
今回、原・厳島鑑定では、狭山現地の復元された石川さん宅のお勝手場を使って大学生による探索実験をおこなっている。そして、鴨居の上の万年筆をふくめてボールペン、財布、大学ノート、腕時計をお勝手内に置いておき、被験者の大学生に当時の警察の捜索マニュアルにもとづいて捜索のやり方を事前に説明し、これら5点を探すように指示したところ、12人の大学生全員が30分以内に鴨居の上の万年筆を発見したのである。実験参加者の大学生は身長が170センチ以下で狭山事件の内容については知らない。家宅捜索の経験もない素人の大学生が30分以内で鴨居の上の万年筆を発見したという実験結果をふまえれば、狭山事件で1、2回目の捜索時に鴨居の上に万年筆があったにもかかわらず発見されなかったということを合理的に説明できないと鑑定書は結論づけている。実際の捜索は複数の警察官が2時間も万年筆を探す目的をもって逮捕した被疑者宅を探している。1、2回目の家宅捜索のときに鴨居に万年筆があったとすれば警察官らが発見していたはずであり、このとき鴨居に万年筆はなかったと言わざるをえない。万年筆は自白にもとづいてはじめて発見された「秘密の暴露」とはいえない。「見えやすいかどうか」ではなく警察官らの捜索で発見されないのかどうかを考えるべきなのだ。
万年筆については、昨年提出された下山第2鑑定が提出され、蛍光X線分析による元素分析で、発見万年筆に被害者が事件当時に使っていたインクが入っていないことが科学的に明らかにされている。これら新証拠を総合的に見れば、万年筆は自白によってはじめて被害者の所持品が発見された「秘密の暴露」とはいえない。万年筆発見によって自白は真実であるとは言えない。東京高裁第4刑事部(後藤眞理子裁判長)は、弁護団が提出した下山第2鑑定、原・厳島鑑定など新証拠を総合的に評価し、狭山事件の再審を開始すべきだ。
5月には狭山事件が発生し、石川さんが冤罪におとしいれられて56年目をむかえる。新証拠の学習と教宣を強化し、56年におよぶ冤罪の真相と石川さんの無実を訴え狭山事件の再審開始を求める世論を広げよう!
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