(月刊「狭山差別裁判」493号/2019年6月)
昨年6月11日、東京高裁第8刑事部(大島隆明裁判長)は、袴田事件の即時抗告審で、静岡地裁の再審開始決定を取り消し、再審を棄却する不当極まりない決定をおこなった。
2014年の静岡地裁の再審開始決定は、証拠開示された「5点の衣類」のカラー写真と弁護団がおこなった衣類の味噌漬け実験にもとづいて、「5点の衣類」の血痕の赤みが強いことから「1年以上も味噌タンクの中に漬けられていたにしては不自然である」としてDNA型鑑定とあわせて再審開始の理由とした。市民常識にかなった合理的な判断だ。ところが、東京高裁の棄却決定は、カラー写真が40年以上も前のものであり、劣化退色などの問題があり、5点の衣類の色合いを正確に表現したものとはいえないとして、再審開始決定の判断を否定している。しかし、黒くなった血痕の写真が40年経過すると「劣化退色」して赤くなるというのだろうか。「劣化退色」という抽象的な言葉で長期間味噌漬けになった衣類の血痕の色がこんない赤いはずはないという私たち市民の常識的な疑問を強権的に否定していると言わざるを得ない。有罪証拠に合理的な疑い生じれば再審を開始すべきだ。
袴田事件の再審請求では、東京高裁の即時抗告審の段階になって取調べ録音テープが証拠開示された。これらを分析し自白に信用性がないことを指摘した心理学者・浜田寿美男さんの鑑定について、高裁棄却決定は、取調べには「供述の任意性・信用性確保の点から疑問と言わざるを得ない手法が含まれていた」と認めながら、有罪判決は警察官作成の自白調書を証拠として犯人性を認定していないから、これらの新証拠は有罪判決の認定に合理的疑いを生じさせる証拠ではないとしている。これは問題のスリカエだ。また、弁護人の主張する5点の衣類がねつ造された可能性は、具体的な根拠に乏しく、いまだ抽象的な可能性をいうに過ぎず、捜査機関がねつ造した合理的疑いは生じないというが、全証拠の開示も保障しないで、弁護団に根拠に乏しいとするとするのは不当だ。拷問まがいの取調べをやっていた実態は証拠ねつ造をした疑いにつながるはずだ。再審は有罪判決に合理的疑いがないか新旧の証拠を総合的に判断するとした最高裁の白鳥・財田川決定に反する不当決定と言わざるをえない。
弁護団は、静岡地裁が証拠ねつ造の疑いを指摘したことを受けて、取調べ録音テープなどで明らかになった取り調べの実態から、警察官の偽証罪、特別公務員暴行凌辱罪などが成立するとして再審理由があるという申し立てを即時抗告審でおこなった。しかし、高裁決定は、即時抗告審は事後審であるから再審理由を追加することは適法ではないとしてしりぞけている。一方で高裁棄却決定は、即時抗告審で検察官があらたに証拠を提出して弁護側の新証拠に証明力がないことを争うことを認め、それを新証拠を否定する根拠としている。弁護側が開示された証拠などをもとにあらたに再審請求の主張をすることは認めず、検察官が証拠をあらたに出すことは許すというのは明らかに不公平だ。狭山事件でも、この間検察官は、弁護団が提出した新証拠に対して反証と称して専門家による意見書を提出している。検察官が公費を使って再審請求を妨害することが許されている現在の再審の手続きを根本的に公平・公正なものに変えていかなければならない。
再審開始に対する検察官の抗告の禁止、再審における検察官の証拠活動の制限、再審における証拠開示の保障、再審請求人の拡大など再審法改正が早急に必要だ。冤罪の真相を広く市民に訴え、狭山事件、袴田事件の再審無罪をともにかちとろう。
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