(月刊「狭山差別裁判」494号/2019年7月)
布川事件で再審無罪となった桜井昌司さんが、えん罪の原因を明らかにし、責任を問うためにおこした国家賠償請求訴訟で、さる5月27日、東京地裁民事第24部(市原義孝裁判長)は、国(検察)と県(警察)に違法行為があったとしてその責任を認め、計7600万円余の損害賠償の支払いを命じる画期的な判決をおこなった。判決は、警察が取調べで、桜井さんに対して「母親が早く自白するように言っている」「被害者宅前で(桜井さんを)見た人がいる」と言ったり、桜井さんが事件当夜のアリバイについて「兄のアパートにいた」と訴えたのに対して「兄は泊まっていないと言っている」と発言するなどして自白をせまったことを、「虚偽の事実を述べた」もので、このような取調べは「偽計を用いた」つまりだまして自白を強要したもので違法と断じた。警察官らは、取調べでそのような発言はしていないと主張したが、判決は、警察官が取調べ録音テープは1本しかないなどと法廷で虚偽の証言をしていたことに照らして信用できないと断じた。
こうしたウソをつき、自白を強要するやりかたは、狭山事件で石川さんに対する取調べでも同じだ。証拠開示された取調べ録音テープによって、「脅迫状を書いたことに間違いない」「議論の余地はない」「供述義務がある」などと自白を強要したり、自白しても死刑にならないようにしてやるといった虚偽自白がつくられる実態が明らかになっている。
今回の布川事件の国賠判決は、こうした密室の取調べ、自白に頼った捜査、裁判に警鐘を鳴らしたものだ。取調べの全過程の可視化や取調べへの弁護士の立ち合い、代用監獄の廃止などの司法改革が必要だ。
今回の布川国賠判決の重要な点は、検察官が証拠開示を拒否したことを違法としたことだ。布川事件では、被害者宅付近で桜井さんや杉山さんを見たという目撃証言が有罪の有力な証拠とされたが、再審段階で、捜査報告書が開示され、初期の段階ではそうした供述をしていなかったことが明らかになった。2人を見たという目撃証言の信用性を疑わせる証拠があり、公判で弁護側から開示を求められたにもかかわらず、検察官は関連性、必要性がないとして開示を拒否していたのだ。今回の判決は、こうした検察官の公判での活動を厳しく指弾し、違法行為と断じたのである。判決は、そもそも、検察官は「公益の代表者」として真相を明らかにする職責があり、裁判の結果に影響を及ぼす可能性が明らかな証拠は有利不利を問わず法廷に出すべき義務を負うと明言したうえで、証拠開示をしなかったことを違法と断じているのだ。検察官が「公益の代表者」であることを再確認し、真実発見のためには弁護側に有利な証拠も開示しなければならないということであり、判決の趣旨はすべての再審請求において証拠開示を進めるべきであることを示している。今回の判決は、桜井さんが一貫して訴えているように当事者が証拠を見ることができないなどということはおかしいという当たり前のことを認めたものだ。布川国賠判決をふまえて、再審における証拠開示や再審開始決定に対する検察官の抗告の禁止などの再審法の改正、冤罪をなくすための司法改革をさらにすすめよう!
今回の判決に対して検察、警察が反省・謝罪することもなく、東京高裁に控訴したことに強く抗議するとともに、控訴審に注目し、桜井さんの闘いに今後も連帯・支援していきたい。
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