(月刊「狭山差別裁判」498号/2019年11月)
狭山事件の再審請求で弁護団は、一貫して証拠開示を検察官に要求してきた。第3次再審請求においては裁判所に証拠開示の勧告を求め、刑事法学者である指宿信・成城大学教授の意見書を2通提出し、証拠開示の必要性を訴えた。東京高裁は証拠開示の勧告をおこない、これまでに191点の証拠が開示された。その中には取り調べ録音テープや石川さんの当時の筆跡資料(逮捕当日の上申書など)、「秘密の暴露」に関わる捜査報告書など重要な証拠が含まれ、その中から再審理由となる多くの無実の新証拠が発見されている。東京高検の物的証拠のリスト(領置票)も開示された。
足利事件ではDNA鑑定の再鑑定などによって再審が開始され、再審公判では取調べ録音テープが開示された。布川事件では隠されていた目撃証言や取調べ録音テープなどの証拠開示が再審のカギとなった。東住吉事件でも捜査報告書などの証拠開示が自白のウソを明らかにした。先般、再審無罪となった松橋事件でも証拠物を弁護団に開示したことが自白のウソを明らかにする物的証拠の発見につながった。
日本弁護士連合会はことし5月には、「再審における証拠開示の法制化を求める意見書」を決議し、「再審における証拠開示制度要綱案」を発表している。また、さる10月に徳島市で開催した第62回人権擁護大会で「えん罪被害救済にむけて」と題した分科会をもち、「えん罪被害者を一刻も早く救済するために再審法の速やかな改正を求める決議」を全会一致で採択した。布川事件の桜井さんや足利事件の菅家さん、東住吉事件の青木さん、志布志事件の藤山さん、川畑さんらは、石川さんや袴田さんらとともに「冤罪犠牲者の会」を結成し、えん罪当事者として司法改革を求める声をあげている。九州各県の再審弁護団や刑事法学者でつくる九州再審事件弁護団連絡会は以前から各国の制度研究や実際の再審事件の現状もふまえた再審法改正の提言を発表し国会議員に訴えてきているし、ことし5月には市民レベルでも「再審法改正を求める市民の会」が結成された。
再審における証拠開示の保障、再審開始決定に対する検察官の抗告の禁止、事実調べなど再審請求の審理手続きの整備を求めているほか、現在は本人の死後は直系親族しか認められていない再審請求権者を弁護士会会長などにも拡大することや憲法違反を再審の理由として明確化することなども求められている。これらは現行の再審制度の不備によって不公平、不公正な状況におかれているという各再審事件当事者の現実の声をふまえたものだ。
狭山事件の再審請求で石川さんは42年以上も再審を訴え、弁護団は数多くの新証拠、とくに専門家の鑑定を提出しているが一度も事実調べがおこなわれていないし、検察官は弁護団の新証拠について公費を使ってつぎつぎと反証を提出し、再審妨害をおこなっている。袴田事件や大崎事件、名張事件、福井事件など、いったん裁判所が再審(えん罪の疑い)を認めながら、検察官が抗告し、高裁や最高裁が取り消すということがおきている。市民常識としても人権擁護の観点からもこういう事態がおきないよう再審制度の改正は喫緊の課題だ。狭山第3次再審闘争の強化とともに、再審法改正の取り組みをすすめよう。国会議員に再審法改正を訴えよう。地方議会で再審法改正を求める意見書採択、議会決議を求めよう。
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