(月刊「狭山差別裁判」500号/2020年1月)
2019年末におこなわれた狭山事件の第3次再審請求の三者協議において、検察官が下山第2鑑定に対する反証のために被害者が使っていたものと同じクロム元素をふくむジェットブルーインクを次回の三者協議まで探し、次回の三者協議で検察官はクロム入りジェットブルーインクを入手できたかを明らかにすることになった。検察官は、インクが入手できなくても反証は出すという。そもそも、下山第2鑑定のポイントは、蛍光X線分析によって、被害者が事件当日に書いたペン習字の浄書のインクや被害者が使っていたインク瓶のインクにはクロム元素が含まれているが、石川さんの家から発見された万年筆で書いた「数字」(2016年に証拠開示された調書に添付されたもの)のインクからはクロム元素が検出されないことを明らかにしたことである。すなわち、発見万年筆が被害者のものではない重大な疑問が生じているということだ。
下山第2鑑定は2018年8月に提出され、検察官が反証を提出する、科学警察研究所で実験をおこなうと最初に述べたのは2018年12月の三者協議のときである。それ以来1年以上が経過している。弁護団はこれまで、どういう内容の反証を、いつ提出するのか、さらに、クロム入りのジェットブルーインクを入手してどのような実験をおこなうのか、検察官の手元にある、肝心の発見万年筆で書かれた数字や被害者が書いたペン習字浄書などのインクを調べたのか、などについて検察官に回答を求めたが、検察官は明らかにしていない。弁護団は、下山第2鑑定のポイントは発見万年筆できたい数字にクロムがふくまれているかどうかであることを裁判官にも理解を求めた。
わたしたちは、下山第2鑑定が明らかにした万年筆の疑問を広くアピールし、東京高裁が鑑定人尋問をおこなうよう世論を大きくすることが重要である。
万年筆は2度の徹底した家宅捜索の後に事件後2か月近くたって石川さんの家の高さ175.9センチ、奥行き8.5センチのカモイの上から発見され、その際に警察官は発見場所の写真も撮らず、石川さんの兄に素手で万年筆を取らせている。石川さんの自白では、被害者の鞄を捨てるときに筆箱に万年筆が入っていることに気づき自宅に持って帰ってお勝手入り口のカモイの上に置いていたということになっているが、この自白じたいが不自然だ。読み書きができず、ふだん字を書くこともなかった石川さんが、役にも立たない被害者の万年筆を殺害後に家に持って帰ることも、それを自宅の入り口に置いたままにしておくということも不自然な自白だ。弁護団は発見経過のおかしさを心理学実験にもとづいて客観的に指摘した原・厳島鑑定も提出している。裁判所は、これらの新証拠と下山第2鑑定を総合的に評価し、万年筆「発見」が自白の真実性を示す「秘密の暴露」とはいえないことを認め、狭山事件の再審を開始すべきである。
検察官は発見万年筆で書かれた数字や被害者のインク瓶などずっと証拠開示しなかった。証拠開示を必要性がないとして拒否してきたのだ。一方で、弁護団の新証拠に対して公費を使ってつぎつぎ反証を出している。他の再審でも、袴田事件や大崎事件では検察官の抗告によって裁判所がいったん認められた再審開始を取り消すことまでおこなわれている。証拠隠しや再審妨害は狭山事件だけではない。こうした人権擁護と程遠い司法の闇を多くの市民に知らせる必要がある。幅広い運動で国会を動かし、再審法改正を実現する年にしたい。
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