(月刊「狭山差別裁判」507号/2020年8月)
袴田事件の再審請求(最高裁の特別抗告審)で弁護団は、検察官が作成した自白調書の日付が改ざんされたものであることを明らかにした補充書を提出した。袴田事件では、1966年8月18日に袴田巖さんが逮捕され、勾留期限の3日前の9月6日にはじめて自白したとされ、警察官、検察官作成の調書が、起訴される9月9日までに11通、起訴後10月13日までに34通、あわせて45通もの自白調書が作成された。しかし、これらの自白調書は、残暑の厳しい中で、清水警察署の代用監獄で連日の長時間の取調べで作成されたものだった。逮捕から起訴までの取調べ時間は1日平均12時間、一方で、この間の弁護士との接見はわずか3回、接見時間は32分間だけだ。
1審・静岡地裁の判決は、45通の自白調書のうち警察官が作成した調書28通すべてを任意になされたことに疑いがあるとして証拠から排除、また、検察官が起訴後に作成した16通の調書についても、憲法違反の取調べとして証拠から排除している。ところが、起訴前の9月9日の検察官作成の自白調書だけは証拠として認め、自白に任意性があるとして死刑判決の根拠としたのだ。今回弁護団が日付の改ざんを指摘した調書は、この検事調書である。そもそも、同じ9月9日の午前中と深夜に取調べた警察官の作成した自白調書には任意性がないとしながら、その間でおこなわれた検察官の取調べで作成された自白調書は任意性があるというのは、あまりに強引な認定ではないか。検察官と警察官が一体となって自白をとっていることは明らかだ。
自白調書すべてを排除すれば有罪にすることができないので、検事調書1通だけを採用して任意になされた自白があると認定し、無理やり死刑判決をおこなったとしか考えられない。この判決を書いた熊本典道・元裁判官は袴田さんの無罪を主張したが、2対1で評議に負けて死刑判決を書いたと告白した。証拠開示された取調べ録音テープで、弁護士との接見を盗聴したり、取調べ中トイレにも行かせなかったことなど人権無視の違法な取調べの実態が明らかになっている。自白強要の取調べ、違法捜査は、証拠ねつ造の疑いにもつながる。
袴田事件の再審(特別抗告)を審理している最高裁第3小法(林道晴裁判長)は、憲法の番人のはずだ。弁護団の主張を受け止め、数々の違法捜査の実態に目を向け、この改ざんの疑いのある調書を作成した検察官の証人尋問をするなどして再審を開始すべきである。
人権無視の取調べ、違法捜査は狭山事件でも同じだ。石川一雄さんは5月23日に別件で逮捕され、女子高校生殺害のきびしい取調べを受け、6月20日にウソの自白をさせられている。第3次再審で証拠開示された自白直前の取調べ録音テープで、自白強要の実態が明らかになった。
また、スコップ、手拭いなど、被差別部落に対する偏見を利用した見込み捜査の実態も証拠開示された捜査報告書で明らかになっている。見込み捜査、代用監獄での自白強要の取調べ、証拠ねつ造、冤罪が作り出される構造は同じだ。
石川一雄さん、石川早智子さん、袴田ひで子さん、袴田巖さんは、冤罪を晴らすまで闘う決意を訴えている。再審を実現し、冤罪を晴らすまで、ともに闘っていこう。第4次再審が申し立てられた大崎事件など、ほかの再審の闘いと連帯し、再審法改正をめざし、司法を変える幅広い大きな運動をつくっていこう。
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