(月刊「狭山差別裁判」509号/2020年10月)
狭山事件で確定有罪判決となっている東京高裁の無期懲役判決、いわゆる寺尾判決は、被害者の万年筆が自白通りに石川さんの自宅から発見されたことを有罪の決め手の一つとしている。しかし、この発見万年筆のインクが被害者が使っていたインク瓶のインクと異なることが事件当時の科学警察研究所の鑑定で明らかになっていたが、これまでの裁判所は、異なるインクが補充された可能性があるとして、有罪を維持してきた。
第3次再審請求では証拠開示がすすみ、2010年に発見万年筆で書いた数字が証拠開示された。これは事件当時に被害者の兄が紙に発見万年筆で1から10までの数字を4行書いたものだ。下山鑑定人が、蛍光X線分析装置を使って検察庁で、この数字のインク、被害者が事件当日の授業で書いたペン習字浄書のインクに含まれる元素分析をおこなったところ、被害者が事件当日に万年筆で書いたペン習字浄書のインクからはクロム元素が検出されたが、石川さんの家から発見された万年筆で書いた数字のインクからはクロム元素が検出されなかったのだ。
この下山第2鑑定の結果を普通に考えれば、発見万年筆は被害者が当日まで使っていた万年筆ではないということになる。違うインクを補充しても元のインクの元素は残っているので、クロム元素がないということはインクの補充では説明できないからだ。有罪判決の決め手とされた万年筆が被害者のものであるということに合理的疑いが生じたのだから再審を開始すべきである。
検察官は7月に提出した意見書で、被害者が使っていた万年筆インクに含まれるクロム元素が、発見万年筆のインクから検出されなかったという下山第2鑑定の結果に科学的な反論をせず、被害者が万年筆を洗ったからクロム元素が検出されなかったという言い訳を言い出しているという。しかし、被害者が万年筆を洗ったなどということは何の根拠もないことだ。被害者が万年筆を洗っているのを見たという人がいるわけでもない。発見万年筆のインクにクロム元素が含まれないことを否定できず、ただの憶測でインクの決定的な違いをごまかそうとしているだけだ。石川さんの家から発見された万年筆が被害者のものであるという客観的な証拠は何もない。
狭山事件の再審請求を審理する東京高裁第4刑事部の大野勝則裁判長は、客観的事実にもとづいて判断すべきだ。下山第2鑑定の結果を正しく判断し、再審を開始するよう求めたい。
万年筆に関しては、2度にわたる警察の家宅捜索の後でお勝手入り口の鴨居の上から発見された経緯の不合理性を探索実験にもとづいて指摘した原・厳島鑑定も提出されている。これまでの有罪判決や再審棄却決定は、万年筆のあった鴨居の上は見えにくいから警察官らは見落とした、鴨居の上は「見落としやすい場所」などとして2回の捜索で万年筆が発見されなかったことは不合理ではないとしてきた。しかし、警察官が目的のものを捜索で探すときに「見えにくいかどうか」は問題ではないだろう。見えにくい場所でも探すのが捜索のはずだ。
2回の捜索で鴨居の上に置かれた万年筆が発見されなかったことはきわめて不合理だ。「万年筆発見」を自白が信用できる根拠にすることはできない。有罪判決は完全に崩れている。
東京高裁第4刑事部・大野勝則裁判長に鑑定人尋問、再審開始を求める世論をさらに大きくしていこう。
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