(月刊「狭山差別裁判」511号/2020年12月)
狭山弁護団は、この年末に開かれる三者協議の前に足跡鑑定や検察官意見書の誤りを明らかにした新証拠を提出する。今後、鑑定人尋問を請求し、再審開始を求めることにしている。ことし3月に第4次再審請求が申し立てられた大崎事件では、先日の三者協議で提出された新証拠にかかわる鑑定人尋問を鹿児島地裁がおこなうことが決まった。狭山事件では、1977年に石川さんが再審を申し立てて以来、43年以上も再審請求が続けられ、弁護団は多くの新証拠を提出してきたが、一度も鑑定人尋問がおこなわれず、2次にわたる再審請求はいずれも抜き打ち的に棄却されている。
狭山事件の再審請求における裁判所のやり方は、とうてい公正、公平なものとはいえない。第3次再審では、東京高裁が弁護団が求める鑑定人尋問を必ずおこなうよう強く求めたい。
現行の再審の手続きを定めた法律がほとんどないことが、無実の人を冤罪から救済するのに長い期間がかかってしまうことになっている。ドイツなどの再審手続きでは、裁判所が証拠調べをおこなうことなどが法律で定められているという。日本においても再審法改正が急務である。
再審という制度は誤った裁判から無実の人を救済するための制度である。現在の再審は有罪判決に対する再審(裁判やり直し)だけであり、無罪判決に対する再審や不利益な変更を求める再審は認められていない。だとすれば、再審開始決定に対する検察官の抗告を禁止することが再審の理念に合致するのではないか。現行の再審手続きは再審開始が確定したら、その後に再審公判(やり直しの裁判)がおこなわれる2段階の手続きになっている。再審開始決定が出されれば、すみやかに再審公判にすすむことが合理的であろう。
93歳になる原口アヤ子さんが冤罪を叫びつづけている大崎事件は、鹿児島地裁、福岡高裁が再審開始を決定したにもかかわらず検察官が抗告し、昨年、最高裁が再審を取り消し、棄却するという前代未聞の不当決定をおこなった。
84歳になる袴田巌さん、87歳になる姉の袴田秀子さんが冤罪を訴える袴田事件では、静岡地裁が再審開始決定を出したにもかかわらず、検察官が即時抗告し、東京高裁が再審開始を取り消す不当決定をおこなった。現在、弁護団は最高裁に再審を求めているが、信じ難いことに、検察官は袴田さんを死刑囚として拘置所に再収監するよう求めている。こうした再審の理念にも反する検察官の不当なやり方はすみやかに禁止するべきだ。ドイツでは1964年に法改正がなされ、検察官の不服申し立てが禁止されているという。
具体的な再審事件の教訓をふまえて再審法改正を研究してきた九州再審弁護団連絡会は、再審における証拠開示手続きを明記することや、検察官上訴の禁止、再審請求権者の拡大(公益的請求人の追加)、憲法違反が再審理由となることの明記などの法改正を提言している。
また、冤罪当事者も参加して「再審法改正を求める市民の会」も結成され、証拠開示の権利、検察官の不服申し立ての禁止のほか再審手続きの整備を訴えている。
再審法改正は国会の責任である。国会議員が具体的な再審事件の現実を知り、法改正をすすめるべきである。再審法改正は狭山再審の闘いにとっても重要な課題だ。わたしたちは、狭山事件の第3次再審請求で、東京高裁に鑑定人尋問、証拠開示勧告を求めるとともに、再審法改正を国会議員に訴えていこう。
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