(月刊「狭山差別裁判」513号/2021年2月)
昨年末に弁護団は、スコップについて、検察官の意見書の誤りを明らかにした平岡第3意見書を提出した。寺尾判決は、死体発見現場近くで発見されたスコップが死体を埋めるのに使われたもので、石川さんが以前働いていた養豚場のものを盗んで使ったと認定し、有罪の根拠とした。スコップが死体を埋めるために使われたとする根拠となったのが埼玉県警鑑識課の星野鑑定である。弁護団は第3次再審で、平岡義博・立命館大学教授による鑑定を2018年7月に提出した。平岡鑑定人は、長年京都府科学捜査研究所で科学捜査に従事し、『土の分析法』という専門書も出版されている元科捜研技官である。平岡鑑定は、星野鑑定が、スコップ付着の赤土と死体発見現場付近の穴から採取した黒土を類似性が高いとしているが、土の色は関東ロームと言われる土か、黒ボク土といわれる腐食の進んだ土かという成因の違いを意味するもので、赤土と黒土を類似するとした星野鑑定の結論は基本から誤っていると指摘した。弁護団は現場周辺の地質学的な調査もふまえた平岡第2意見書を18年12月に提出、検察官は、これに対する意見書を20年7月に提出した。そもそも、発見スコップが死体を埋めるのに使われたものとする有罪判決の根拠となった星野鑑定は、スコップ付着の土と死体発見現場の土ではなく、その近くに掘った穴から採取した土と比較し、類似する土があったとしている。平岡鑑定人は第1意見書から、対照資料として死体発見現場そのものの土と比較しなければ意味がないことを指摘していた。これについて、検察官意見書は、「死体発見現場付近の穴から土を採取しており鑑定資料として適格性に問題はない」とした最高裁の上告棄却決定(1977年8月)を引用し、比較対照した土が「死体発見現場付近」の土であり、死体発見現場と「別の場所」(の土)であることを前提にした平岡第2意見書の指摘には理由がないなどと主張した。
平岡第3意見書では、さらに狭山市の地質などの調査分析をすすめ、死体発見現場付近は地形の形成過程から非常に複雑な堆積の様相をしており、対照資料の土を採取した穴が死体発見現場の近距離であったとしても、土の堆積状況がまったく異なる可能性が高いことを指摘している。星野鑑定には、比較対照する土を採取した穴の西側の断面図だけが書かれているが、その図でも黒土の層の中に赤土が挿入するように書かれており、黒土しかない地層が近くにあったことを示している。つまり近くの穴の土だから対照資料にしてもいいというものではないのである。星野鑑定が有罪証拠たりえないことは明らかだ。
星野鑑定には穴の中などの写真やその他の断面の地層がどうなっていたかの図も添付されていない。掘った穴の位置を特定する記載もなく、なぜ、死体が埋められていた穴そのものの土を採取せず、別のところに穴を掘って対照資料を採取したのか、その理由も書かれていない。死体発見の際に土が埋め戻されているとしても、発見現場の穴の四方がどういう地層、地質なのかを確認し、そこから土を採取することはできたはずだ。
弁護団は、なぜ死体発見現場そのものから土を採取しなかったのかなど鑑定経過を明らかにする必要があるとして、星野鑑定がスコップ付着の土の対照資料として死体発見現場付近から土壌を採取した際の捜査報告書類、採取記録(穴などの写真、ネガ、スケッチ等)や採取現場を指示した書類などを開示するよう求める証拠開示勧告申立書を東京高裁に昨年末、提出した。専門家である平岡鑑定人の指摘を確認するとともに、有罪の根拠となった警察の鑑定の信用性を再評価し、再審開始すべきかどうかを判断するうえで、これらの資料の開示は重要である。検察官に証拠開示を勧告するよう東京高裁・大野裁判長に強く求めたい。
証拠開示の義務化など誤判救済のための法改正を求めよう。
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