(月刊「狭山差別裁判」515号/2021年4月)
寺尾判決(狭山事件の有罪確定判決)は、筆跡の一致や足跡、スコップなど石川さんと犯行を結びつける客観的証拠があるとしたうえで、自白が真実であることを示す根拠として、自白通りに被害者の所持品の万年筆、カバン、腕時計が発見されたことをあげている。自白によってはじめて発見されたから自白は信用できるというのである。
第3次再審請求で、狭山弁護団は、有罪の決め手の一つとされた万年筆について、2018年8月に下山第2鑑定を提出し、被害者の所持品であるとはいえないことを指摘した。下山第2鑑定は、蛍光X線分析によって、石川さんの家から発見された万年筆で事件当時に書かれた数字のインク、被害者が事件当日に学校で書いたペン習字浄書のインク、被害者が使っていたインク瓶のインクの元素を調べ、ペン習字浄書やインク瓶のインクにはクロム元素が含まれているが、発見万年筆のインクからはクロムが検出されなかったことを明らかにしたものである。被害者が使っていた元のインクが入っていないのであるから、別のインクを万年筆に補充したというこれまでの棄却決定の言い方ではインクが異なることを説明できないことは明らかだ。
これにたいして検察官は、当初、実験などをおこない反論するとしていたが、結局、2年近くが経過した2020年5月に検察官の意見書だけを提出した。検察官意見書は、インクからクロム元素が検出されなかったという下山第2鑑定の結果については争わず、クロム元素が検出されなかったのは、被害者が万年筆の水洗いをしたうえで別のインクを級友から借りて入れたからであると主張している。事件から57年目にしてまったくあらたな主張をしてきたのだ。
しかし、被害者は事件当日のペン習字でクロムを含むインクを使っているので、検察官の主張は、ペン習字の授業後に万年筆を水洗いして別インクを入れたということになるが、それを裏付ける証拠は何もない。弁護団は、反論の補充書で、「水洗いして別インクに入れ替える」という検察官のあらたな主張は、何も根拠はなく、検察官の憶測の積み重ねだけであることを厳しく指摘している。そもそも、被害者が使っていたインクが入っておらず、別のインクが入っていた万年筆を被害者のものであるとどうして言えるのか。
発見万年筆が被害者の所持品であるという確たる証拠は何もないと言うべきである。下山第2鑑定によって発見万年筆が被害者のものであることに合理的疑いが生じており、これが石川さんの家から発見されたことを有罪の根拠とした寺尾判決の誤りは明らかだ。この万年筆が石川さん宅のお勝手場の入口の鴨居の上から2か月近く経って発見されたことにも疑問があることは、弁護団が提出した原・厳島鑑定によって明らかにされている。
狭山事件は石川さんが冤罪におとしいれられて58年になろうとしている。第3次再審請求を審理する東京高裁第4刑事部(大野勝則裁判長)は、鑑定人尋問をおこない、狭山事件の再審を開始すべきである。わたしたちは、石川さん不当逮捕58年の節目をむかえて、狭山パンフや取調べDVDなどを活用し、冤罪がいかに作られていったか原点にかえって学習するとともに、弁護団が提出した新証拠の学習、教宣を強化し、石川さんの無実と狭山事件の再審開始を訴えよう。冤罪・狭山事件の真実を訴えるパネル展や狭山映画の上映会を開催しよう。東京高裁に鑑定人尋問と再審開始を求める世論をさらに大きくしよう。
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