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主張&声明

検察官は証拠開示請求に誠実におうじよ!
「不見当」だけでは納得できない。証拠リストを開示すべきだ!

(月刊「狭山差別裁判」518号/2021年7月)

 寺尾判決は、死体発見現場近くで発見されたスコップが死体を埋めるのに使われたもので、石川さんが以前働いていた養豚場のものを盗んで使ったと認定し、有罪の根拠とした。スコップが死体を埋めるために使われたとする根拠となったのが埼玉県警鑑識課の星野鑑定である。弁護団は第3次再審で、平岡義博・立命館大学教授(元京都府科学捜査研究所技官)による鑑定を2018年に提出した。

 星野鑑定は、スコップ付着の赤土と死体発見現場付近の穴から採取した黒土を類似性が高いとしているが、平岡鑑定は、土の色は関東ロームと言われる土か、黒ボク土といわれる腐食の進んだ土かという成因の違いを意味するもので、これを類似するとした結論は誤っていることを指摘した。また、星野鑑定は、スコップ付着の土と比較する対照資料として、死体発見現場の土ではなく、その近くに穴を掘って採取した土と比較し、類似する土があったとしており、対照資料として死体発見現場そのものの土と比較しなければ意味がないことを平岡鑑定人は指摘した。

 これにたいして、検察官は2020年7月に意見書を提出した。検察官意見書は、「星野鑑定は、死体を埋めた穴附近から土壌を採取して鑑定資料としていることは明らかであるから、資料の適格性に疑問はない。」という最高裁の上告棄却決定(1977年8月9日 最高裁第2小法廷)を引用し、平岡鑑定の指摘に反論している。最高裁が「資料の適格性に問題ない」と言っているのだからというだけだ。

 弁護団が昨年末に提出した平岡第3意見書では、さらに調査分析をすすめ、死体発見現場付近は地形の形成過程から非常に複雑な堆積の様相をしており、対照資料の土を採取した穴が死体発見現場の近距離であったとしても、土の堆積状況がまったく異なる可能性が高いことを指摘している。専門家による新たな科学的な分析、鑑定によって、附近の土と比較しても問題ないという上告棄却決定の誤りが明らかになっているのだ。星野鑑定に証拠価値がなく、寺尾判決に合理的疑いが生じていることは明らかだろう。

 発見されたスコップが本当に犯人が死体を埋めるために使ったものなのかという犯人特定のための犯罪捜査の鑑定である。死体発見現場附近とはいったいどこの土を採ってきて鑑定したのか、なぜ死体発見現場そのものから土を採取しなかったのか、市民感覚としても、だれもが疑問を持つであろう。スコップをめぐっては、発見直後に、被差別部落のI養豚場のものと発表し、I養豚場と結びつけようという捜査がおこなわれていること、被差別部落に対する見込み捜査が開示証拠から浮かび上がっているのだからなおさらである。

 弁護団は、昨年末に鑑定対照資料の採取場所を特定するための捜査資料などの証拠開示を求めたが、検察官はさる5月に「弁護人が開示を求める証拠で未開示のものは見当たらない」という回答だけの意見書を提出した。あまりに不誠実ではないか。埼玉県警やさいたま地検など、どこにある、どのような捜査記録を調べたのかも明らかではない。検察官手持ち資料でスコップに関わる一覧表(リスト)を作成して弁護側に提示すべきではないか。

 弁護団は、寺尾判決、最高裁決定に合理的疑いがあるかどうかを判断するために役立つ証拠の開示を求めている。東京高裁も積極的に開示を勧告するよう求めたい。


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