(月刊「狭山差別裁判」519号/2021年8月)
狭山事件の再審請求は1977年8月からまる44年におよぶ。弁護団は、有罪判決の誤りを明らかにする新証拠を提出してきたが、これまでの裁判所は新証拠をしりぞけ再審を棄却してきた。
しかし、棄却決定は誤りである。たとえば、石川さんの家から発見され、有罪の証拠とされた万年筆について、弁護団は、事件当時の科学警察研究所のインクの鑑定などをもとに、被害者が使っていたインクと異なるインクが入っており、被害者のものと言えないと主張したが、裁判所は「(被害者が別のインクを)補充したという推測を容れる余地も残されていないとはいえない」「(別の)インクが補充された可能性がある以上、本件万年筆が被害者の万年筆ではない疑いがあるとはいえない」などとして再審を棄却している。しかし、このような棄却決定の言い方は、「再審を認めないという結論ありき」「有罪判決維持ありき」の論法であって、「疑わしいときは被告人の利益に判断する」という鉄則は再審にも適用されるとした最高裁判例に明らかに反している。
弁護団が第3次再審で提出した下山第2鑑定は、発見万年筆のインクに被害者が使用していたインク固有の元素であるクロムが含まれていないことを蛍光X線分析で明らかにしている。別インクを補充しても元のインクのクロム元素が検出されなくなるとは常識的に考えられないから、これまでの棄却決定が言ってきた「別インクの補充の可能性」ではインクの違いは説明できない。そもそも証拠の万年筆が被害者のものであるという確たる証拠はない。有罪証拠が被害者のものであることに合理的疑いが生じているのであり、再審を開始すべきである。
有罪判決は脅迫状と石川さんの筆跡が一致するということを主軸の証拠としたが、その根拠は、埼玉県警鑑識課や科学警察研究所の技官が作成した筆跡鑑定だ。弁護団は、再審請求でこれら有罪の根拠とされた警察の鑑定がズサンで証拠価値がないことを明らかにする専門家の鑑定を提出してきたが、これまでの棄却決定は、鑑定人の尋問もおこなわず、伝統的な鑑定方法による警察の筆跡鑑定を一方的に持ち上げて、弁護側の筆跡鑑定をしりぞけている。鑑定人尋問もおこなわずに、弁護側の新証拠を否定するやり方は一方的で、あまりに不当と言わざるをえない。
弁護団が第3次再審で提出した福江鑑定は、「字は書くたびに違う(書きムラがある)」ことを前提にして、「同一人の書きムラ」か「別人の筆跡の相違」なのかをコンピュータを用いた客観的な計測にもとづいて判定し、脅迫状と石川さんの上申書を別人による文書と鑑定している。弁護側鑑定が指摘した筆跡の相違を「字は書くたびに違うから、筆跡に相違があるからといって別人とはいえない」などとしてきたこれまでの棄却決定の誤りは明らかだ。
また、これまでの棄却決定は、殺害現場、殺害方法、死体運搬、逆さづりなどの自白のおかしさを示す新証拠について、総合的に評価していない。再審は無実の人を誤判から救済するための人権の制度である。これまでの棄却決定は再審の理念に反している。
狭山事件の再審請求は44年にもおよび、弁護団は多くの新証拠を提出し、石川さんはずっと無実を叫び続けている。しかし、狭山事件の再審請求ではこれまで一度も事実調べがおこなわれていない。東京高裁第4刑事部(大野勝則裁判長)は、この第3次再審請求で再審の理念をふまえ、鑑定人尋問をおこない、狭山事件の再審を開始すべきである。狭山事件の再審開始を求める世論を大きくするとともに、再審における証拠開示や事実調べを保証する再審法の改正を求めて国会議員へ働きかけよう。
月刊「狭山差別裁判」の購読の申し込み先
狭山中央闘争本部 東京都中央区入船1−7−1
TEL 03-6280-3360/FAX 03-3551-6500
頒価 1部 300円