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主張&声明

狭山事件の有罪判決=寺尾判決の誤りは新証拠によって明らかだ!
東京高裁は鑑定人尋問をおこない再審を開始すべきだ!

(月刊「狭山差別裁判」520号/2021年9月)

 狭山事件で確定有罪判決となっている東京高裁の無期懲役判決、いわゆる寺尾判決から47年になる。寺尾判決は、石川さんと犯行を結びつける7つの客観的証拠があるとして、脅迫状と石川さんの筆跡の一致、現場足跡と石川さん宅の地下足袋の一致、犯行に使われた手拭い・タオルの入手可能性、血液型の一致、死体埋設に使われたスコップは石川さんがかつて働いていた養豚場のものであること、目撃証言、犯人の声との一致をあげている。これらの認定の根拠は、埼玉県警鑑識課員や科学警察研究所の技官による鑑定やあるいは検察官の主張だ。石川さんを別件逮捕して自白を追及している段階の捜査機関による鑑定だ。

 先入観や思い込み、予断や偏見によって認識に歪みがおきることは「バイアス」と言われ、アメリカなどでは科学的な証拠と言われるものにこうした「バイアス」の影響がないか厳正に検討がなされるようになっている。実際に捜査機関による不正行為が発覚したこともあるからだ。狭山事件でも、真犯人を追う客観的な科学捜査ではなく、石川さんと犯行を結びつけようという捜査本部の意向に従い鑑定が作られえていったことは、筆跡やスコップをめぐる捜査で明らかになっている。

 また、有罪の根拠となった警察の筆跡鑑定は、石川さんの書いたものから都合のいい字を抜き出して、脅迫状の字と見比べて、この字とこの字のココが似ているというものだ。しかも鑑定人の主観的な判断に過ぎず、なんら客観性、科学性は保障されていない。ところが、寺尾判決は、警察の筆跡鑑定法は勘(かん)に頼るものだが、経験の積み重ねのうえになされているので非科学的とはいえないとして、筆跡の一致を有罪証拠の主軸としている。寺尾判決は、結論ありきで警察の鑑定は間違っていないと決めつけて言っているだけなのだ。

 スコップについても、死体を埋めるのに使われたスコップは被差別部落出身のIさんの養豚場のもので、石川さんが盗んで使ったというだけで、その根拠とされた県警鑑識課員の鑑定が本当に科学的で正しいか何も検討されていない。弁護団が第3次再審で提出した、元京都府警科捜研技官の平岡鑑定人による鑑定書は、警察の鑑定では、スコップが死体を埋めるのに使われたともI養豚場のものとも特定できないと指摘している。科学捜査とされた狭山事件における警察の鑑定はどれもズサンで誤っていることが新証拠によって明らかになっている。

 東京高裁第4刑事部(大野勝則裁判長)は、弁護団が提出した科学的な鑑定をふまえて、警察の筆跡鑑定、足跡鑑定、スコップ付着物の鑑定など有罪の「客観的証拠」とされたものが、本当に客観的、科学的と言えるのか、石川さんと犯行を結びつける有罪証拠と言えるのか、厳密に再評価すべきだ。

 狭山事件の第3次再審請求では、裁判所の勧告によって、石川さんが逮捕当日に書いた上申書や取調べの録音テープなど多数の重要な証拠が開示された。弁護団が提出した福江鑑定、下山第2鑑定、森鑑定、浜田鑑定などの新証拠はいずれも開示された証拠にもとづいている。これらの開示証拠は寺尾判決当時には明らかになっていなかったものだ。再審請求の審理においては、提出された新証拠が裁判中に出されていたとしたら、有罪判決の認定になったかどうかという観点で、新証拠と旧証拠を総合的に見て、判決に疑問があるかどうかを判断するとされている。

 大野裁判長は「無実の人を冤罪から救済する」という再審の理念、「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則に従って、鑑定人尋問をおこない、狭山事件の再審を開始すべきである。寺尾判決の誤りを明らかにし、狭山事件の再審を求める世論を広げよう。再審における証拠開示や事実調べを保証する再審法の改正を求めて国会議員へ働きかけよう。


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