(月刊「狭山差別裁判」527号/2022年4月)
「平成16年7月に刑事に自白したことを後悔し、気に病んでいるかもしれません。ただ、西山さんがうそをついたからといって、西山さんのせいにすることはできません。本質的に問われるべきは捜査手続きのあり方です。自白について慎重なうえにも慎重に検討を重ねるべきでした。(医師の鑑定結果)そのものも慎重に検討されたのか重大な疑義があります。逮捕から15年以上経って、初めて開示された証拠もありました。西山さんの取り調べや証拠開示など一つだけでも適切に行われていれば、西山さんが逮捕・起訴されることもなかったかもしれません。
西山さんとご家族もつらく苦しんだと思います。時間を巻き戻すことはできません。問われるべきは捜査のあり方、裁判のあり方、刑事司法のあり方。大切な問題提起をしていることは間違いありません。刑事司法にはまだまだ改善する余地があります。刑事司法に携わる関係者が自分のこととして考え、刑事司法の改善に結びつけていかなければならないと思っています。西山さんの15年を無駄にしてはならないと思います。今回の再審は、これからの刑事司法をよい方向に変えていく大きな原動力になります。一方で、男性患者のご家族のことを忘れてはならないと思います。
『一人一人の声を聞いて審理していただきたい』という西山さんの話に驚きました。当たり前のことだと思っていますが、私自身、西山さんの発言を聞いて一人一人の声を聞く重要性を再確認しました。15年あまり、さぞつらく苦しい思いをしてきたと思います。もう西山さんはうそをつく必要はありません。これまで裁判を通して支えてくれる人に出会ったと思います。これからは自分自身を大切に生きてもらいたいです。今日がその第一歩となることを願っています。」
2003年に滋賀県でおきた冤罪事件である湖東事件で、大津地裁の大西直樹裁判長が、2020年3月に、冤罪犠牲者の西山美香さんに再審無罪判決を言い渡した後の説諭で述べた言葉(要旨として新聞報道されたもの)だ。このように冤罪を真剣に反省し、司法関係者すべてが教訓にしなければならないと述べる裁判官がいる。浦和地裁、東京高裁の裁判官や最高裁調査官などを務めた木谷明さんは著書で、冤罪は警察や検察の違法行為によってつくられ、それを見抜けない裁判所の罪も一層重いと厳しく指摘する。冤罪はあってはならない、冤罪を許してはならないという強い思いを持つ裁判官もいる。
しかし一方で、この間の再審請求を棄却する決定を見ると、有罪と判断した裁判官が間違っているはずはない、冤罪などないという結論ありきで、科学的な証拠について事実調べなどの十分な審理も、すべての証拠の総合評価もおこなわない裁判所も多い。長らく冤罪の取材をしてきたジャーナリストの里見繁さんは、なぜ裁判官が冤罪を見抜けないのか、裁判官と市民常識とがこうもズレるのか、疑問を投げかける。証拠と理屈で裁判官を説得するとともに、冤罪の教訓と人権の大切さを裁判官に届くように訴えていくしかない。
石川一雄さん、袴田巖さん、原口アヤ子さんなど無実の人を冤罪から一日も早く救済するために、再審の手続きを公平、公正なものに変えていくこととともに、裁判官、検察官、検察官をふくむ司法関係者の人権教育が必要だ。
西山美香さんや東住吉冤罪事件の青木惠子さんは、冤罪の原因と警察、検察の責任を明らかにし、冤罪をなくすための司法改革、再審法改正を訴えて国賠裁判をたたかっている。支援・連帯しよう!
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