(月刊「狭山差別裁判」528号/2022年5月)
6月22日、鹿児島地裁(中田幹人裁判長)は、大崎事件の第4次再審請求を棄却する決定をおこなった。専門家による科学的新証拠も、あらたな供述分析鑑定も有罪の結論ありきで否定している。地裁、高裁の再審開始を事実調べもせず、理由も示さず取り消し、再審請求を棄却するという前代未聞の不当決定をした最高裁(第1小法廷・小池裕裁判長)を忖度したものと言うほかない。断固抗議する。
鹿児島地裁の棄却決定は、第4次再審で、弁護団が提出した救急救命医の鑑定が指摘した「亡くなった男性が酒に酔った状態で自転車に乗っていて溝に転落し頚髄(頸椎内の神経)を損傷し呼吸停止した可能性」を否定できないとしながら、この男性を運んだ住民2人の男性宅まで届けたときに生きていたという供述が十分信用できるから、新証拠によって確定判決に合理的疑いが生じているとはいえないとしている。専門家の科学的知見よりも「供述」の方が信用できるという決定だ。さらに、この2人の住民の供述をコンピューターを用いたテキストマイニングという方法で分析し、信用性に疑問があるとした専門家の鑑定にたいしては、他の証拠関係の内容や外在的事情を考慮していないので証明力はないと否定するだけで、結局、2人の供述が信用できるという根拠は示していない。
いわゆる最高裁白鳥決定は、新証拠が確定判決を下した裁判所の審理中に提出されていたら、有罪判決のような事実認定になったかどうかという観点から、新証拠と他の全証拠を総合的に評価して判断すべきだとし、その判断にあたっては、「疑わしいときは被告人の利益に」判断するというのが刑事裁判の鉄則であり、この鉄則は再審請求においても適用されるとした。今回の大崎事件の再審棄却決定は、最高裁の判例に明らかに違反している。
大崎事件の再審棄却決定にたいして、元裁判官らが抗議の声明を公表した。きわめて異例のことだ。大崎事件において3回も再審開始が出されながら、検察官の抗告によって取り消され、事件から40年以上も経過し、原口アヤ子さんが95歳になっても再審が実現しないということがそれほど異常な事態だということだ。
記者会見した木谷明元裁判官は、「(棄却)決定は新たに出された証拠と有罪が確定した裁判での証拠とを総合的に判断することをまったくしていない」と批判し、村山浩昭元裁判官は会見で「裁判官たちは必ず無罪になるという結論を導き出せないと再審を認めてはいけないという思いになってしまっているのではないか、時間だけが引き延ばされて、本来、救済されるべき人の命が尽きてしまうおそれもある。人権と正義に関わる問題だ」と指摘したと報じられている。(NHKウェブニュース)
わたしたちは、今回の大崎事件の不当な棄却決定の問題点と現在の再審制度のありかた、手続きのどこに問題があるのかを学び、再審法改正を求める声をあげていかなければならない。
狭山事件も事件発生から59年が経過し、石川一雄さんは83歳を過ぎて、いまも無実を叫び続け、3回目の再審請求をたたかっている。再審請求は45年にもなるが、一度も鑑定人尋問もおこなわれていない。検察官は証拠開示に応じようとしていない。狭山事件もまた再審制度、刑事司法のありかたを問うている。弁護団は近く鑑定人尋問を請求し、東京高裁第4刑事部(大野勝則裁判長)に再審開始を求める。狭山事件の第3次再審請求で鑑定人尋問、再審開始を求める世論を大きくしていくとともに、再審法改正を国会議員や地方議会にはたらきかけていきたい。
月刊「狭山差別裁判」の購読の申し込み先
狭山中央闘争本部 東京都中央区入船1−7−1
TEL 03-6280-3360/FAX 03-3551-6500
頒価 1部 300円