(月刊「狭山差別裁判」531号/2022年8月)
12月2日に袴田事件弁護団は、差し戻し抗告審が係属する東京高裁第2刑事部(大善文男裁判長)に対して、最終意見書を提出した。12月5日には、56年無実を訴える袴田巖さんと裁判官の面会が実現し、その後の三者協議で、弁護団による最終意見書の説明と再審請求人である袴田ひで子さんによる意見陳述がおこなわれ、審理はすべて終了し、2023年3月末までに再審可否の決定が出されることになった。
そもそも、袴田事件の第2次再審請求は2008年に申し立てられ、静岡地裁(村山浩昭裁判長)は、証拠開示の勧告をおこなうとともに、有罪判決の根拠となった「5点の衣類」のねつ造を示すDNA鑑定やみそ漬け実験報告などの新証拠について証人尋問も実施し、2014年3月に再審開始決定をおこなった。静岡地裁は、死刑の執行停止および拘置の執行停止も決定し、袴田巖さんは東京拘置所から48年ぶりに釈放された。
しかし、検察官が抗告し、東京高裁(大島隆明裁判長)は、2018年6月、再審開始決定を取り消す不当決定をおこなった。2020年12月、最高裁第3小法廷(林道晴裁判長)は、東京高裁の棄却決定を取り消し、審理を東京高裁に差し戻した。最高裁の2人の判事は高裁に差し戻すのではなく、再審を開始すべきという意見だった。最高裁決定は、「5点の衣類」の血痕の色に着目し、事件直後に入れられたものか発見直前に入れられたものかについて、科学的知見にもとづいて調べることを求めて審理を差し戻した。
東京高裁での差し戻し審で、弁護団はあらたに法医学や化学の専門家による鑑定を提出し、味噌漬けによって血痕は黒色化し、赤みが残る「5点の衣類」が1年2か月も味噌タンクに入れられたものとは考えられないことを科学的に明らかにした。検察官は、味噌漬けでも赤みが残る可能性があると主張し、みずから血痕を付いた衣類の味噌漬け事件をおこなった。1年2か月経過したことし11月1日に裁判官も立ち会い結果を確認したところ、血痕は黒化しており、検察官の実験によっても弁護団の主張が裏付けられたのである。
これら新証拠を総合すれば、「5点の衣類」は「犯行着衣」とは言えず、市民常識として袴田さんの無実は明らかである。東京高裁の大善裁判長は、再審開始決定をおこなうべきである。
2014年の再審開始決定から9年にもなろうとしているのにまだ再審開始が確定せず、袴田巖さんは86歳、再審請求人となっている姉の袴田ひで子さんは来年90歳になる。冤罪を晴らすのに長い時間がかかるのは、検察官が手持ち証拠をなかなか証拠開示しようとしないこと、そして再審開始決定に対する検察官の抗告が認められていることが大きな原因だ。
大崎事件でも、地裁、高裁が再審開始を決定したにもかかわらず、検察官が抗告し、最高裁で再審開始が取り消し棄却され、現在、第4次再審請求が闘われている。病床にある再審請求人の原口アヤ子さんは95歳だ。大詰めを迎えている狭山事件の再審請求においても東京高裁が再審開始を決定しても検察官が抗告すれば、再審開始が確定し、再審で無罪を実現するまでさらに時間がかかることになる。
こうした不正義の状況が続いているのは再審制度、再審手続きの不備である。再審開始決定に対する検察官の抗告を禁止し、再審における証拠開示を検察官に義務付ける再審法改正が急務である。
冤罪をなくし、誤判から無実の人をすみやかに救済する司法改革は国会の責務だ。袴田事件、狭山事件の再審開始を求めるとともに、国会議員に冤罪の現実を知らせ、再審法改正を働きかけよう。
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