(月刊「狭山差別裁判」533号/2022年10月)
検察官は2023年2月末に、弁護団が昨年8月に提出した事実取り調べ請求書に対して、法医学の論点2つ以外についての意見書を提出した。予想された通り、検察官は、弁護団が求めた9つの論点(筆跡、指紋、足跡、スコップ、目撃証言、音声証言、万年筆インク、万年筆発見経過、自白)について、鑑定人の証人尋問も、インク資料の鑑定の実施も、すべて必要ないとしている。
検察官は、2022年7月に提出した意見書、同年12月提出の意見書や今回の意見書で、弁護団が提出した新証拠は新規性も明白性もなく、再審開始の理由にならないから事実調べの必要性もないと主張している。検察官は3月末までに殺害方法、血液型の論点についての意見書を提出するとしているが、事実調べは必要ないという同様の主張をしてくることが予測される。
弁護団は、これら検察官意見書にたいして反論するとともに、事実調べの必要性を明らかにする意見書を東京高裁に今後提出することにしている。弁護団が証人尋問を求める専門家の鑑定は、狭山事件の有罪判決(東京高裁の寺尾判決)の根拠となった証拠(その多くは当時の警察による鑑定)の誤りを明らかにしたものである。
そして、11人の鑑定人は、それぞれの分野で専門的知見をもつ科学者や科学捜査の知識・経験を有する専門家である。弁護団は、専門的知見にもとづく鑑定内容、結果と意味について、証人尋問をとおして、裁判官が直接、鑑定人から聞いて、証拠を総合的に評価して有罪判決に合理的疑いが生じていることを認め、再審を開始するよう求めている。
また、検察官は、証拠の万年筆が被害者のものとはいえないことを蛍光X線分析で明らかにした科学者の鑑定に対して、実験条件や装置について周辺的な批判をして信用できないと反論している。裁判所は検察庁にあるインク資料について第3者による鑑定を実施し、弁護側鑑定の正しさを確認すべきである。
新証拠によって有罪判決に合理的疑いが生じているかどうか、再審を開始すべきかどうかを公正・公平に判断するために鑑定人尋問、事実調べは不可欠だ。2022年に弁護側鑑定人3人の証人尋問がおこなわれた袴田事件や、これまでの足利事件、布川事件、東住吉事件などの再審請求を見ても鑑定人尋問や証拠資料についての鑑定の実施が重要であることは明らかだ。
今後、東京高裁は、検察官、弁護団双方の意見書をふまえて、事実調べをおこなうか判断することになる。まだ事実調べをおこなうことが決まったわけではない。
石川一雄さん、早智子さんは「事実調べをおこなってほしい」「事実調べをおこなえば無実はわかるはず」と訴えている。東京高裁は11人の鑑定人尋問とインク資料の鑑定を実施すべきである。東京高裁第4刑事部に事実調べを求める声をさらに届けよう!署名運動をさらに広げよう!
弁護団の事実調べ請求を受けて、2022年9月から始められた「東京高裁第4刑事部に事実調べを求める署名」は1ヵ月あまりで10万筆が全国から寄せられ、10月末に東京高裁に提出された。さらに2022年末で20万筆を超え、2023年2月末で合計40万筆を超え、50万筆にせまる署名が全国から寄せられている。
東京高裁は鑑定人の証人尋問とインク資料の鑑定をおこなうべきだという世論をさらに大きくし、事実調べを求める署名運動にさらに取り組もう。
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