(月刊「狭山差別裁判」535号/2022年12月)
2023年3月13日、東京高等裁判所第2刑事部(大善文男裁判長)は、袴田事件第2次再審請求の差し戻し抗告審において、再審を開始する決定をおこなった。57年もの長きにわたって冤罪と闘い続ける袴田巌さん、姉で再審請求人の袴田秀子さん、弁護団と支援者の粘り強い闘いに学び、狭山の闘いに結びつけていかなければならない。
今回の再審開始決定は、弁護団が提出した味噌漬け実験報告書および鑑定書を作成した化学者、法医学者ら専門家の証人尋問をおこなったうえで、確定判決が有罪の決め手とした「5点の衣類」について、袴田さんのものとも「犯行着衣」ともいえないと認定し、確定判決の認定、犯人性に合理的疑いが生じたとしている。大善裁判長は、さらに、検察官が弁護側の新証拠に対する反証として実施した味噌漬け実験の結果について、裁判長みずから見て確認し、検察官の主張をことごとく排斥している。
そもそも、「5点の衣類」の血痕の色の問題(1年2カ月味噌漬けにして血痕の「赤み」が残るのかどうか)が中心的な争点となったのは、「5点の衣類」発見時の写真を含む捜査報告書などが、事件後40年以上経ってようやく証拠開示されたことが大きな契機となった。
足利事件や布川事件などこれまで再審が開始され無罪となった冤罪事件と同じく、証拠開示と事実調べが再審開始のカギであることをあらためて示していると言える。
今回の再審開始決定は、「5点の衣類」は事件後相当期間が経った後、味噌タンクに入れられたことになり、袴田巖さん逮捕後であるから袴田さん以外の第3者しか考えられず、捜査機関によってねつ造された可能性が高いと指摘している。東京高裁において、捜査機関による証拠ねつ造の疑いを認める判断が出されたことも重要だ。冤罪事件において捜査機関によるねつ造がおこなわれている現実を裁判官はもっと認めるべきであろう。袴田事件を教訓に警察、検察の捜査と証拠に対して厳しい目で信用性を評価すべきだ。
証拠開示がなされ、それによって新証拠が提出され、裁判所が鑑定人の証人尋問、事実調べをおこなって再審開始が実現し、捜査機関によるねつ造まで指摘されたことは、事実調べの実現にむけて正念場を迎えている狭山事件の再審請求にとっても大きな力となる。
狭山事件では、逮捕当日の石川さんの筆跡資料、取調べ録音テープ、被害者の使用していたインクと証拠の万年筆のインクの資料などが第3次再審でようやく証拠開示され、弁護団は、それらの資料にもとづいて、科学者、専門家による鑑定が多数出された。そして、弁護団は、事実取調請求書を提出し、これら鑑定人のうち11人の証人尋問を求めている。
冤罪の構造は、狭山事件と袴田事件で共通する。石川さんと袴田さんとは同じ死刑囚として東京拘置所で6年ともに過ごし励ましあった「獄友」だ。いまこそ、60年におよぶ冤罪・狭山事件を訴え、事実調べを求める署名を広げよう!
袴田事件をとおして、冤罪を晴らすのになぜ、これだけ長い時間がかかるのか、検察官の証拠隠しや再審開始に対する検察官の抗告、再審妨害の問題も多くのマスコミで報じられた。
冤罪事件や司法制度、死刑制度の問題を市民が関心を持ったいまこそ、狭山事件の真相、事実調べ・再審実現と再審法改正を広く訴えよう!
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