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主張&声明

東京高裁はインク鑑定の実施を!
東京高裁に事実調べを求める署名をさらに広げよう!

(月刊「狭山差別裁判」540号/2023年5月)

 狭山弁護団は、東京高裁第4刑事部に、新証拠を作成した専門家11人の証人尋問と重要な争点である万年筆について、インク資料の裁判所による鑑定の実施を求めている。

 狭山事件の有罪判決(2審・東京高裁の無期懲役判決)は、石川さんの「自白」通り、自宅のお勝手入口の鴨居の上から被害者の万年筆が発見されたことを有罪の決め手の一つにあげている。

 弁護団は、2度の徹底した家宅捜索の後に、事件後2か月近くたって、高さ175.9センチ、奥行き8.5センチの鴨居から「発見」されるという経過が不自然、不合理であり、「自白」によってはじめて発見された「秘密の暴露」とはいえないと主張している。第3次再審請求では、心理学者らによる、お勝手内で物を探す実験にもとづく鑑定を提出し、2度の家宅捜索で警察官らがカモイ上の万年筆を「見落とした」などとするこれまでの裁判所の判断のおかしさを実証的に指摘している。

 もう一つの疑問が、この発見万年筆が本当に被害者のものだと言えるのかという問題だ。そもそも、発見万年筆が被害者の所持品とされたのは、兄らの供述を根拠にしているだけで、なんら客観的な根拠はない。被害者の指紋も検出されていない。そして、事件当時、起訴後に発見万年筆のインクと被害者のインク瓶のインクをペーパークロマトグラフィーで検査した科学警察研究所の技官の鑑定では、異なるインクという結果が出ているのだ。しかし、この科警研の鑑定結果は2審でも上告審でも調べられることなく、被害者の所持品が石川さん宅から発見されたとして有罪が確定したのである。

 第3次再審では門野博裁判長の証拠開示勧告(2009年12月)以来、証拠開示がすすみ、2013年7月には、被害者のインク瓶が証拠開示され、当時販売されていた「ジェットブルー」という商品名のインクであること、さらに事件当時のジェットブルーインクは金属元素のクロムを含むことが判明した。

 さらに、弁護団の証拠開示請求によって、事件当時、被害者の兄が発見万年筆で書いた「数字」(1から10までの数字を4行にわたって紙に書いたもの)が証拠開示された。発見万年筆に入っていたインクは事件当時の科警研の鑑定の際にすべて排出され、インクは残ってはいなかったが、この「数字」の証拠開示によって、発見万年筆に入っていたインクを科学的に調べることが可能になったのだ。被害者が事件当時の1時間目の授業で書いたペン習字の浄書も上告審で証拠開示されたものである。いかに証拠開示が重要であるかがわかる。

 これらのインク資料を弁護団が専門家に依頼して蛍光エックス線分析をおこなったところ、被害者のインク瓶のインクやペン習字浄書の文字インクからはクロム元素が検出されたが、発見万年筆で書いた「数字」のインクからはクロム元素が検出されなかった。発見万年筆は被害者のものとは言えないことが科学的に明らかになったのだ。被害者の万年筆が発見されたと認定した有罪判決に合理的疑いが生じている。

 さらに、万年筆「発見」によって信用できるとされた自白の疑問も生じることになる。そもそも、殺害後、万年筆を自宅に持ち帰り、お勝手入り口の鴨居に置いていたという自白じたいがきわめて不自然だ。弁護団は、万年筆発見のもとになったとされる図面の改ざんも指摘している。東京高裁はインク資料の鑑定を実施するとともに、こうした有罪証拠の万年筆についての数々の疑問、自白の疑問を総合的に評価し、狭山事件の再審を開始すべきだ。


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