(月刊「狭山差別裁判」541・542号/2023年6月・7月)
狭山事件が発生し、石川一雄さんが冤罪におとしいれられて60年が過ぎた。石川さんはいまも無実を叫びつづけ、生きて冤罪を晴らすと訴えている。第3次再審の闘いに勝利し、石川さんにかけられた「みえない手錠」をはずすまでわたしたち一人ひとりが原点にかえって支援の取り組みを全力ですすめたい。
60年前に冤罪はいかに作られたのか。
身代金を取りに現れた犯人を40人もの警察官を張り込ませながら取り逃がし、世論の大きな非難をあびて、捜査にあせった警察は、住民の差別意識を背景に、市内の被差別部落に見込み捜査をおこない、石川さんに的をしぼって、別件逮捕した。
警察と検察は、別件逮捕・再逮捕によって長期の身柄拘束で取調べ、弁護士との接見を禁止して、自白を強要した。石川さんは字が書けないから脅迫状を書いていないと訴えた。警察官も字が書けないことをわかっていながら、石川さんにウソの自白を強要したのだ。犯人ではない石川さんが犯行ストーリーを語れないと警察官らは誘導して自白させた。こうして自白が有罪の根拠とされ、1審では死刑判決が出された。
さらに、「筆跡鑑定はクロ」「足跡が一致」「スコップ持ち主わかる」と発表し、それにあわせて警察の鑑識課員などによる鑑定が作られた。そして、虚偽の自白を誘導し、それにあわせて鞄や万年筆、腕時計が自白通りに発見されたように偽装していった。証拠のねつ造である。
第3次再審請求では、こうした60年前に冤罪が作られていった真相が検察官から開示された証拠や新たな科学的鑑定で明らかになった。虚偽自白が作られていく経過が第3次再審で証拠開示された取調べ録音テープで暴かれた。取調べの録音からは自白の虚偽だけでなく、石川さんが字が書けないことや警察官らもそれを知っていたことも浮かび上がっている。裁判所は、開示された取調べ録音テープを調べるべきだ。
有罪証拠の主軸とされた警察の筆跡鑑定あるいは足跡やスコップ土壌、血液型や殺害方法などの警察による鑑定がいかにズサンで誤った鑑定であるか、専門家による最新科学を活用した鑑定によって明らかになっている。裁判所はこれら専門家鑑定人の証人尋問をおこなうべきだ。
万年筆や鞄、腕時計の「発見」が作られた「秘密の暴露」であったことも開示証拠や科学的な鑑定によって明らかになった。自白通り被害者の腕時計が発見されたという場所が捜索済みだったことが証拠開示された警察官の報告書によって明らかになった。そして、自白通り発見されたとして有罪の決め手とされた万年筆が蛍光X線分析という科学的な鑑定で被害者のものとはいえないことが明らかになった。裁判所は、事実を客観的に確認するためにインク資料を職権で鑑定すべきである。
石川さんが冤罪におとしいれられていった別件逮捕、警察での長期の身柄拘束(人質司法)と密室の取り調べ、自白の強要・誘導、警察の誤鑑定、証拠ねつ造、検察の証拠隠しは、多くの冤罪に共通し、いまもなくなっていはいない。
60年以上も冤罪に苦しむことなど許されない。冤罪の真相、有罪判決の誤りと石川さんの無実を明らかにし、一日も早く再審無罪を実現するために、なんとしても事実調べが必要だ。そして、石川さんの冤罪を生み出した部落差別をなくし刑事手続きの改革、再審法改正を実現しなければならない。石川さんの無実と60年におよぶ冤罪の真相を、より多くの市民に訴え、さらに署名運動を広げよう!
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