(月刊「狭山差別裁判」542号/2023年7月)
大川原化工機冤罪事件で、逮捕・長期勾留され、不当な取調べを受けて起訴された会社の社長や元役員らが、東京都(警察)と国(検察)を相手取っておこした国家賠償請求訴訟の判決が2023年末に東京地裁で出された。判決は、警察、検察の捜査を違法と断じ、約1億6000万円の賠償を命じた。この冤罪事件は、警視庁公安部が噴霧乾燥機のメーカーである大川原化工機の社長、元顧問ら3人を、兵器に転用できる器械を「不正輸出」したとして外為法違反の容疑で逮捕、東京地検が起訴し、後に起訴を取り消したというものだ。
社長らは1年近くも勾留され、人権をふみにじる取調べがおこなわれた。容疑を認めなかった顧問の男性は勾留中に癌が見つかっても保釈請求が却下され、9回目の保釈請求で保釈されたが、その後に亡くなるという、あまりに酷い捜査がおこなわれた。
東京地裁判決は、元役員に対して、警察官がだまして弁解録取書に署名させたことを違法と断じている。さらに、検察官が、不正輸出にあたらないことを示す供述や実験結果の報告を受けながら、それを無視し起訴したことについて、判決は、通常おこなうべき捜査をせずに起訴したことは違法と断じた。しかし、この地裁判決に国(検察)も東京都(警察)も謝罪しないどころか控訴した。
同じ検察官の不正義は、進行中の袴田事件の再審公判でも共通している。東京高裁の再審開始決定は、有罪証拠とされた「5点の衣類」が発見時に血液の赤みが残っていることの疑問を認め、ねつ造された可能性にまで言及した。しかし、検察官は、再審公判で有罪の立証をするとして、法医学者の意見書などをあらたに提出、1年2か月みそ漬けにしても血液の赤みが残ると主張している。そして、これまでしりぞけられてきた有罪の主張をくりかえしているのだ。
不当・不正な捜査、証拠ねつ造が冤罪を作ったと指摘されて、反省するのではなく、逆に有罪に固執しているというほかない。そもそも、2014年に静岡地裁の再審開始決定に対して検察官は抗告し、東京高裁が再審開始を取り消したために、2023年3月に再審開始決定が確定するまで9年もの歳月が費やされている。袴田巌さんは87歳。姉の秀子さんは90歳だ。
狭山事件の再審請求においても、検察官は弁護団の証拠開示請求に対して必要がないとして応じないばかりか、あるかないかを答える必要もないとしている。その一方で、弁護団の提出した新証拠に対する反論・反証を提出、事実調べ請求に対しても、すべて必要ないとする意見書を提出している。石川一雄さんは85歳だ。このような検察官の活動が国費でおこなわれていることを忘れてはならない。こうした検察官のあり方は断じて許されない。
2011年に最高検察庁は、「検察の理念」を発表し、そこでは「個人の基本的人権の保障を全うしつつ、事案の真相を明らかにし」「あたかも常に有罪そのものを目的とし,より重い処分の実現自体を成果とみなすかのごとき姿勢となってはならない」「各々の判断が歪むことのないよう」「権限行使の在り方が,独善に陥ることなく」「常に内省しつつ行動する、謙虚な姿勢を保つべきである」「公正な立場を堅持すべき」「厳正公平、不偏不党を旨とすべき」と書かれている。
この「検察の理念」はいったいどこへいったのだろうか。検察官のあり方を厳しく問うとともに、再審請求における検察官による証拠開示を義務付けることや再審開始決定に対する検察官の抗告を禁止するなどの再審法改正が必要だ。そして「人質司法」を変えていかねばならない。法改正を国会に強く求めていこう。
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