(月刊「狭山差別裁判」550号/2024年3月)
弁護団は6月におこなわれた三者協議にさきだって筆跡、スコップ、万年筆インクに関する新証拠と補充書を提出した。検察官が2月に提出した意見書への反論である。弁護団の新証拠に対する検察官の反論、弁護団の再反論というやりとりが続いている。
たとえば、弁護団が2018年1月に提出したコンピュータによる筆跡鑑定(B鑑定)について、検察官は科学警察研究所(科警研)技官の意見書を提出して反論、弁護団はB鑑定人の意見書を提出し、検察官意見書の誤りを指摘した。これにたいして検察官は、2019年10月にまた同じ科警研技官の意見書を提出しB鑑定を攻撃してきた。B鑑定の手法はB鑑定人の研究室の「限定的なデータベース」にもとづいて筆者の異同識別をおこなっているから妥当ではないと主張した。
弁護団はB鑑定人の鑑定手法の解説書を提出し、99.9パーセント以上の精度で脅迫状の筆者と石川さんが別人であるということはコンピュータによる客観的な計測結果であることを指摘した。そもそも、検察官がいう「限定的なデータベース」とは何をもって「限定的」というっているのか、まったく抽象的な批判だ。すべての人のあらゆる条件下で書いた筆跡を集めることなど不可能だろう。
しかし、検察官は、その後も、2022年7月の意見書、そしてことし2月の意見書でも、同じようにデータベースが問題だという攻撃をくりかえしている。検察官の主張にB鑑定人がすべて科学的に反論しているので、抽象的にデータベースのことしかとりあげられなくなっているのだ。
弁護団は今回、B鑑定人による報告書を提出した。これは、科警研技官が第2次再審請求で提出した鑑定において使用した筆跡データベース(筆跡サンプル集)を用いて、B鑑定の手法で異同識別をおこなった結果の報告書だ。科警研の筆跡データベースを用いて狭山事件の鑑定と同じ手法で鑑定した結果、別人か同一人かの識別が99.9パーセントの精度で判定できたことが報告されている。B鑑定の手法は「限定的なデータベース」にもとづくもので妥当ではないとする検察官の主張の誤りは明らかだ。
筆跡の一致は有罪判決が証拠の主軸とした論点である。50年前の有罪判決が根拠にしたのは60年も前の警察官が観察して類似性を指摘した筆跡鑑定だ。弁護団の新証拠とどちらに科学性、信用性があるか明らかであろう。東京高裁の家令和典裁判長は、B鑑定人の証人尋問をおこない科学的に決着をつけるべきではないか。
弁護団は、コンピュータによる筆跡鑑定とともに、当時の石川さんが非識字者で国語能力の点からも石川さんが脅迫状を書いたとは考えられないとする識字教育の専門家のA鑑定、そもそも脅迫状・封筒に石川さんの指紋がないことは石川さんが触れていないことを示すと指摘した元警察鑑識課員のC鑑定も提出している。弁護団は科学者などに依頼し、最先端の専門的知見にもとづいて無実の新証拠を提出しているのだ。
筆跡のほかにも、スコップ、血液型、殺害方法などで、検察官は専門家の意見書などを提出して反論しており、弁護団の再反論の意見書とのやりとりが何往復もつづいている。これらの専門家の科学的な論争になっている論点について、有罪の根拠となった警察の鑑定の信用性を評価するために、最先端の科学的鑑定について、専門家証人の尋問は不可欠であろう。
東京高裁の家令和典裁判長は、確定判決の事実認定に合理的疑いが生じるかどうか、新証拠の明白性、再審の可否を判断するうえで、鑑定人の証人尋問をおこなうべきだ。
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