(月刊「狭山差別裁判」551・552合併号/2024年4月・5月)
袴田事件の再審無罪判決が出され確定した。袴田巖さん、ひで子さん、弁護団、支援者が一丸となった長いたたかいの勝利だ。判決は、有罪判決の根拠となった証拠が警察、検察によるねつ造だと断じた。袴田事件では、事件発生から1年2か月後に味噌タンクから発見された「5点の衣類」が犯行着衣として有罪の証拠となった。第2次再審請求で、2010年に「5点の衣類」の発見時のカラー写真が証拠開示され、発見時に血痕の色に赤みが残っていることがわかり、1年以上味噌タンクに入れられていたとは考えられないことが明らかになった。2011年には裁判所が「5点の衣類」についてDNA型鑑定をおこなうことを決定し、弁護側、検察側が推薦する専門家による鑑定がおこなわれた。2012年、2013年に、DNA型鑑定をおこなった鑑定人や、みそ漬け実験についての証人尋問が実施され、2014年3月、静岡地裁は再審開始を決定した。 昨年3月に再審開始を決定した東京高裁も、2022年7.8月に「5点の衣類」の血痕の色について法医学者らの証人尋問を実施した。今回の再審無罪判決も含めて3つの裁判所が、鑑定人尋問をおこなったうえで「5点の衣類」は犯行着衣ではなく、捜査機関にねつ造された証拠と断じたのである。
こうした袴田さん再審無罪の経緯は、冤罪の真相を明らかにするために証拠開示と科学的な鑑定や実験、そして鑑定人の証人尋問がいかに重要、不可欠であるかを示している。
袴田さんの再審無罪は狭山再審にとっても大きな力だ。狭山事件の第3次再審請求で弁護団は多くの科学的な新証拠を提出し、専門家の証人尋問を求めている。狭山事件では石川さんの自宅から被害者の万年筆が「発見」されたとして有罪の決め手の証拠とされた。発見万年筆が被害者のものかどうかが最大の争点の一つだ。8月に弁護団は、この万年筆について、検察庁にあるインク資料の専門家による蛍光エックス線分析を実施することを申し入れ、8月末の三者協議で、裁判所は、弁護団によるインク鑑定実施に協力するよう検察官に要請した。検察庁にあるインク資料とは、被害者が事件当日に授業で書いたペン習字浄書、被害者が使っていた万年筆のインク瓶、そして、石川さんの自宅から「発見」された万年筆で書いた数字(の記載された紙)などであり、いずれも有罪判決後に証拠開示されたものだ。
弁護団が2018年に提出したI鑑定人による蛍光エックス線分析では、有罪証拠とされた発見万年筆のインクは、被害者が書いたペン習字浄書の文字のインクや被害者が使っていたインク瓶のインクと異なるという結果が出ている。今回、弁護団は、別の蛍光エックス線分析の専門家が別の分析機器を使って、インク資料の検査をおこなうことを申し入れ、実施することになったのである。弁護団は検査結果の鑑定を新証拠として提出し、これまでに請求している筆跡、スコップなどの鑑定をおこなった専門家とあわせて、インク鑑定についても鑑定人の証人尋問を求めていくとしている。今後は、東京高裁第4刑事部(家令和典裁判長)が、鑑定人の証人尋問をおこなうかどうかが焦点だ。
狭山事件では、石川さんは61年以上も無実を叫びつづけ、再審請求は47年以上に及ぶが、一度も証人尋問はおこなわれていない。狭山弁護団は証拠開示された資料をもとに専門家の科学鑑定を提出し、有罪証拠の疑問を明らかにしている。袴田事件やこれまでの再審事件のように、東京高裁第4刑事部(家令和典裁判長)が狭山事件の再審請求で鑑定人の証人尋問をおこない、再審を開始するよう強く求めたい。
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