(月刊「狭山差別裁判」553号/2024年6月)
万年筆は、狭山事件の有罪判決(50年前の東京高裁・寺尾判決)において、石川さんが自白した通りに自宅から「発見」されたことが、自白が真実であることを裏付け、石川さんを犯人とする決定的な証拠の一つとされた。
しかし、10数人の警察官による2回の家宅捜索の後に、事件から2か月近く経って、お勝手入り口の高さが約176センチの鴨居の上から「発見」されるという発見経過の疑問とともに、この石川さんの家から発見された万年筆が被害者のものといえるのかどうかが狭山事件の大きな争点の一つである。
現在の第3次再審請求では裁判所の勧告もあり証拠開示がすすみ、万年筆に関して重要な証拠が開示された。
事件から50年を経た2013年に、被害者が使っていた万年筆のインク瓶がはじめて証拠開示され、これによって、被害者が使っていたインクはパイロット社の「ジェットブルー」というインクであること、ジェットブルーインクにはクロム(Cr)という元素が含まれていることがわかった。
2016年には、事件当時、石川さんの自宅から「発見」された万年筆を用いて被害者の家族が検察官の面前で書いた「数字」(を記載した紙片)が証拠開示された。また、被害者が事件当日に学校で書いた「ペン習字浄書」が1976年の上告審段階で証拠開示されていた。これらのインク資料はすべて東京高等検察庁にある。
弁護団は、非破壊分析の専門家であるI教授に依頼し、証拠開示されたインク資料を蛍光エックス線分析によって元素を調べたところ、被害者が事件当日に書いたペン習字浄書の文字のインクや被害者の使っていたインク瓶のインクからはクロム元素が検出されたが、発見万年筆で書いた「数字」のインクからはクロム元素が検出されなかった。弁護団は、発見万年筆のインクは被害者の使っていたインクと違う(元素が異なる)というI鑑定を2018年8月に提出した。発見万年筆は被害者のものといえないことが科学的に明らかになったのだ。弁護団は、発見万年筆を被害者のものとした有罪判決に合理的疑いが生じたとして再審開始を求めたのである。
今回、狭山弁護団は同じインク資料を、別の専門家の科学者に依頼して、蛍光エックス線分析をおこない、結果をまとめた鑑定書を年内に裁判所に提出し、証人尋問を求めることにしている。つぎは、このインク鑑定も含めた鑑定人の証人尋問の実施が焦点だ。東京高裁第4刑事部(家令和典裁判長)に事実調べ(鑑定人の証人尋問)の実施を求める世論を最大限に大きくしていくことが重要だ。
袴田事件の再審無罪判決、福井事件の再審開始決定と続いており、冤罪や再審に対するメディアの報道も増え、市民の関心も高くなっている。袴田事件の再審請求でも、東京高裁は鑑定人の証人尋問をおこない、再審を開始した。61年以上も無実を叫び続ける石川一雄さんとともに、狭山事件の再審開始を訴え、世論を大きくするチャンスだ。事実調べ(証人尋問)を求める署名をさらに拡大し、東京高裁第4刑事部に届けよう。
石川さんの再審無罪を一日も早く実現するために、再審における証拠開示の義務化や再審開始決定に対する不服申し立ての禁止などの再審法改正は急務だ。各地で、国会請願署名を集めよう。地元の国会議員へ議員連盟への参加の働きかけや、地方議会での意見書採択など、再審法改正実現にむけたとりくみをすすめよう!
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