防衛庁が情報公開法に基づく請求者の身元調査をおこない、さらに職業、所属団体、生年月日ばかりか思想、信条までわかる個人情報を記載したリストまで作成して庁ぐるみで利用していたことが判明した。情報公開を求めた人のこうした個人情報を収集していた目的が、情報を開示するか否かの可否を判断するためであるとすれば、明らかに公平な手続きを前提とする情報公開法の理念に反する重大問題である。さらに、防衛庁が、情報公開を求めた人を偏見をもって思想調査、身元調査をしていたことを示すものであり、いまもくろまれている「有事法制」が恐るべき「国民管理」と一体のものであることを暴露したものとして極めて重大な問題と受け止めなければならない。
そもそも、こうした思想・信条をふくむ身元調査、さらに収集した個人情報のリスト作成と省内での広範な利用は重大な人権侵害である。われわれは、民間企業、調査会社による差別身元調査を厳しく糾弾し、差別につながる身元調査の規制を求めてきたが、今回、防衛庁という政府機関、国家公務員によってそのような人権侵害行為がおこなわれていたことは極めて遺憾である。今回の身元調査リスト作成を特定職員のおこなったものなどという防衛庁の説明ではとうてい納得できるものではないし、個人情報保護や人権擁護の重要性の理解を徹底していなかった防衛庁や政府の責任もあるといわねばならない。われわれは、防衛庁および政府に対して厳重に抗議するものである。
同時に、今回の防衛庁身元調査・リスト作成事件のような公権力による人権侵害、違法行為を処罰する法がないという問題を指摘しなければならない。国会で審議されている個人情報保護法案では個人情報を扱う民間事業者に対して目的外利用の禁止と罰則の規定があるが、その関連法である行政機関等個人情報保護法案には「センシティブ情報」の収集を禁止する規定や違反した国家公務員の罰則規定もない。今回の事件は、この間議論されてきた個人情報保護法案の問題点をも浮き彫りにしている。
さらに根は深い。福田康夫官房長官が、個人情報保護法案に公権力の違法行為を罰する規定がないとの指摘に関して、28日の記者会見で、「行政機関はそういうこと(違法行為)をしないことになっている」などと述べた(5月29日付「東京新聞」)ことは、政府の極めて「官」に甘い認識を示している。今回の事件は、こうした「官は悪いことはしない」という認識の誤り、「官」の人権感覚欠如の実態、「官」が「民」を支配するという意識や制度では決定的にダメであるということを浮き彫りにしていることを見逃してはならない。
われわれは、現在、政府から提案されている人権擁護法案について、公権力の違法行為、人権侵害に対して軽視していること、人権委員会を法務省の外局とするなど独立性に決定的に欠けていること等の問題点を指摘し、抜本修正を求めているが、今回の防衛庁身元調査・リスト作成事件は、あらためて「官」の人権感覚欠如と独立した人権救済機関の必要性を示している。
こうした行政機関、公権力による人権侵害、違法行為の実態がある以上、われわれは、それを規制する法の整備と公権力から独立したチェック機関の必要性を強く訴えるとともに、あらためて、個人情報保護法案に反対し、人権擁護法案の抜本修正を強く求めるものである。また、市民の人権抑圧、「国民管理」と一体となった「有事法制」に断固反対するものである。
2002年5月29日
部落解放同盟中央本部
執行委員長 組坂繁之
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