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部落問題資料室
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声明

 

「電子版・地名総鑑」発覚・回収にあたっての緊急声明

2006年9月30日

部落解放同盟中央本部

 昨年の暮れから年明けにかけて2種類3冊の「部落地名総鑑」(以下「地名総鑑」)が大阪府内の調査業者からあいついで回収された。1989年の法務省による「地名総鑑」差別事件調査終了宣言から実に17年が経過した今日でも「地名総鑑」を悪用した身元調査がおこなわれていることを想起させた事件である。しかも調査業者から回収されたという事実を見たとき、結婚などの身元調査の依頼に「相手が部落出身者かどうかを調べて欲しい」との内容がいまだ根強く存在していることを物語っている。さらには、行政書士などに不正取得された大量の戸籍や住民票が、探偵業者に横流しされ身元調査に悪用され、それが「地名総鑑」とも照合されていたであろうことは容易に想像がつくものであり、全容の解明が求められている。
 現在、全国的に戸籍不正入手事件解明のためのとりくみが展開されている最中、大阪府内の調査業者から3・5インチフロッピー版数十枚に納められた2種類の「電子版・部落地名総鑑」が回収された。いわゆる第8と第9といわれている「地名総鑑」の電子版である。この「電子版・地名総鑑」の存在は早くから噂があり゛予想=cd=ba39はされていたが、もしネット上に流出すれば、部落差別を日本中にばらまいたことになり取り返しがつかない事態になるとの危険性が指摘されていた。つまり、これまでの「地名総鑑」とは質的に異なり、差別を野放しにすることはもとより、被差別部落の所在地をネットからいつでも入手できるという深刻な事態が「電子版・地名総鑑」の回収で、より現実のものとなる可能性が出てきており、法的な規制も含め、差別拡散を最小限にとどめるための努力が必要となってきている。
 この「電子版・地名総鑑」が現物として存在することが実証された今、部落差別が拡散し差別煽動に悪用される危険性が危惧されている。また、回収された「電子版・地名総鑑」は、ワープロ対応のフロッピーディスクであり、90年代半ばに作成されたものではないかと推測されている。文書保存の方法は、日々発展しており、フロッピーからCDに、さらにはDVD、メモリースティックへと容量アップがはかられており、フロッピー版「地名総鑑」も当然のことのようにデータ更新されている可能性は否定できない。
 従来の「地名総鑑」は、結婚や就職で、部落出身者にたいする忌避意識がいまだ根強いという差別意識を悪用し、「部落差別で金儲けをする」という許し難い手段に使われていた。つまり、差別調査のために作成したという明確な目的があり、だからこそ販売者も、さらには購入者も世間の目に晒させることがないよう慎重に極秘裏にことがすすめられてきたのである。部落出身を暴く身元調査は社会から指弾される行為であるということを知っているからこそ、秘密裏に調査業者が暗躍していたのである。
 しかし、それが「電子版・地名総鑑」の存在によって、経済的利益を得るための販売目的から質的に異なる事態になろうとしている。それは、「地名総鑑」を悪用して身元調査をおこない金儲けしようという手段から、単なる興味本位な発想や差別煽動を目的にネット上に「地名総鑑」を流出させ、瞬時に日本はもとより、全世界にデータを公開してしまう愉快犯的な犯罪へと変貌していくこととなるからである。従来の「地名総鑑」は一部の調査業者や企業が保持しており、利用価値があるため自社で保有し、その存在も世間に明かすことなく極秘文書として扱われ、一般社会にまで出回ることはほとんどなかった。ところが、電子版はまったく異なった経路で拡散していく可能性が高く、しかもそうした事態になれば犯人の特定も困難となり、真相を究明することが容易ではなくなる。部落差別が拡散するという最悪のケースが考えられる。
 近年のもっとも重大な部落差別事件が「部落地名総鑑」差別事件である。それらの糾弾闘争のなかから、多くの企業が部落問題解決に向けて、積極的な活動を展開し、多くの成果を収めることができた。しかし、回収された「地名総鑑」はごくわずかであり、購入が判明した企業も限られている。つまり、「地名総鑑」差別事件は、いまだ解決されていないことがあらためて明確になった。さらに、「電子版・地名総鑑」は、一度ネット上に流出してしまえば、それを目にした人すべてを特定することは不可能となり、電子版を悪用して身元確認した人物を特定することもできなくなる。まさに差別が拡散し、野放しの状態になってしまうといわざるを得ないのである。
 「部落差別は今なお深刻な実態にある」という事実が、「電子版・地名総鑑」の存在でよりいっそう明らかになった。「部落差別が現存する限り同和行政は積極的に展開されなければならない」という基本姿勢を、国はもとよりすべての自治体が行政責任として改めて確認すべき時である。
 「電子版・地名総鑑」のさらなる実態解明とネット上への流出の危険性を含め、可能な限りの運動の展開を部落解放同盟はもとより、多くの人権団体や労働団体、市民団体と連携しとりくむものである。

 

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