北朝鮮の地下核実験に対する
―抗議声明―
2006年10月21日
部落解放同盟中央執行委員会
部落解放同盟中央本部は、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が10月9日に地下核実験を強行したことにたいして、10月21日の第8回中央執行委員会で討議し、つぎの「北朝鮮の地下核実験に対する抗議声明」を決定・発表した。全文を掲載する。
(1)
朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)は、10月9日に地下核実験に成功したと発表した。この核実験が事実であるとすれば、世界と日本の平和を脅かす許すことのできない暴挙である。部落解放同盟は、この非道な暴挙に対して断固として抗議するものである。
日本は、世界で唯一の原爆兵器による被爆国であり、広島や長崎での悲劇を2度と繰り返してはならないことを訴えてきた。同時に、非核3原則のもとに、世界から一切の核兵器をなくすことを求めてきた。不十分ながらも、核拡散防止条約はそのための一歩であった。
しかし、今、この核拡散防止条約さえ有効に機能しない状況になってきていることを、今回の北朝鮮の地下核実験は改めて示唆している。米国のブッシュ政権による核兵器を含む先制攻撃戦略やそれに追従して軍事大国化をめざす安倍新政権は、一連の強圧的な政策をやめ、核兵器廃絶にむけた実効力ある方策を真剣に検討しなければならない。とまれ、北朝鮮の政治的意図がどのようなものであろうとも、地下核実験を実施したとする行為は断じて許されてはならない。こうした東北アジアにおける平和の危機を克服する基本的方向は、2002年の「日朝ピョンヤン宣言」と2005年の「6カ国共同声明」にもとづき、ただちに対話と協議を再開することであり、関係国政府はそのために最大限の努力をするべきである。また北朝鮮も国際社会における信頼回復のために一切の核実験を中止し、平和と核軍縮を求める国際世論の声に莫撃に耳を傾けるべきである。
部落解放同盟は、「戦争は最大の人権侵害」であり、「人類滅亡に道を開く核兵器廃絶」との基本的立場を堅持している。したがって、いかなる国であろうとも戦争や核武装・保有につながる行為には、断固として反対していくことを改めて表明しておきたい。
(2)
北朝鮮の地下核実験は許すことはできないものであり、「平和と人権の確立」を願う国際的潮流に対する挑戦であり裏切り行為である。北朝鮮がただちに核実験を中止し、核武装への危険な選択を断念することを、私たちは強く求めるものである。
しかし、看過できないことは、北朝鮮の地下核実験問題に対する制裁を口実にして、海外での武力行使を可能にする集団的自衛権行使にむけて解釈改憲から一気に憲法改悪へと議論を飛躍させようとするタカ派勢力が勢いを増してきていることである。
その意味では、小泉政権時において「戦争のできる国」への世論形成をしておいて、安倍新政権のもとでは北朝鮮核実験を口実にして好機到来とばかりに具体的に「海外での武力行使」ができる体制にもっていこうとしていると言わざるを得ない。
北朝鮮の地下核実験を契機に、中川自民党政調会長の「憲法でも核保有は禁止していない」や麻生外相の「隣の国が(核兵器を)持つとなった時に、一つの考え方としていろいろな議論をしておくのは大事だ」との国会答弁など、日本の政権指導部が突き進もうとしている危険な戦争への道に拍車をかける格好の材料とされる結果になっている事態は遺憾である。
(3)
北朝鮮の核実験問題は許されないものであるし、同様に国家犯罪としての拉致問題も許されないものである。それは、平和と人権に対する重大な蹂躙行為である。
しかし、そのことをもって、北朝鮮の国民や在日コリアンに対する差別煽動行為が許されてはならない。現に、北朝鮮の地下核実験の報道以降、朝鮮学校の生徒たちに対して「北朝鮮に帰れ!」とか「朝鮮学校を閉鎖しろ!」とかの脅迫行為や差別的暴言が横行している。部落解放同盟はこのような差別煽動に対して断固として抗議するものである。また同時に、「強制連行」「従軍慰安婦」問題などの負の歴史を深く反省するとともに、なによりも「拉致問題」の解決と日朝国交正常化の実現など、日本と北朝鮮の関係改善こそが東北アジアの平和と安全保障の確立に大きく寄与することを確信し、そのための取り組みを強力にすすめるものである。
私たちは、平和が脅かされる時、人権が侵害され、差別が強化されることを歴史の貴重な教訓として学んできている。今回の北朝鮮の地下核実験問題や拉致問題に強く抗議をするとともに、核も差別も許さず平和と人権が確立した社会を建設していくために全力を挙げて奮闘することを声明する。