東京高検による証拠開示にあたっての声明
中央本部
2010年5月13日に東京高裁で開かれた狭山事件第3次再審請求の3者協議で、東京高検は、36点の証拠を弁護団に開示した。これは昨年12月に、東京高裁の門野博裁判長がおこなった開示勧告に応じたものである。
開示された証拠は、0さんの証言に関わる捜査書類2点、筆跡に関する資料6点、取り調べ状況に関する捜査報告書等19点、石川さんを取り調べた録音テープ9本である。1988年の芋穴のルミノール反応検査報告書の開示以来、弁護団の要求にもかかわらず、検察官が証拠開示をおこなわず、証拠開示の必要性はないとしてきたことからすれば、裁判所による3者協議の開催、開示勧告によって今回の証拠開示がおこなわれた意義は大きい。
今回の8項目の開示勧告に応じたものだけでもこれだけ多くの証拠があったことからすれば、まだ、重要な証拠が多く隠されているといわねばならない。
わたしたちは、東京高裁の開示勧告に応じて、東京高検が、すみやかに証拠開示をおこなうよう強く求めてきた。ことし3月から石川一雄さん、早智子さんは、東京高裁前で証拠開示と事実調べを訴えつづけた。また、狭山事件の再審を求める市民の会は、5月11日、167人の有識者の署名を東京高裁に提出している。今回の証拠開示実現は、狭山弁護団の努力と、こうした市民の声の高まり、石川さん本人の真剣な訴えの成果である。
また、布川事件で、多くの証拠の開示と事実調べの実施をへて、昨年12月に再審開始が確定したことや、足利事件で取り調べ録音テープが証拠開示され、再審公判で証拠調べがおこなわれた結果、3月26日に、「自白の信用性は皆無」として無罪判決が出されたことも大きい。えん罪防止、誤判救済のために証拠開示と事実調べは不可欠である。
狭山弁護団は、開示された証拠の分析をおこない、事実調べ・再審のあしがかりにしたいとしている。開示証拠が石川さんの無実を証明するてがかりにつながるであろう。
多くのこれまでのえん罪事件が示すように、証拠開示は再審に向けた第1歩である。
しかし一方で、検察官は雑木林の血痕検査報告書については「不見当」として開示していない。また、当時の警察の調書に書かれている雑木林を撮影した8ミリフィルムについても「不見当」と回答している。こうした検察官の開示勧告にたいする回答・説明は市民の常識的感覚からしても、納得できないものであり、自白の信用性、とりわけ「犯行現場」の裏づけについて徹底した真相解明、事実調べが必要である。
東京高裁の岡田雄一裁判長が、再審の理念と証拠開示の必要性、意義をふまえて、ひきつづき、開示勧告をおこなうとともに1日も早く事実調べにはいることを強く求めたい。
今回の証拠開示を再審開始に向けたつぎの1歩ととらえ、気をゆるめることなく、さらに狭山第3次再審の闘いを強化し、えん罪との闘い、司法民主化の運動の連帯と世論をひろげて、再審―無罪勝利まで闘おう。
2010年5月19日
部落解放同盟中央本部
委員長 組坂 繁之
開示勧告が出された証拠 (2009年12月16日) |
検察官の回答・開示された証拠 (2010年5月13日) |
||
---|---|---|---|
犯行現場関係 | 1 | 殺害現場とされる雑木林内での血痕反応検査の実施とその結果に関する捜査書類一切(検察官は殺害現場のルミノール反応検査報告書について存在しないといっているが、存在しないならその理由の説明を求める) | 不見当 |
2 | 捜査官が、殺害現場に隣接する畑で農作業をしていたOさんから3回目に事情聴取したさいの捜査報告書ないし供述調書 | Oさん関係の捜査報告書1通 | |
3 | 殺害現場とされる雑木林の隣で事件当日、農作業をおこなっていたOさんを取り調べた捜査官の供述調書案、取り調べメモ(手控え)、調書案、備忘録等 | Oさん関係の捜査報告書2通(ただし1通は上記と重複) | |
4 | 1963年7月4日付けの実況見分調書に記載されている現場(雑木林)を撮影した8ミリフイルム | 不見当 | |
死体 | 5 | 死体鑑定書や1963年5月4日付の(死体発見時の)実況見分調書に添付された写真以外の被害者の死体に関する写真 | 不見当 |
筆跡関係 | 6 | 石川一雄さんが○○製菓の工場に勤務していた当時の借用書など筆跡鑑定等のために収集した石川さんの筆跡が存在する文書 | 6点の筆跡関係資料 |
7 | 石川さんが逮捕・勾留中に書いた本件脅迫状と同内容の文書など、石川さんの筆跡が存在する文書 | ||
取り調べ状況関係 | 8 | 石川さんの取り調べにかかる捜査官の取り調べメモ(手控え)、取り調べ小票、調書案、備忘録等 | 捜査報告書等19通 |
取り調べ録音テープ9本 |