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部落問題資料室
部落解放同盟ガイド

2011年度(第68期)一般運動方針

一 部落解放運動をめぐる情勢の主な特徴
3 人権と環境をめぐる情勢
  ①公正な裁判を確保するための重要な方策として、2009年5月から裁判員制度が導入され、やがて2年が経過しようとしています。この制度が所期の目的を達成するためには、全証拠の開示と取り調べ過程の可視化が不可欠であるとの指摘が各方面からおこなわれています。この間、鹿児島の志布志事件、富山の氷見事件などで冤罪が明らかになるとともに、足利事件では再審で無罪が確定しました。また、布川事件についても昨年末に再審が結審し、無罪判決が出される可能性が濃厚です。これらの事件に共通している問題は、密室で自白が強要されていることと、新たに開示された証拠などによってこれまでの有罪判決の不当性が明らかにされてきたことです。さらに、昨年9月には、大阪地検特捜部の証拠改ざん隠蔽事件が明るみになりました。こうして、公正な裁判を確保するためには全証拠の開示と取り調べ過程の全面可視化が不可欠であることが、何人も否定できないところとなってきています。早急にこのための法制度の整備が求められています。
  ②景気後退の長期化、失業者やワーキングプアーの増大、民族排外主義的な風潮の高まりの中で、悪質な差別事件や人権侵害が後を絶たない現状があります。一昨年12月4日、京都市にある京都朝鮮第1初級学校に、「在日特権を許さない市民の会」を名乗るメンバー10数人が押しかけ、大音量の拡声器で差別的な暴言を吐き続け、授業中の児童や教員を恫喝・脅迫するという悪質な事件が生起しています。また、同会は、昨年4月、徳島県教組の事務所に乱入し業務妨害をおこなっています。こうした事態に効果的に対応していくためには、救済機能と教育・啓発機能、さらには提言機能を持った国内人権機関(人権委員会)の設置とこのための法制定、さらには差別禁止法の制定が焦眉の急を要する課題となっています。また、自由権規約や社会権規約、さらには女性差別撤廃条約などの個人からの通報を認めた選択議定書の早期批准と人種差別撤廃条約の第14条の受諾宣言が求められています
  ③部落差別をはじめとした差別の撤廃と人権確立社会を実現していく上で、教育・啓発は極めて大きな役割を果たします。その点では、今年で施行11年目に入った「人権教育・啓発推進法」を積極的に活用したとりくみが求められています。このため、10年間の総括を踏まえ、社会情勢の変化を反映した人権教育・啓発基本計画の改訂が必要です。また、昨年から第2段階がスタートした「人権教育のための世界プログラム」の焦点である、高等教育での人権教育の推進と教員、公務員、法執行官等の中での人権研修の系統的な実施を求めていく必要があります。
  ④昨年3月、人種差別撤廃委員会から日本政府の第3~6回報告書の審査を踏まえた勧告が出されました。この中では、部落問題が、この条約の第1条に規定された「世系(descent)」にもとづく差別に含まれることを認めることが再度勧告されるとともに、あらためて当事者を含めた論議をする中で、政府として部落民に関する定義をおこなうこと、部落問題を解決していくための機関を設置することなどが盛り込まれました。また、差別禁止法を制定することや差別的な利用を防ぐための戸籍法の改正の必要性が指摘されました。これらの勧告の誠実な履行が求められています。
  ⑤2008年6月6日に、衆参両院で「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」が採択されたことを受けて、総合的なアイヌ政策の確立に向けて、同年8月から2009年7月まで「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」が開催され、報告書が取りまとめられ、内閣官房長官に提出されました。この報告書を受け、昨年1月、総合的かつ効果的なアイヌ政策を推進するための審議機関として、アイヌ政策推進会議が設置され、審議が積み重ねられています。特に、専門的検討を要する「民族共生の象徴となる空間」と「北海道外アイヌの生活実態調査」の2つの課題については、作業部会が設けられ具体的な検討が進められ、昨年12月下旬から本年1月末まで「北海道外アイヌの生活実態調査」が実施されています。この実態調査結果を踏まえ、 北海道はもとより、首都圏を含むアイヌ民族に対する差別を撤廃し先住民族としての人権が尊重されるための全国的な施策の実施と、その裏付けとなる法整備が求められています。
  ⑥日本政府は、2007年9月、障害者権利条約に署名していますが、その後、この条約の批准に向けて国内法制度を整備するため、2009年12月、内閣総理大臣を本部長にすべての大臣によって構成される障がい者制度改革推進本部が設置されました。また、昨年1月には、障害者の積極的な参画を得た障がい者制度改革推進会議が設置され、障害者基本法の抜本的改正、改革集中期間における推進体制、障害を理由とする差別の禁止法等の制定、障害者総合福祉法(仮称)の制定を軸に国内法整備に向けた論議が積極的に積み重ねられています。これらのとりくみをふまえ、本年は、「障害者基本法」の抜本的改正と制度改革の推進体制等に関する法律の制定が求められています。
  ⑦昨年10月、名古屋で生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が開催されました。この会議において、特に遺伝資源へのアクセスとその利用から生じる利益配分(ABS)に関する国際ルールである「名古屋議定書」と、2011年から2020年までの新戦略計画「愛知目標」が採択され、生産と消費を持続可能にすることなどが盛り込まれました。参加国から松本龍環境相をはじめとしたホスト国のとりまとめ努力にたいして高い評価が示されました。
  ⑧昨年12月、メキシコのカンクンで第16回気候変動枠組み条約締約国会議(COP16)が開催されました。この会議の最大の課題は、2012年で第1約束期間が終了する京都議定書に替わる新たな枠組みに道筋を付けることでした。温室効果ガスの最大の排出国であるアメリカや中国が参加していない現状で、EUなどから京都議定書の延長論が主張されましたが、日本政府代表などの努力によって、最終的には京都議定書延長論の可否は1年先送りされ、2009年のCOP15でのアメリカと中国も参加して自主的な削減努力をおこなうとしたコペンハーゲン合意をもとに、すべての国が参加する国際合意の基礎的な文書が採択されました。今後の課題としては、本年末南アフリカで開催されるCOP17で京都議定書に代わる公平かつ実効ある枠組みが採択されることが求められています。
  ⑨国連は本年を「アフリカ系の人々のための国際年(International Year for People of African Descent)」とすることを決定しています。社会の全ての政治的、経済的、社会的および文化的観点におけるアフリカ系の人々の参加と統合、そしてアフリカの人々が持つ多様な伝統と文化への尊敬を促進することを目的としたものです。また、本年は、国連が定めた国際森林年(the International Year of Forests)でもあります。国際森林年は、世界中の森林の持続可能な経営・保全の重要性に対する認識を高めることを目的としています。日本国内においても、国際森林年という節目の年に、森林・林業再生や、途上国の森林保全等に対する理解の促進につなげていくことが求められています。
  ⑩本年1月から、国連女性開発基金(UNIFEM)など4機関を統一した「ジェンダー平等と女性のエンパワーメントのための国連機関(国連ウイメン)」が、アメリカのニューヨークに本部を置いて活動を開始しました。日本は、この機関を運営する41カ国の執行理事国の一員として選出されていますが、この機会に、決定権限を持つ役職への女性の積極的登用や賃金における男女差の解消、マイノリティ女性の地位向上などにとりくむことが求められています。

4 部落のおかれている状況と差別の実態
(1)脆弱な部落の教育・労働・産業・生活実態を直撃する経済危機

  ①規制緩和され、金融化された経済構造が生み出した2008年9月のリーマン・ショック以降の世界同時不況により、非正規雇用労働者は2008年には最大1796万人に達しました。そして「派遣切り」として大々的に報道されたように、約400万人に及ぶ派遣労働者は依然として増加しています。完全失業率は2009年3月以降5%を上回ったままであり、非正規雇用も含む有効求人倍率に至っては0.5倍にも達していません。
  ②こうした労働環境の劣化は、さまざまな影響をもたらしています。生活保護水準以下の所得の勤労者世帯(いわゆるワーキング・プア)は約660万世帯と全世帯の2割にもおよび、社会の「二極化・分裂」と貧困が拡大しています。特に若年層への打撃は大きく、「子どもの貧困率」は15.7%(ひとり親世帯54.3%)に達し、いわゆる先進諸国の中でも高い数値となっています。就学援助を受ける小中学生は2007年度で142万人(全小中学生の約13.7%)にもおよび、この10年間で倍増しています。そして、2008年度全国学力調査結果でも、就学援助を受けている低所得層の子どもほど低学力傾向が著しいことが明らかとなっています。「知識基盤型社会」の現在、低学歴層ほど不安定就労に就かざるを得ない社会構造はますます強化されています。
  ③こうした教育と労働の悪循環を生み出す社会構造は、脆弱な部落の教育・労働実態に深刻な打撃をもたらします。部落問題に関する2005年の福岡県や鳥取県の調査結果、2008年大阪府部落女性調査結果では、20~30歳代という若年層でも、最終学歴で高校中退者を含む中学校卒業割合が約2割と府県平均より2~3倍高いことや、非正規雇用が約3割(部落女性の場合約6~7割)と府県平均より1.5~2倍という深刻な実態です。特に非正規雇用率は、同じ部落の中年層と比べても著しく高いです。また社会の「二極化」は部落内にも反映しており、若年層ほどその傾向は強いです。2010年に中央本部が実施した部落青年に関する2つの全国調査(雇用・生活実態調査と部落問題認識調査、ともに約800人が回答)でも、ほぼ同様の結果が出ていますし、「将来の生活への不安」がある青年が約4分の3、「差別を受けることへの不安」が約2分の1、「部落出身という意識がある」が約4分の3という結果も出ています。また部落の中で比重が高い建設業関係者も、倒産・廃業の波を大きく受けています。若い世代への働きかけは急務といえます。

(2)社会の不安定化と自己責任論の中で後退する人権・部落問題意識
  ①経済危機と社会の不安定化のなか、社会・経済・政治的な仕組みに問題があるにもかかわらず、その原因を覆い隠すための「自己責任論」が依然として根強いです。その結果、一方では何らかの挫折に伴う自己否定感・孤立感が強まっています。そして解決しない不安や不満の解消の矛先は、偏狭な民族的ナショナリズムとも結びつき、部落をはじめとするさまざまなマイノリティに対するインターネット上での差別・誹謗中傷・排外主義の横行、あるいは「誰でもよかった」という言葉に象徴されるような無差別殺人事件や大量差別投書・落書き事件として顕在化しています。また、相対的に安定した正社員を基本とする労働組合、とりわけ官公庁の労働者・労働組合、あるいは部落解放運動や同和行政へのバッシングなどに意図的に仕向けられています。さらに基本的人権の尊重を顧みない、家族・地域・民族・国家や社会規範・道徳性が声高に強調されています。こうした結果、2007年度実施の内閣府「人権擁護に関する世論調査」結果でも、人権侵害が増加したと感じている人が約42%に及び前回調査より増加しています。
  ②また「人権教育・啓発推進法」(2000年)制定以降のさまざまな取組みにもかかわらず、意識の現状には様々な問題があります。先の「人権擁護に関する世論調査」でも、「基本的人権は侵すことのできない永久の権利として、憲法で保障されていることを知っているか」という問いに対して、2割を超える人が「知らない」と回答し、しかもその割合は増加傾向にあります。近年の各府県での調査においても、地域によって数値のばらつきはありますが、部落出身者との結婚忌避(07年愛知県、08年奈良県・宮崎県・兵庫県)や部落が存在する校区に住むことへの忌避(08年奈良県)も、1~5割程度見られます。

(3)陰湿で巧妙な差別事件の増加と出身者の苦痛・不安
  ①以上のような政治の反動化や経済不況のもとで、社会不安が増大し、陰湿で巧妙な差別事件が急増しています。以下、主な事件について紹介します。
  第1点目は、土地差別調査事件に対する糾弾闘争で真相が究明されてきました。マンションなどの建設予定地周辺の立地条件を調査するマーケティングリサーチ会社(調査会社)が、部落の所在地などの情報を報告書としてまとめ、依頼主に提出していました。報告書には「問題地域」「地元で有名な問題あるエリアとして敬遠されている」などの表現を用いて部落の所在を報告していました。調査会社5社、広告代理店13社、ディベロッパー15社への確認会や糾弾会で、マンション建設に関する土地購入について部落を敬遠し避けたいとする忌避意識があったこと、契約書すら存在せず口頭で依頼がなされていたこと、部落にマンションを建設しても売れないという現実がある以上、利益を追求する企業としては「差別ではない」と主張する企業が存在していることなどが明らかになってきています。土地差別調査事件の防止に向けて業者の自主規制や土地差別を規制する条例の制定が求められていますが、大阪府では「部落差別事象に係る調査等規制等条例」の一部改正案が示されその動向が大きく注目されています。
  ②第2点目は、インターネット上の差別事件が悪質化していることです。2008年8月にグーグル社が開始した地図情報サービス「ストリートビュー」で、部落の画像情報を書き込んだり、「グーグル・マップ」を利用して部落の所在を書き込み差別地図をネット上で公開するなど差別的に悪用されていることが発覚し、をグーグル社や法務局、行政などに抗議と削除要請をおこないましたが、今なお「鳥取県内の同和地区」「大阪市内の同和地区」「滋賀の部落(同和地区)一覧」等の差別地図が種類を増やしながら公開され続けています。いわばインターネット版「部落地名総鑑」で、差別に悪用される恐れがあり、早急なとりくみが求められています。
  ③第3点目は、経済不況のもとで、雇用差別につながる公正採用選考での違反事例が急増していることです。各都府県連で労働局、経営者団体等へ就職差別の撤廃にむけて要請行動がとりくまれました。
  ④第4点目は、戸籍謄本などの差別につながる個人情報の収集にかかわる差別の根絶に向けたとりくみの前進です。一昨年5月から「改正戸籍法」が施行され戸籍謄本などは原則非公開となりましたし、部落解放運動の働きかけで各地の自治体で不正な第3者請求にたいする本人通知制度の導入がすすめられ、大阪府、愛知県、広島県、山口県、埼玉県などでは「登録型本人通知制度」の導入が広がっています。
  ⑤第5点目は、自治体や社会福祉協議会などでの結婚相談事業に関わって、戸籍謄本を提出させたり、申し込み時に本籍、宗教、身体での障害、家族とその職業などを記入させていた差別事件が2008年に全国各地で発覚し、「結婚相談申込書」の改訂にとりくんできましたが、富山県、福井県につづき、石川県でも改訂が実現しました。
  ⑥第6点目は、連続して生起している差別落書・投書.電話・電子メールなどの事件です。大量の差別落書きが発覚した東京都葛飾区や和歌山県紀の川市などで差別を扇動し命を脅かす悪質な事件があいついでいます

(4)5領域からの差別実態の本格的な調査実施を
  ①部落問題に関わる調査の多くは、「同和地区住民生活実態調査」と「市民人権意識調査」そして差別事象の集約分析、の3つの領域で取組まれてきました。しかし差別の現実は、部落の側に現われる「実態的被差別の現実」、「心理的被差別の現実」、部落以外の側に現われる「実態的加差別の現実」と「心理的加差別の現実」、そして「差別事件の実態」という5つの領域があり、今後ともそれらを総合的に把握する必要があります。
  ②また、この10数年におよぶ貧困の増大、特に雇用と生活の不安定化の進行といった情勢の大きな変化が部落に及ぼしてきた影響を本格的に明らかにすることが求められています。

二 部落解放運動の基本課題
1 本大会の意義と任務
(1)差別構造の拡大・深化状況のもとでの部落解放運動の任務

  ①1980年代にアメリカのレーガン主義、イギリスのサッチャー主義と呼応した中曽根内閣によって「戦後政治の総決算」を掲げながら開始された新自由主義路線は、1990年代の東西冷戦構造の終焉のもとで加速し、2000年に登場した小泉内閣によって本格化しました。「自己責任と自由競争」という市場原理主義にもとづく新自由主義路線は、弱肉強食の社会を作り出し、格差拡大社会を現出させてきました。
  ②特徴的な事態は、派遣社員に象徴される不安定就労層が全就労人口の3割を超え、200万円以下の低所得者層も3割を超えているという現状です。これは、以前部落問題の特徴として語ってきた社外工・臨時工という不安定就労と低所得という差別構造の実態が、日本社会全体に及んできていることを示しています。このような事態は、当然のことながら、大きな社会不安を呼び起こし、人間のつながりをバラバラにして、差別を強化していきます。
  ③バブル経済が崩壊して以降13年連続で3万人超の自殺者を数え、高齢者や子どもへの悲惨な虐待が後を絶たず、明日への希望を失った若者が自暴自棄になって無差別大量の殺傷事件を起こすという深刻な事態が続いています。部落差別事件も、土地差別調査事件やインターネット差別書き込み事件、就職や結婚時における差別身元調査事件などにみられるように「顔の見えない陰湿で巧妙な差別」が横行していることを決して許してはなりません。
  ④1昨年8月に実現した歴史的な政権交代により、民主党を中心とした連立政権が成立し、社会的弱者や少数者の立場に立って、格差社会の是正や雇用の安定・拡大政策などを実施しようとしていますが、残念ながら鳩山政権も菅政権もまだ充実した効果的政策を打ち出し得ていないのが現状です。
  ⑤しかし、注目すべき大事なことは、新政権が打ち出してきている諸政策は、既に同和行政の中でとりくまれてきた諸事業と重なる政策が多いということであり、部落解放運動がとりくんできた政策要求の先駆性を改めて見直す必要があります。たとえば、緊急雇用対策、就労支援対策、子ども手当、高校授業料の無料化、生活保護と自立就労支援策、最低賃金の引き上げ見直し政策などです。同和対策事業が地域の枠内に閉じ込められた限界性を突破して、部落問題解決の仕組みをすべての困難をかかえた人の問題解決の仕組みへと押し出していくことが、差別構造の拡大・深化の進行のもとではきわめて重要な課題であり、今こそ部落解放運動の経験と知恵が活かされなければなりません。

(2)参議院選挙敗北を乗り越える運動と組織の改革
①昨年7月に実施された参議院選挙闘争は、その意味でもきわめて重要なとりくみでしたが、民主党は大敗し、2選をめざした松岡候補を落選させてしまうという衝撃的な敗北を喫しました。
  ②参議院選挙敗北に対する全国的な総括運動を踏まえて、最大の敗因は部落解放同盟の運動と組織の深刻で危機的な実態の反映であることを確認し、これを乗り越えるために運動と組織の抜本的改革を躊躇なく推し進めることが焦眉の課題であることを共有してきました。
  ③具体的には、第1に、各級機関決定の「方針や行動」を真摯に履行しようという同盟員の思いが稀薄化している実態です。第2に、部落解放運動の課題や選挙闘争の意義について、とりくみ課題に対する同盟員の共感と情熱を呼び起こすような教宣活動・オルグ活動など活動のやり方そのものが決定的に不十分であったことも事実です。第3に、上意下達的な機械的命令的なやり方が、消化主義・ノルマ主義的なとりくみと面従腹背的な数合わせのとりくみに陥っていたということです。第4に、これらの問題は、今日の部落解放運動が従来の同和対策事業に代わる新たな運動課題を提起でき得ていない現状の反映であり、「人権のまちづくり運動」や「人権の法制度確立運動」などで部落解放運動の新たな時代における魅力をつくり出そうとしているがまだまだ不十分だということです。同時に「人権と仕事(生存権)」を両輪の課題として運動を創り出していくことが喫緊の課題であることも示しています。第5に、功利と打算にもとづく「特措法」時代の悪弊から抜け出しきれない活動スタイルの根強い一面を浮かび上がらせている問題も存在しています。第6に、一連の不祥事などで失墜した部落解放同盟の社会的信頼はまだ回復し切れていないということです。第7に、結論的に言うならば、この間の「部落解放運動の再生・改革」運動の中で提起されてきた部落解放同盟の負の課題が、克服されないままに凝縮された形で参議院選挙の結果として表れてきたとの認識が不可欠です。
  ④この敗北を乗り越えるためには、第1に部落大衆や困難を抱える人びとの生活課題に密着した運動を部落内外の協働の力で再構築することによって、生活圏域から部落解放同盟への信頼と求心力を回復していくことです。第2に、この4年間で実施してきた再生・改革運動の集約である「行動指針」、「新規約」、さらに今大会で提案している「新綱領」にもとづく新たな部落解放同盟の組織と運動の方向を組織内外に明確にして、躊躇なき不断の改革を実行していくことです。第3に、政治闘争を重視して「人権・平和・環境」を基軸にして部落解放運動が政治に何を求めるのかを政策協定などで明確にしながら、今年4月(10日と24日)に実施される統一地方選挙での組織内候補や推薦候補の当選を勝ち取るとともに、再来年の第23回参議院選挙に臨む方針を明確にしていくことです。

(3)綱領改正を契機に反転攻勢の部落解放運動の推進 
  ①今回の綱領改正に着手した背景には、次のような時代認識が存在しています。第1に、「特措法」時代33年間のもとで部落差別の実態が大きく変化してきていることです。第2に、2002年3月の「特措法」期限切れ後に同和行政の後退や人権行政の混迷という状況が生じていることです。第3に、2006年の一連の不祥事という部落解放運動の深刻な事態が惹起してきたことです。第4に、21世紀初頭前後からの新自由主義路線の本格的台頭で急速に進行した格差拡大と差別構造の全体化という社会状況のもとで部落差別撤廃のとりくみの成果が損なわれていく逆流現象が起きていることです。
  ②以上のような時代認識を踏まえて、これまでの多くの部落差別に関わる議論に対する論点整理をおこなった上で、不毛な論争は排して現実の部落差別を克服していく具体的な政策を導き出す論理構成を主眼にして改正作業をおこなってきました。主たる改正要点は次のようなものです。第1に、「部落民」、「被差別部落」に関する概念を運動的に定義し、曖昧模糊としている組織論や運動論に明確な筋道をつけるということです。
第2に、部落差別問題が明治期以降の近代日本社会で再編された社会問題であり、現行憲法の基本精神が具体化されれば現体制のもとでも解決可能であることを明示していることです。第3に、「3つの命題」を継承した「差別の社会的機能」論に立脚し、差別の特徴的な現れ方である「排除・忌避・孤立」に着目して、これを克服する方向性として「社会的連帯」をうちだしていることです。第4に、社会的連帯を実現するにあたって、さまざまな差別の複合性や共通性を重視し、国内外の協働行動の必然性を強調していることです。第5に、部落が解放された状態、そのための社会的条件および具体化への基本目標を提示し、部落解放同盟がめざす方向性を明確にしていることです。第6に、あらためて部落解放同盟が全国水平社の歴史と伝統を正当に継承しており、自主解放の旗を高く掲げることを宣言していることです。 
  ③今回の綱領改正にあたっては、『綱領』の性格上字数が制限されるために、別途『「部落解放同盟綱領」解説のための基本文書』をもって補完するようにしています。そこでは、部落差別実態の全体像を把握するための「5領域」や「5形態」の問題、明治期以降の差別撤廃のとりくみに関わる歴史的経過と評価の問題、部落差別を生みだし支える社会的背景としての社会意識、社会構造、人間存在の問題等々についても論及しているところであり、今後より豊かな解放理論として『解説書』を仕上げていくことも重要です。
  ④今大会での綱領改正を契機にして、新たな部落解放運動の展開を推し進め、2006年の一連の不祥事に対する再生改革運動の総仕上げと昨年の参議院選挙敗北を乗り越える運動と組織の建設へと反転攻勢を開始していくことが今大会での最重要の意義と任務です。

2 2011年度(第68期)の重点課題
(1)組織・財政改革と地域からの生活に密着した闘いの課題 
  ①運動と組織を改革していく基本方向は、「綱領」や「規約」「行動指針」ということで議論をしてきましたが、これを具体的に運動現場で実践していくことがもっとも重要であることは言うまでもありません。
  ②したがって、第68期の重点課題の第1として、それぞれの地域での生活に密着した運動課題の発掘とそれを具体化するとりくみに全力をあげます。そのために、運動局を中心に5つの運動部(人権政策・教育文化・生活労働・農林漁業・中小企業)が、各地域で運動を活性化させるための重点課題を明確に設定して、それを具体化するとりくみを集中的にすすめていきます。その際、目的意識的に若手が積極的に参画・関与できるようなとりくみ方を工夫し、若手育成・登用の場を作っていくことです。
  ③各運動部の重点課題設定にあたって大事なことは、すべての課題を「仕事づくり」や「雇用創出」のとりくみにつなげていくという視点から検討することです。
  そのために、まず第1は、各運動部のさまざまな課題について、協業化やネットワークなどの形を工夫して「仕事づくりへの事業」として組み立てていくということです。「事業」が私的な利益追求にならないようにしっかりとした議論を積み重ねて、社会性や公益性をもった「社会的企業(ソーシャルビジネス)」や「社会的起業」として、健全な経営・運営をめざすことです。
  第2に、このようなとりくみは、全国一斉にということにはならないので、既に各地域でとりくまれている先進的事例を全国共有できるように「交流の場」を設定していきます。「人権のまちづくり運動全国交流集会」など中央本部主催で開催してますが、もっと自発的に自由に個別地域がつながりあったり、ブロック段階で頻繁に経験交流できる場づくりを中央本部が縁の下の力持ちとして支援する仕組みをつくっていきます。
  第3に、運動展開にあたっては可能な限り部落内外をつなぐ協働のとりくみとして押し進めていくことです。さまざまな運動分野において、部落の枠を超えた多様な協働したとりくみが複層的に形成されていくことが、社会的連帯を具体的に作り出し、部落問題を解決していく力になっていくのであり、部落解放運動の裾野を大きく拡大する活力になっていきます。
  ④これらのとりくみは、地域から「仕事・雇用」を創り出していく闘いとして重要であり、他者雇用を求めるだけなく自己雇用の道を切り開いていくとりくみです。行政依存から脱却するための組織・財政改革の柱としていく必要があります。

(2)部落問題解決への行政責任の明確化と人権侵害救済法制定にむけた闘いの課題
  ①一般施策を活用した人権・同和行政の展開が、「特措法」失効以降の基本ですが、その基本方向がしっかりと確立しておらず、縮小・後退の傾向が顕著です。再度、各地で行政闘争を強化し、差別実態にもとづいた「自助・共助・公助」の立場から部落問題解決にむけた行政責任を明確にさせていくことが必要です。
②とりわけ、国や自治体が打ち出す経済・雇用政策や教育・福祉政策などの必要施策が、部落を素通りしていくことがないように、各地域で行政と同盟との間で速やかな情報伝達と施策活用ができるかどうかの政策検討ができる仕組みづくりをしていくことが喫緊の課題です。また、部落問題の窓口機構も再確立させる必要があります。中央段階では、政府各省交渉や事務折衝を頻繁に実施しこれらの課題に対応し、「人権のまちづくり」運動や「人権の法制度」確立にむけた闘いを強化していきます。
  ③現在開会中の第177回通常国会での「人権侵害救済法」の制定を実現するとりくみを強力に推進していきます。民主党を中心とした連立政権のもとにおける「人権侵害救済法」制定にむけたとりくみの到達点は、現時点では大きく言って次の3点であると言えます。第1は、昨年2月3日の参議院本会議での松岡議員の代表質問に対する「法案の早期国会提出への努力」との鳩山総理の答弁が菅政権でも基調として継続していることです。第2は、昨年6月22日に千葉法務大臣が記者会見で「新たな人権救済機関の設置について(中間報告)」(法務省政務三役)を公表したことです。
第3は、国会提出法案の討議をおこなう場としての民主党「人権議連」が発足し、超党派「21世紀人権懇話会」の再編強化がはかられていることです。
  ④すでに、中央実行委員会構成団体を中心に、「国会対策本部」が立ち上げられ、集中的な国会闘争が展開されています。今後は3月中旬頃から予算集中審議後の個別法案が審議されていく段階であり、連続的な中央集会や統一要請行動を実施していくことと併せて、中央実行委員会構成団体ごとの独自要請行動や都府県段階を中心とした地域実行委員会ごとの独自要請行動や中央集会などのとりくみを強化していきます。
  ⑤特に、民主党「人権議連」との意見交換の場を頻繁にもちながら、政権与党の中枢機関に対する要請行動を強化することが重要です。また、超党派の「人権懇話会」の構成を現在の民主党・国民新党・社民党・公明党・自民党の枠組みからさらに拡大し、各党の参加議員の増員強化をはかるとともに、与野党各党内での賛同議員の拡大をはかっていきます。
  ⑥現況のねじれ国会のもとでは、1つの法案を通すこともきわめて厳しいものがあります。しかし、「人権侵害救済法」は国会論議の俎上にのってから既に10年目を迎えようとしており、何としても第177回通常国会での決着をめざしていきます。

(3)狭山第3次再審の実現を勝ち取る闘いの課題
  ①2009年12月に東京高裁が東京高検に対して8項目の証拠開示を勧告してから狭山再審闘争は、再審実現に向けて新たな局面が切りひらかれてきています。2010年5月には3者協議で東京高検が36点の証拠を開示してきました。検察側からの初めての証拠開示でありそれ自体は大きな意義がありますが、重要な証拠が開示されていないという問題があります。すなわち、「殺害現場とされる雑木林の血痕検査にかかわる捜査報告書等一切」、「雑木林を撮影した8ミリフィルム」、「未開示の死体写真」については、「不見当」として開示しなかったのです。殺害現場が雑木林であったとされているのは、石川さんのでっち上げられた「自白」しか存在せず、客観的な証拠による殺害現場の特定ができないとすれば、狭山事件そのものが根本から覆されるものであり、さらに東京高検に証拠開示を迫りながら、東京高裁に事実調べを実現させるとりくみを強化して再審実現・石川無実を勝ち取っていきます。
②狭山弁護団は、開示された証拠について立て続けに検察官や東京高裁に対する意見書や要請書を提出してきています。2010年8月27日付け「意見書」(検察官に「不見当」とする理由の十分な説明と関連する証拠開示を求めたもの)、同9月8日付け「要請書」(石川さん着衣の血痕検査に関わる捜査書類などの開示勧告を東京高裁に求めたもの)、同12月14日付け「意見書」(再度の検察官の「不見当」回答に対する求釈明と関連する捜査指揮簿などの証拠開示を求めたもの)などです。さらに、12月14日には、証拠開示された石川さんが書いた上申書や領収書と「脅迫状」との筆跡鑑定書を新証拠として提出し、同一人物の筆跡ではないとしています。
  ③2010年12月15日に第5回三者協議がおこなわれましたが、検察側は犯行現場に関わる3項目の証拠については「不見当」の回答をくりかえすことにとどまっており、本年3月に予定されている第6回三者協議にむけて強く求釈明を迫るとともに関連の証拠開示を求め、一日も早い再審の実現と石川さんの無実を勝ち取っていかなければなりません。
  ④同時に、足利事件や布川事件などにも共通して見られるように、虚偽自白の強要と証拠捏造という冤罪事件の構図を打ち破っていくためにも、「取り調べ可視化法案」の制定や再審請求での証拠開示制度の確立に向けた司法の民主化を実現していくことが喫緊の課題です。

(4)土地差別調査事件などへの糾弾糾弾闘争を強化し社会変革を推進する闘いの課題
①2007年から発覚していた一連の「土地差別調査事件」に対する粘り強い事実確認を踏まえたうえで、昨年11月から集中的な糾弾闘争を展開し、現在も全面的な真相究明にむけたとりくみを継続しているところです。現時点で「土地差別調査事件」への関与が明らかになっているのは、調査会社5社、広告会社13社、不動産会社15社です。
  ②この間の糾弾会で明らかになってきている問題点は、第1に住宅建設にかかわる土地購入にあたって被差別部落を敬遠したり避けたいという忌避意識があったということです。第2に、広告会社、調査会社、不動産会社との契約関係がすべて口頭ですすめられているという巧妙・陰湿な点です。第3に、個別企業の私的利潤追求のためには、差別実態・構造を前提として商いをおこない、これを固定化していることです。
  ③「土地差別調査事件」は、住宅建設・販売にかかわる土地調査において、多くの不動産会社、広告代理店、調査会社などが、被差別部落や外国籍住民、障害者などを排除・忌避するというシステムを長年にわたって作り上げていたことを露呈させたものであり、改めて日本社会の差別的構造や意識の根深さを示しており、断じて許すことができないものです。私たちが今日の差別事件の特徴として指摘してきた「顔の見えない巧妙で陰湿な差別事件の横行」という事実を端的に示す差別事件であり、関係会社の糾弾は言うに及ばず、業界に対する監督指導責任のある政府・行政の責任と姿勢も厳しく追及していく必要があります。
  ④差別構造の全体化という今日の日本社会にあって、インターネットによる差別書き込み事件や行政書士・司法書士などの差別身元調査事件など、巧妙・陰湿化する部落差別に対する糾弾闘争を強化し、排除・忌避を乗り越えていく社会連帯のシステム構築をめざして社会変革の闘いを推し進めていくことが今こそ大事です。

(5)統一自治体選挙に勝利し「全国議連」を再結成する闘いの課題
①本年4月の統一自治体選挙にむけて多くの組織内候補や推薦候補が最終段階における活動を活発に展開していますが、参議院選挙の敗北を乗り越えて私たちが政治に求めるものは何かということを「政策協定」を通じて強く訴えていく必要があります。
  ②政策協定の基本的な柱として、第1に人権のまちづくり、人権行政、人権教育の推進、第2に社会的差別の禁止、人権侵害救済にかかわる法律・条例の制定、第3に憲法第9条の尊重にもとづく平和政策の推進と男女平等社会や多文化共生社会の実現、第4に部落解放同盟のとりくみへの積極的協力や定期的な政策懇談会への参加などが明記されることです。
  ③政策協定にもとづく組織内候補や推薦候補の必勝へむけ全力を尽くすとともに、統一地方選挙後にはできるだけ早い時期に「全国議連」の再結成をするとりくみをおこない、政策協定の実行や地方分権化時代における人権政策の確立や生活課題に関わる政策立案や情報交換の場づくりをしていきます。
  ④また、「全国議連」の活動を活発化させていくとりくみと併行して、再来年の参議院選挙をはじめとする国政選挙を闘える体制をつくっていきます。とりわけ、参議院選挙では、昨年の敗北を乗り越えるためにも慎重な検討と周到な準備をおこない、どのような闘い方をするのかを早急に決定していきます。

(6)反差別国際運動を国内・地域で具体化する闘いの課題
①本年5月には反差別国際運動(IMADR)の理事会・総会が、日本で開催され、各地で企画されている関連イベントへ積極的に参画していきます。1988年1月に反差別国際運動が結成されてから24年目を迎えますが、国連との協議資格をもつNGOとして、国際的にもその活動は高く評価されており、部落解放同盟としてもその活動を支える中心的役割を今後とも果たしていかなければなりません。
  ②とりわけ、昨年3月に出された「人種差別撤廃委員会の日本政府への勧告」に対する具体化の要請行動や「職業と世系にもとづく差別の撤廃にむけた原則と指針」を国連の公式文書にしていくとりくみ、さらには国際人権諸条約の「個人通報制度」の批准運動などを多くの人権NGO団体と協働して積極的に推進していきます。
  ③また、「人権教育のための世界プログラム」第2段階の推進計画の具体化を政府に求めるとともに、国連人権高等弁務官事務所やユネスコと連携してとりくみをすすめていきます。さらに、国際人権諸条約にかかわって、政府報告書や国連勧告を審議し具体化していく場を行政府や立法府に求めていきます。
  ④今年は、国際人権基準を国内・地域での闘いの武器として具体化していくとりくみを重視するとともに、若手育成のとりくみ課題としても積極的に青年が関わってこれるような体制づくりを追求します。

部落解放運動は、今、大きな変革の時代の岐路に立っています。来年の水平社創立90周年、さらに2022年の100周年という大きな節目を見据えた運動の展開が求められています。
  私たちの先達は、「年月を単に積み重ねることだけが歴史や伝統ではない。時々の運動を真摯に総括し、未来への明確な展望を指し示すことができる時にはじめて歴史と伝統を語る資格がある」と教えてくれています。
  長い「歴史と伝統」をしっかりと胸に刻み込みながら、統一と団結の力で第68回全国大会を部落解放運動の未来を切り開く重要な大会として成功させよう。

 

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