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部落問題資料室
部落解放同盟ガイド

2015年度(第72期)一般運動方針案

第Ⅰ部 基調方針
一 部落解放運動をめぐる情勢の特徴

3 人権と環境をめぐる情勢
 ①世界経済フォーラムが昨年、政治や経済、健康、教育の4分野で男女の格差(ジェンダー・ギャップ指数)を調べたところ、日本は調査対象となった142か国中、104位です。2014年10月に内閣府が実施した男女共同参画社会に関する世論調査でも「夫は外で働き、妻は家庭を守るべき」という意見について、賛成が52.1%、反対が45.1%となっています。しかも、調査開始以来減り続けていた賛成の割合が初めて増加し、逆に反対の割合が減少するという、これまでの傾向が逆転しました。
  ②安倍政権の「成長戦略」のなかで取りあげられている「女性の活用」も人口が減少するなかで、女性を労働力、出産率のアップへ利用しようとするものです。都議会や国会で女性議員にたいして、「早く結婚した方がいい」「まず産まないと」などとヤジを投げつけたのが自民党議員であり、これは自民党の体質だという声も党内から出ているほどです。
  ③グローバル化がすすむなかで、非正規労働者化、低賃金労働者化、貧困化が若者層を中心に深刻化しています。みずからのアイデンティティを偏狭なナショナリズムにおき、自己責任論が蔓延し強者だけが生き残る社会のなかから排除された者のはけ口としても、差別排外主義が蔓延し、「在特会」などによるヘイトスピーチ、ヘイトクライムがくり返されています。
  一方、昨年12月、最高裁は「在特会」による京都朝鮮第1初級学校への街宣にたいして、「人種差別撤廃条約」に規定する人種差別にあたると認定し、1226万円の損害賠償や民族教育の重要性を示した大阪高裁判決が確定しました。また、一昨年11月には、ヘイトスピーチへの監視や反差別・人権情報発信にとりくむ「のりこえねっと」が結成されました。さらに昨年7月に国連自由権規約委員会が、8月には国連人種差別撤廃委員会が日本政府にヘイトスピーチにたいする法規制や禁止を求める見解や勧告をおこないました。しかし、安倍政権は無視し続け、ヘイトスピーチを繰り返す「在特会」などと歴史認識を共有する安倍首相や自民党の稲田政調会長などが、そうした活動を是認しています。
  こうしたなかで、国会議員のなかからヘイトスピーチに関して新法を求める動きも出てきています。「国は対策をとるべき」とする意見書が、奈良県、福岡県、長野県、鳥取県、神奈川県など23の地方議会で採択されています。また、カウンター行動などの市民運動も活発化しています。
  ④経済危機と社会の不安定化のなか、社会・経済・政治的な仕組みに問題があるにもかかわらず、その原因を覆い隠すための「自己責任論」が依然として根強くあります。その結果、一方では何らかの挫折にともなう自己存在への否定感と孤立感が強まっています。そして解決しない不安や不満の解消の矛先は、偏狭なナショナリズムとも結びつき、部落をはじめとするさまざまなマイノリティにたいするインターネット上での差別・誹謗中傷・排外主義の横行、ヘイトスピーチや大量差別投書、落書事件として顕在化しています。また、相対的に安定した正規労働者を基本とする労働組合、とりわけ官公庁の公務員労働者や労働組合、あるいは部落解放運動や同和行政へのバッシングなどに意図的に仕向けられています。さらに基本的人権の尊重を顧みない、家族・地域・民族・国家や社会規範・道徳性が声高に強調されています。
  また、朝日新聞がいわゆる従軍慰安婦問題の記事をめぐり、吉田証言の誤りを認め、それに関連する記事の誤りも認め謝罪し、東京電力福島原発事故での吉田調書に関する記事についても誤りだったとし謝罪しました。こうしたなかで一部メディアが「国益を損ねた」「国辱」などと、反朝日キャンペーンを大展開しました。いずれも、日本のアジア侵略への歴史認識を欠落させ、事故をおこした東電や国の責任を免責するものです。差別排外主義グループの主張と共鳴し合うものとなっています。
  ⑤2013年度の配偶者からの「配偶者暴力相談支援センター」への相談は、女性からが圧倒的で9万9961件となっています。13年度の警察への配偶者間暴力の相談件数も4万9533件あります。ストーカー被害も2万件をこえています。
児童虐待では、13年度の厚生省発表値では7万3765件あり、10年前に比べると2・8倍と年年増加する傾向を示しています。
⑥一昨年4月から実施されてきた新出生前診断では、導入から1年間で陽性と判断された人のうち97%が中絶していることがわかりました。また米国ではこの診断で検査項目の拡大が加速しています。日本への波及も懸念されています。
  いずれも命の選別などにつながるものです。障害者インターナショナル(DPI)女性障害者ネットワークは、「人は、偶然にさまざまな特性をもって生まれます。心身の機能が他の人と違うこともそのひとつです。それが「障害」になるかどうかは、社会の側の問題であるという認識が定着しつつあります」「障害への偏見がとりのぞかれるとともに、障害があってもなくても、育てようとする人を支援する社会制度が充実してほしいと思います」という意見を示しています。
  ⑦昨年6月に成立し、2016年から施行されるのが「障害者差別解消法」です。法の中核は「障害者自身が自分のことは自分で決める」ということです。「障害者差別解消法」では、障害を理由に雇用の拒否、公共交通機関の利用の拒否などの「差別的取り扱いの禁止」と、障害をもつ当事者からの社会的障壁の除去の意思表示があったとき、その実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならないとする「合理的配慮」の不提供を障害者差別としています。ただし、「合理的配慮」の不提供は、国や自治体にとってであり、民間業者にとっては努力義務となっています。
  差別を解消するためには、法の趣旨や目的を実質化するためにも、より障害者の権利を推進する自治体の先進的な条例の制定が必要です。とくに「地域協議会」の設置など、今後の人権救済機関創設につながるものでもあり、政府、自治体にこうしたことを求めていくことが重要です。
  ⑧ハンセン病の隔離政策などにたいして、2001年に国家賠償訴訟が熊本地裁で全面勝訴しました。2008年には「ハンセン病問題基本法」が制定され、一見解決したかにみえましたが、「まったく解決していない。人権や人間としての尊厳は横に置かれ、苦しんでいる人がたくさんいる」と訴え続けてきた全国ハンセン病療養所入所者協議会(全療協)の神(こう)美知宏会長が昨年5月に亡くなりました。また差別解消を求め、国家賠償訴訟を先頭で闘ってきた、詩人でもあった谺(こだま)雄二さんも昨年5月に亡くなりました。
  熊本大学医学部の前身の熊本医科大学が、本人の承諾を得ずにハンセン病入所者の骨格標本を作製していた問題では、昨年3月に本人承諾がないことで倫理上の問題点を指摘する調査報告書が出ました。しかし、ほかにも同じ例はないのかどうかなど、調査不足を指摘する声も上がっています。
  熊本県では、住民に差別を増幅させた「無らい県運動」について検証委員会が昨年6月に報告書を県知事に提出しました。報告書では、この運動がハンセン病への恐怖心や偏見を生み、患者はあらゆる社会的関係から断絶され、地域での居場所を奪われたことや、いまも差別や偏見にさらされていることを指摘し、差別解消へ継続的とりくみを求めています。
  また、1950年代に熊本県で起きた殺人事件で、ハンセン病患者であるがゆえに差別視され、犯人とされ、死刑を執行された「菊池事件」で、遺族は根深い差別のために声をあげられないなかで「検察みずからが再審請求を」との声が高まっています。この裁判では「特別法廷」という名の隔離法廷が設けられたことから、遅きに失したとはいえ、最高裁が検証をはじめています。昨年12月の最高裁による熊本、沖縄での入所者への聞き取りでは、検察が証拠物を火ばしでつかんでいた、入廷前に消毒液を張った木箱に足を入れたなどの体験談が出され、当時の差別的手続きや人権侵害にたいして、最高裁の謝罪が求められています。
  ⑨文科省の調査により、全国の9大学に1635体のアイヌの遺骨が保存されていることがわかりました。これらは、研究目的での盗掘もふくめ北海道内外の墓地から集められたものです。個人が特定できるのはわずか23体で、ほとんどが個人を特定できないという、あまりにもずさんな管理に驚きの声が出ており、アイヌ政策推進会議(官房長官を座長にアイヌ民族代表、有識者で構成)で遺骨を「アイヌ象徴空間」(基本方針を昨年6月に閣議決定。国立アイヌ文化博物館を中核組織に民族共生公園などを併設)に集約し慰霊施設を作ると決定しています。また、政府は8月に2015年度にアイヌ民族への差別や偏見についての全国調査をおこなうことも決めました。
  昨年8月には自民党の札幌市議会議員が「アイヌ民族なんて、いまはもういない」などとツイッターに書き込み、大きな問題となりました。自民党は個人的見解として処分をしない態度を示しました。官房長官が遺憾の意を表明し、その後、この議員は自民党から除名され、辞職勧告決議もおこなわれました。こうした経緯があったにもかかわらず、昨年11月には今度は「アイヌは先住民族か疑念」などとする、アイヌ否定発言が自民党会派の北海道議会議員からおこなわれました。

4 部落のおかれている状況と差別の実態
 ①新自由主義と投機経済にもとづく経済危機は、世界的な規模で進行しています。こうしたなかで、若者層の非正規労働者化がすすんでいます。非正規労働者は現在、2012万人と2000万人を突破し38%となり、1985年に比べると2倍になっています。15歳から34歳までの非正規労働者は50%をこえています。正規労働者の率が高かった製造業は生産拠点を労働力が安い海外に移し、雇用が減り、正規労働者であった人が転職で非正規となる傾向も強まっています。正規労働者はこの間29万人減っています。
  年収が200万円以下のワーキングプアとよばれる人びとも1000万人を突破しています。若者層では、ブラック企業と分かりながらも正規労働者として就職したいという願望をかなえるために仕事に就き、心身がボロボロになり使い捨てにされるという実態もあります。2012年のユニセフ調査では、2047万人の子どものうち、305万人のこどもが貧困家庭で育っています。これは先進国では9番目の高さです。2012年の厚生労働省の調査でも、相対的貧困率は13.6%で過去最悪となっています。さらに、日本は子どものための施策への公的支出が国内総生産(GDP)比1・3%と極めて少ないことも問題です。親の貧困が子どもの貧困に結びつき、より深刻な状況であるにもかかわらず、実効ある対応策が取られていません。そのため生育環境の不利によって教育の機会の制限が加えられ、たとえば生活保護世帯の子どもたちの高校進学率は10%も低いという現実があります。学歴が低いと、不安定就労-非正規労働にしかつけず、「教育と労働の悪循環」「貧困の再生産-連鎖」の傾向が強まっています。
  ②こうした社会構造は、部落の若い世代の教育・労働実態などにも深刻な打撃をもたらしています。2006~10年に実施された愛知・埼玉・大阪・兵庫・奈良・京都の部落女性調査結果(1万1265人)では、20~30歳代の若者層でも、最終学歴で高校中退者をふくむ中学校卒業割合が約10%強と府県平均より2~3倍高く、非正規雇用が約6~7割と府県平均より1.5~2倍高い実態が存在します。
  2010年に中央本部が実施した部落青年に関する雇用・生活調査(約820人回答、福岡・高知・香川・大阪で過半数)では、さらに深刻な結果が出ています。また「差別を受けることへの不安」が約2分の1、「部落出身という意識がある」が約4分の3、結婚平均年齢が約24歳(全国平均29歳)という結果も出ています。さらに部落のなかで比率が高い建設業関係者も倒産・廃業の波を大きく受け、若者層の雇用不安定を招いています。
  ③「人権教育・啓発推進法」(2000年)制定以降の、さまざまなとりくみにもかかわらず、意識状況にはさまざまな問題があります。「人権擁護に関する世論調査」でも、「基本的人権は侵すことのできない永久の権利として、憲法で保障されていることを知っていますか」にたいして、2割近い人が「知らない」と回答しています。さらに近年の各府県人権意識調査では、府県によって数値のばらつきはありますが、部落出身者との結婚忌避(2007年愛知県、2008年奈良県・宮崎県・兵庫県、2010年大阪府)や部落が存在する校区に住むことへの忌避(2011年大阪府)が4割以上あります。そして大阪府や京都市(2011年)の意識調査結果では、部落問題認識が10年前と比較して後退していることが明らかとなっています。
  ④この間おこなわれた実態調査として、「鳥取県南部町同和地区実態調査」(2011年)と「三重県伊賀市部落実態調査」(2012年)があります。鳥取県南部町の調査では、少子高齢化現象の進行とともに、大学などの進学率の低さや生活保護率の高さがあらわれています。また、不安定就労率が高く、年収250万円未満が60%を占めています。さらに、10年間で22.7%の住民が被差別体験があったとの結果が示されています。三重県伊賀市の調査でも同様に、若者層や高学歴層の流出、生活保護率と不安定就労率が高くなっています。また、世帯収入300万円以下が58.9%(部落外は36.8%)であり、5年間の被差別体験も25.7%になっています。
  こうした厳しい実態の要因として、安定した層が部落外に流出し、より困難を抱える層が部落に流入している現実があります。まさに貧困-不就学-不安定就労という悪循環のもとで、新たな貧困化が生み出されています。部落のひとり親家庭の問題では、大阪、福岡、徳島、鳥取でのひとり親家庭母親の実態調査(2010~2013年)があります。このなかでは、子育て・老後に不安をもつシングルマザーが多く存在し、就労、生活基盤の確立が困難な課題となっています。また、子どもへの暴力や虐待が10%近くあることも報告されています。
  一方で、こうした厳しい実態を改善していくために、部落解放運動や隣保館の活動が大きな役割をはたしていることが調査のなかで明らかになっています。また、これからの課題として、社会的排除を許さず、多様な人びとがつながり、語り合う場をつくりながら、問題解決に向けて、福祉や生活に関する制度・政策の充実や創設が必要であることなどが指摘されています。
  ⑤これまでみてきたような、貧困化、孤立、社会的排除などのかたちを取り、現代社会の矛盾が被差別・底辺層にしわ寄せされています。こうしたなかで部落差別事件も増えてきています。
  一昨年から「Y住宅販売会社差別事件」にとりくんできました。これは、中古物件を改装するなどして再販売するY社が競売物件の仕入れ表の特記事項のなかに「同和地区」などと差別記載していた問題です。同社が支店を調査したところ、13府県のチェック表に同様の記載が26件もあることが明らかになりました。なかには「特殊地区」「D地区のど真ん中。地域性注意」「同和内ど真ん中。安く買う」という記述もありました。
  昨年の確認会では、同社が、なぜ、どのようにしてこうした仕入れ表を作成したのか、事実関係を隠そうとしたこと、情報は本社に集中しているにもかかわらず、なぜ誰もチェックできなかったのか、調査後に「全社的にみれば発覚した件数は少ない。報告したこと自体が社の誠意であり、会社ぐるみでない」などと反省なく居直るなど多くの問題点を指摘し、糾弾会のなかで、同社は「差別記載についての見解及び反省と決意」を表明しました。社内での人権教育の徹底と業界全体が変わっていけるようにとりくみたいと決意を表明しました。
  この事件でも、部落にたいする忌避意識が背景にあることは明らかであり、大阪での土地差別調査を規制する条例を参考にしながら、国交省による積極的な行政指導とともに、業界団体にも規制に向けた自主的なとりくみを求めていくことも必要です。
  ⑥橋下大阪市長の行為を批判するために、「DNA」や「血脈」を持ち出し出自を暴き、しかも橋下市長の個人の人格が部落出身ということにあるとする、『週刊朝日』差別記事事件が一昨年発生しました。この事件の教訓が活かされず、昨年8月には『週刊現代』が「ユニクロ・柳井が封印した「一族」の物語」で柳井会長の出自を暴き、「ヤクザと同和運動」との見出しでヤクザと同和を同列にあつかい、差別意識を増幅させました。指摘を受けた講談社は、指摘を重く受けとめ今後の紙面作りにいかすことを明らかにしています。
  ⑦2011年に発覚した「戸籍謄本等個人情報大量不正取得事件」は、プライム事件からその後も広がりをみせ、戸籍、住民票だけでなく、職歴、車両情報、携帯情報などが売買されていることも明らかになりました。
  事件の全容解明が重要です。抑止効果を持つ「本人通知制度」は、450以上の自治体で導入されています。今後ともとりくみの強化を図っていくことが重要になっています。
  ⑧NHK製作の「鶴瓶の家族に乾杯」(2012年)のなかで、ある俳優のルーツ探しに浄土真宗本願寺派の寺院の「過去帳」が開示されました。本願寺派とは、開示問題、基幹運動の継承などで意見交換もおこない、教義上の課題などについては、引き続き、本願寺派・中央本部・広島県連で「教学に関する学習会」で協議を続けることとなりました。NHKにたいしても課題の共有化と各地で部落問題に学びながら積極的な取材体制の確立を求めました。
  こうしたなか、昨年は各地で「過去帳」開示問題が起こりました。浄土宗、浄土宗禅林寺派、天台真盛宗、真宗佛光寺派、曹洞宗などの寺院で過去帳をもとにした資料が提供され、新聞社が過去帳の写真を掲載し報道しました。それぞれ当該の都府県連や本部段階で話し合いをすすめて、問題点を解明していく必要があります。
また、日経新聞でも「戸籍などで自分のルーツ探し」という記事が掲載され、「誰でも容易に過去帳を閲覧できる」という誤った認識を読者に与えました。社や編集者への人権教育の徹底を日経新聞社では約束しています。
  ⑨インターネット上の差別事件が悪質化しています。インターネット上の掲示板への被差別部落の地名や所在地などの情報の書き込み、全国の部落の地名を集めてインターネット上に画像ファイルを公開した、いわゆるインターネット版部落地名総鑑、動画投稿サイトへの大阪府や兵庫県、和歌山県をはじめ各地の被差別部落のようすを撮影した動画の掲載など、誰もが見られる状態に放置されており、人権救済制度の確立をふくめ早急な対策が求められています。
  滋賀県内での隣保館などの一覧表を「鳥取ループ」を名乗るものが請求し、ネット上で、事実上の部落地名総鑑として公開を目論んでいましたが、裁判の結果、最高裁は昨年12月、身元調査や土地差別などに悪用される恐れがあるので、非公開とするという県の決定を支持し、「非公開情報にあたる」一定の歯止めをかけました。
  ⑩その他、経済不況のもとで、雇用差別につながる公正採用選考違反事例が急増しています。また、福岡市内大量差別落書事件をはじめ差別落書・投書・電話・電子メール事件や同和地区かどうかを問い合わせる差別事件も各地で多発しています。

二 部落解放運動の基本課題
1 本大会の意義と任務
(1)「同和対策審議会答申」50年、「部落地名総鑑」差別事件発覚40年を契機に、同和行政・人権行政の推進と、社会変革に向けた差別糾弾闘争を強化しよう
 ①本年は「同和対策審議会答申」50年です。答申は、「同和問題は人類普遍の原理である人間の自由と平等に関する問題であり、日本国憲法によって保障された基本的人権にかかわる課題である」として「その早急な解決こそ国の責務であり、同時に国民的課題である」と明記しています。しかも「政府においては、本答申の報告を尊重し、有効適切な施策を実施して、問題を抜本的に解決し、恥ずべき社会悪を払拭して、あるべからざる差別の長き歴史の終止符が一日もすみやかに実現されるよう万全の処置をとられることを要望し期待するものである」としていますが、今日でもなお、部落差別の現実が解消したとはいえません。都府県や市区町での行政交渉を強め、あらためて答申の精神をふまえた同和行政・人権行政の推進を求めていかなければなりません。
  ②また、行政交渉では、「特措法」時代33年間の総括と合わせて、「特措法」後の地域の実態や部落差別の現実をどのように捉えるのかなど、課題克服に向けた方策を明らかにしていくことも重要です。答申が示した課題や部落差別とは何かを根源的に問い返し、個人的な感覚論や抽象論ではなく、正確な差別の実態を把握し、具体的なとりくみ課題を明確にしていかなければなりません。そうした真摯な論議をとおして、行政交渉を強化し、今後の部落問題解決に向けた施策を創設、充実させていくことが重要です。
  ③「部落地名総鑑」発覚から40年です。当時、大阪府連のとりくみで、『人事極秘』などと題された差別図書の存在が明らかにされ、国会でも取りあげられました。この差別事件は、労働大臣声明や12省庁の事務次官名での経済6団体への要請書がだされるなど大きな社会問題となりました。とくに、8番目に発見された「部落地名総鑑」の序文には、就職・結婚での差別身元調査が大きな社会問題になっているとしながら、「しかし、大部分の企業や家庭に於いては、永年に亘って培われて来た社風や家風があり」として「採用問題と取り組んでおられる人事担当者や、お子さんの結婚問題で心労されている家族の方たちには、仲々厄介な事柄かと存じます。このような悩みを少しでも解消する事が出来ればと、此の度世情に逆行して、本書を作成する事に致しました」と、「統一応募用紙」のとりくみなど、就職差別撤廃、部落差別撤廃に向けたとりくみを真っ向から否定した、確信的で悪質な事件でした。
  ④今日、いまだに差別身元調査や土地差別問い合わせ事件、戸籍等大量不正取得事件が起こっていますが、まさに部落を忌避する差別意識の存在は、40年の時をへてもなお根強いといえます。しかも、インターネット時代を反映して、「部落地名総鑑」と題したリストが掲載されるなど、差別情報に対応する法的規制もなく、削除要請以外の有効な対抗策がないのが実情です。法務省は、1989年に「終結宣言」を出しましたが、その後も新たな「部落地名総鑑」が回収されています。こうした政府の無責任な対応の結果として、広島法務局幹部の「『部落地名総鑑』は配っただけでは差別ではない」などの問題発言がされています。一方、「部落地名総鑑」差別事件を契機に、全国で同和問題企業連絡会が結成され、就職差別撤廃のとりくみや企業啓発活動がすすめられています。さらに当時の労働省からは、100人以上の事業所には、企業内同和問題研修推進員の設置を求める職業安定局長通達が出されました。また、個人情報の適正な取り扱いを明記して職業安定法が改正され、さらに大阪、福岡、熊本、香川などでは、「部落差別調査規制条例」が制定されるなど、差別解消に向けた制度が実現しています。今後とも「部落地名総鑑」糾弾闘争で明らかにしてきた差別身元調査の実態を広く訴え、部落問題の解決に向けた社会制度の変革や実現に結びつけていくことが重要です。
  ⑤本年は、「女性差別撤廃条約」批准30年、「人種差別撤廃条約」批准20年です。憲法98条には「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」とあります。この間、マイノリティ女性の実態調査やヘイトスピーチの法規制など、国連人権条約機関から厳しい勧告が繰り返しだされていますが、安倍政権はこうした勧告を無視しています。勧告の実現に向けて、さまざまな団体と連携しながらとりくみをすすめることが重要です。
  ⑥このように、本年は部落解放運動にとって大きな節目になる年です。全国水平社創立いらいの闘いの到達点と意義、そして課題を今日的に確認しながら、これからの部落解放への確かな道筋を示していくことが必要です。部落解放運動は、国内外の差別撤廃と人権確立、平和と民主主義を守る闘いと協働しながら、「差別撤廃・人権確立」を日本社会での社会的価値観や規範として定着させつつある段階にまで押し上げてきました。また、「全国水平社創立宣言」にもとづく部落解放運動が、多くのマイノリティの権利回復と人間的誇りを取り戻すためのとりくみの発展に大きく貢献してきたことや、反差別国際運動(IMADR)の結成と活動を通じて国際人権基準を進展させる闘いでも大きな成果をあげてきました。この「全国水平社創立宣言」のユネスコ世界記憶遺産への登録のとりくみでは、本年9月に国内選考がおこなわれます。全国各地でのシンポジウムや記念行事の開催など、登録に向けた活動を強めます。

(2)深まる民主主義の危機に抗して、差別と戦争に反対するとともに、いのちと生活を守るとりくみを強めよう
 ①本年は敗戦・被爆70年です。この間、安倍政権のもとで、人権や平和の課題は大きく後退し、憲法改悪策動が強まるなかで、「戦争のできる国」づくりがすすめられてきました。2014年12月14日の衆議院総選挙は、こうした第2次安倍政権がすすめてきた反人権主義、国権主義の政治が行き詰まるなかで、みずからの政権維持のみをめざした「大義なき総選挙」でした。安倍政権は、憲法改悪や集団的自衛権行使容認、原発再稼働などの人権・平和や民主主義の課題を争点化せずに、ひたすらアベノミクスによる景気回復策を前面に打ち出し、ほぼ解散前の議席を獲得し、いよいよ憲法改悪をはじめとした戦争推進政策を本格化させようとしています。
  ②とくに、国家安全保障会議(日本版NSC)による安全保障や外交政策の一元化は、「特定秘密保護法」の施行とともに、「戦争のできる国」づくりを強行にすすめるためのものです。また、集団的自衛権行使容認の閣議決定にもとづく、「自衛隊法」の改定などがすすめられようとしていますが、すでに昨年10月8日には、日米外務・防衛局長級協議(防衛協力小委員会)で「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)の見直しに関する中間報告」をまとめています。この中間報告では、これまで日米防衛協力の地理的制約であった「周辺事態」を削除し、「切れ目のない、力強い、柔軟かつ実効的な日米の対応」が必要であるとし、「日本に対する武力攻撃が伴わないときでも、日本の平和と安全を確保するために迅速で力強い対応が必要となる場合もある」と、米軍を支援するために世界中に自衛隊を派兵することを明記しています。いまだ関連法案の骨子さえ示していないにもかかわらず、日米協議では、集団的自衛権行使を前提とした内容がまとまっているのです。このように安倍政権による憲法破壊を許さず、現在46都道府県で結成されている「戦争をさせない1000人委員会」などとの協働のとりくみを強めていかなければなりません。
  ③格差・貧困の問題もますます深刻化しています。安倍政権が昨年12月に総選挙をおこなったのは、本年10月からの消費税率10%を先送りすることを理由にしたものでした。しかも、景気悪化の場合には延期するという「景気条項」を付けないで、2017年4月には消費税率の引き上げを先に言明しており、安倍政権みずからがアベノミクスがすでに破綻していることを認めているのです。株価高騰を景気回復として演出したものの、実質国内総生産は、昨年4月の消費税率8%引き上げ以降、連続マイナスであり、円安による物価上昇などで、実質賃金は2013年7月から連続で減少しています。しかも、非正規労働者が増大するとともに、生活保護費の削減など社会保障制度や解雇の自由化などを認める労働法制の改悪をすすめています。その一方、2014年度補正予算や2015年度予算では、防衛費を増やすなど、「戦争のできる国」づくりのために、市民生活を犠牲にする姿勢を明確にしています。
  ④こうした厳しい社会的政治的情況のなかで、いのちと生活を守るとりくみを具体的にすすめてきた部落解放運動の果たす役割はますます重要になってきています。部落内外の共通する課題にとりくむなかで、差別-被差別の関係を克服し、「人と人の豊かなつながり」を実現していくことが重要です。その具体的な実践が「人権のまちづくり」運動です。各地のとりくみ成果を共有し、さらに部落の食文化や伝統文化などの情報発信など幅広くとりくんでいくことが求められています。

(3)人権・平和・環境を基軸にした政治勢力の結集に向けて統一自治体選挙のとりくみに全力をあげよう
 ①「1強多弱」のもとで暴走と妄想を続ける安倍政権に、なんとしても歯止めをかけなければなりません。この間の政治情勢では、かつての革新-保守、左翼-右翼反動という峻別に大きな意味がなくなってきました。いま求められているのは、人権・平和・環境を基軸に、民主主義を確立していく政治勢力を大きく結集していくことです。本年4月には、統一自治体選挙があります。反人権主義、国権主義の政治を推しすすめる安倍政権と対決し、地方政治のなかで、人権や平和の課題、生活や福祉、教育施策を充実させていくために、組織内候補の必勝をはじめ、推薦候補の当選に向けて全力をあげてとりくみをすすめます。
  ②4年前の統一自治体選挙は、第1次安倍政権が「愛国心」を強要する「教育基本法」改悪、防衛庁の省昇格など、まさに現在と同様、「戦争のできる国」づくりに向けて、憲法改悪に踏みこもうとしていた時期でした。そうした危機的な政治情況は、今日、よりいっそう深まっています。昨年末の衆議院総選挙では、われわれは推薦候補の必勝に向けてとりくみをすすめてきましたが、自民党はほぼ解散前の議席を維持し、政治情況を大きく変革することはできませんでした。新たに発足した第3次安倍政権は、いよいよ憲法改悪策動を本格化させようとしています。統一自治体選挙では、人権・平和の課題を取りあげ、憲法改悪反対、戦争への道を許さない訴えを強めていかなければなりません。
  ③さらに、安倍政権は景気回復を最優先させていくとしていますが、2014年度補正予算では緊急経済対策を名目にして、沖縄に駐留する米海兵隊のグアム移転費、輸送ヘリの改修など、防衛費が倍増しています。2015年度予算でも、防衛費を増大させる一方、来年度予算に関する要請で上京した沖縄県の翁長雄志・知事にたいして、政府や自民党は面会もせず、沖縄の民意を無視した露骨な対応に終始し、沖縄振興費は4.6%も削減しています。このように「地方創生」などといいながら、安倍政権は沖縄振興費を削減し、あくまでも「戦後レジーム(体制)」からの脱却という、戦前回帰の反人権主義、国権主義の政治を推しすすめようとしています。とくに統一自治体選挙前半は、都府県議会、政令市議会選挙が実施されます。奈良県、大阪府、京都府、和歌山県、兵庫県、広島県、福岡県や大阪市、福岡市などでの組織内候補・推薦候補の当選に全力をあげてとりくみをすすめます。
  ④部落解放運動の前進にとって、自治体議員の役割はますます重要になっています。人権や平和の課題を地域のなかで実現するためには、われわれの活動と自治体議員のとりくみを結合させていくことが重要です。この間の部落解放・人権政策確立に向けた闘いでは、全国の地方議会で人権侵害救済制度の確立を求める決議(意見書)が採択され、廃案になったものの「人権委員会設置法案」実現への広範な運動に大きく貢献してきました。また、戸籍等個人情報大量不正取得の防止策としてとりくんできた本人通知制度の導入にあたっても、自治体議員の役割は重要です。さらに、この間、社会問題化してきたヘイトスピーチ規制に向けた議会決議(意見書)も、多くの自治体議員のとりくみで、奈良県、福岡県、長野県、鳥取県、神奈川県、京都市、さいたま市をはじめ、23地方議会で採択されています。こうした人権や平和の課題をはじめ、いのちと生活を守る闘いの課題などの身近な要求を集約し、実現していくために、すべての組織内候補と推薦候補の必勝に向けて統一自治体選挙のとりくみをすすめます。

(4)組織と運動の強化に向けて、人材育成にとりくもう
 ①この間、部落解放運動を前進させるためには、何よりも組織と運動の改革・強化が重要であることを確認してきました。同盟員の減少、高齢化がすすんでいるなかで、同盟組織をどのように改革・強化していくのか、次代の運動を担う人材育成をどのようにすすめていくのかなど、課題は明確になっていますが、具体的なとりくみがすすんでいません。
  ②組織と運動の改革・強化に向けた基本方向は、中央本部-都府県連-支部(地区協議会)が双方向での論議を重ねることで、問題意識ととりくみ課題を共有していくことが必要です。また、組織と運動の改革・強化に向けて確認しておかなければならないことは、今日的な部落差別のあらわれ方をどのように捉えるのかということです。本年は「部落地名総鑑」差別事件発覚から40年です。差別の実態を広く社会に訴え、社会システムの変革につなげていくとりくみをあらためて教訓化し、今日的な差別糾弾闘争の内実を深化させていくことが必要です。また、部落差別事件だけではなく、日常生活や経済活動のなかにあらわれる部落差別にもとりくんでいくことで、生活・福祉の課題、格差や貧困を克服していく課題につなげていくことが重要です。地域のなかの一人ひとりの想いや部落差別への怒りを受けとめ、困難な課題にたいして、ていねいなとりくみのもとで解決の方向を見出すこと、差別の現実を変えていくことを運動の結集軸にしていかなければなりません。これまでの地域での相談活動、世話役活動を通じて蓄えてきた解決力を共有化することで、運動と組織の改革・強化をめざしていくことが求められています。
  ③こうしたとりくみの具体化に向けて、この間「起業(企業)・農水・生労・人材育成本部」を設置し、論議を開始しました。また、これまでの論議をふまえ、あらためて「組織強化・人材育成推進本部」を設置し、組織や教宣活動の強化、人材育成という課題を明確にしながら引き続き論議をすすめてきました。論議はまだまだ不十分で、具体的な問題提起をするまでには至っていませんが、論議内容を深化させ、人材育成の課題をふくめて全国的な論議ができるようにとりくみをすすめます。
  ④以上のような現状認識、問題意識のもとで、今大会では、「全国水平社創立宣言」にある自主解放の思想とこれまでの部落解放運動の実践をふまえ、差別と戦争に反対し、部落内外の社会連帯の実現をめざす協働の闘いを大胆にすすめ、今後の部落解放運動の方向を提示していく論議を積み重ねていく出発点にしたいと思います。

2 2015年度(第72期)の重点課題
(1)「人権侵害救済法」実現に向けた闘いをすすめよう
 ①人権の法制度確立をめざす闘いとして、「人権侵害救済法」早期実現に向けたとりくみをすすめます。民主党政権のもとで閣議決定された「人権委員会設置法案」は、国内人権機関としての「人権委員会」について、その独立性を担保するために国家行政組織法の第3条にもとづく機関として提案されましたが、法務省外局としての所管問題や人権委員会の権限問題など、多くの問題点も指摘されてきました。しかし、中央実行委員会での論議の集約として、多くの不十分点があったとしても、現実的に成立可能な今日的な条件である3条委員会として、「政府から独立した人権委員会」の設置を最優先し、法実現に全力をあげてきました。
  ②こうしたこの間の闘いの到達点や課題となった点をふまえ、あらためて「人権侵害救済法」制定に向けた闘いにとりくみます。とくに、これまでのとりくみと同様に、差別事件や人権侵害による被害救済という立法事実をもとに、「パリ原則」に合致する3条委員会としての独立性を最優先した現実的な闘いをすすめます。さらに、「障害者差別解消法」が成立したことをふまえ、差別の定義や被害救済機関の創設などの課題について、「人権侵害救済法」との関連もふくめて学習、検討をすすめます。
  ③昨年の臨時国会では、国連人権条約機関からの勧告も受けたヘイトスピーチにたいして、民主党を中心に超党派で「ヘイトスピーチ規制法」制定のとりくみがすすめられました。また、差別禁止法についても、中央実行委員会や都府県実行委員会での論議とともに、さまざまな当事者団体とも連携をしながらとりくみをすすめます。
  ④人権課題についての制度・政策要求を集約し、それをもとに政府交渉などにとりくみます。また、法制定に向けた運動の裾野を拡げ、有利な政治的社会的条件づくりをすすめます。とくに各政党の人権問題のとりくみ体制の充実を求めるとともに、超党派でのとりくみを活性化させていきます。
  ⑤「人権侵害救済法」制定の闘いは、人権の法制度確立に向けた当面の最重要課題です。昨年12月には、中央実行委員会第12回総会を開催し、高野山真言宗の中西啓寶管長が新会長に就任しました。新体制のもとで、中央集会-政府交渉を効果的定期的に開催し、法制定の政治責任、政府責任、国際的責務をしっかりとふまえながら、独立性、実効性のある国内人権機関の設置を中心にした「人権侵害救済法」制定に向けて厳しい情勢のもとでのとりくみを全力ですすめます。

(2)狭山再審闘争の勝利をかちとり、えん罪防止のための法制度確立に向けて全力をあげて闘いをすすめよう
 ①狭山の闘いは、事件発生から50年以上が経過しました。第3次再審闘争では、2009年9月に裁判所、検察官、弁護団による3者協議が開始されて以降、164点の証拠開示がおこなわれています。とくに、石川一雄さんが逮捕当日に書いた上申書などが証拠開示で明らかになり、筆跡鑑定とともに新証拠として提出されています。また、万年筆、鞄、腕時計の3物証に関する捜査報告書などの証拠も開示されています。弁護団は、腕時計に関する新証拠も提出しました。石川さんの「自白」によって発見されたという腕時計が被害者のものでないという疑いを示す重大な証拠です。さらに被害者を後手に縛った手拭いが石川さんの家のものではないことを示す新証拠や石川さん宅で発見された万年筆が被害者のものでないことを示す新証拠、など、これまでに139点の新証拠を提出しています。このようなとりくみの成果をふまえ、狭山第3次再審の実現と石川さんの無罪をかちとるために、証拠開示と事実調べに向けた闘いをすすめます。
  ②一方、検察側は、ようやく証拠物リストを開示しましたが、弁護団が要求している証拠リストの開示要求については拒否し続けています。あらためて証拠開示とともに証拠リストの開示も要求していかなければなりません。一方、この間の証拠開示や証拠物リスト開示は、弁護団のとりくみとともに、石川さん、早智子さんの高裁前でのアピール行動や全国各地での署名活動、証拠開示の法制化要求のとりくみ、住民の会や中央共闘会議、同宗連などによる要請行動の成果です。
  ③この間、「東電社員殺害事件」での再審無罪判決をはじめ、足利事件や布川事件など、あいついで再審無罪判決が出され、袴田事件も再審開始決定をかちとっています。いずれも証拠開示と鑑定人尋問などの事実調べが再審開始の大きな力となっています。こうしたえん罪事件のとりくみを教訓にし、えん罪防止に向けた証拠開示と取り調べの全面可視化の法制度確立に向けた全国運動を強化していく必要があります。
  ④50年以上もの闘いをふまえ、証拠開示と事実調べを求める世論を高めるために、映画「SAYAMA みえない手錠をはずすまで」の上映会や、各地での集会とパネル展示などのとりくみをすすめます。

(3)差別糾弾闘争を強化し、差別撤廃に向けた協働のとりくみを前進させよう
 ①差別糾弾闘争は、差別が社会悪であることを訴えるとりくみであり、「差別糾弾闘争強化基本方針」にもとづき、差別事件の背景と原因、課題などを明らかにすることが重要です。とくに本年は「部落地名総鑑」差別事件発覚から40年です。こうした差別事件の実態を広く社会的に明らかにし、再発防止に向けた制度改革につなげていくことが必要です。
  ②そのためにも、都府県連での差別糾弾闘争の成果の共有化と、今日的な差別事件の集約、分析をすすめます。とくに、土地差別調査事件や戸籍等個人情報大量不正取得事件などのように、全国的にとりくむ差別事件については、全国糾弾闘争本部長会議などで論議し、統一的な闘いをすすめていくことが重要です。この間の「過去帳」開示問題や全国的にとりくんだY住宅販売会社差別事件など、中央本部と関係都府県連での協議をふまえ、課題ととりくみ成果の共有化をすすめ、広く社会に差別事件の実態を訴え、関係省庁、業界の体質改善や制度・政策の変革を実現します。
  ③差別事件だけでなく、生活圏域内であらわれるさまざまな差別の実態を集約し、中央糾弾闘争本部で闘いの基本方向を論議します。たんに事件対応的なとりくみだけではなく、差別のとらえ方や差別糾弾闘争の理論的な深化は、部落解放運動の今日的な重要な課題です。こうした論議は、さまざまな立場からの問題提起もふくめて、差別撤廃と人権確立社会に向けた協働のとりくみとしても、部落解放運動を活性化させることにつながります。
  ④このように差別糾弾闘争は、差別をめぐる真摯な議論の場です。現代的な差別のあらわれ方や差別の実態をていねいに論議していくことが必要です。あらためて差別糾弾闘争を、地域の日常的な活動の基本に位置づけて、差別-被差別の関係性の克服に向けた実践としてすすめることが求められています。本人通知制度の導入に向けた全国的なとりくみのように、差別撤廃に向けた制度変革や政策要求につながる差別糾弾闘争の前進が、地域での支部組織の強化と信頼される運動の再生にとっても重要な課題です。

(4)地域の生活に密着した闘いをすすめ、運動と組織の強化にとりくもう
 ①この間継続的にすすめている運動と組織の改革・強化の基本方向は、新たな「綱領」や「行動指針」にもとづき、地域の生活圏域でこれを具体化する実践にとりくんでいくことです。とくに、今日、安倍政権の新自由主義路線によって、格差拡大がすすむなかで、もっとも困難が集中するとされる部落の実態も、格差や貧困の問題が深刻化しています。また、部落内の生活要求も、階層別によってさまざまな違いが生まれてきています。こうした部落の厳しい実態とともに、階層別の実態などを正確に把握し、それぞれの要求を集約する運動のスタイルを基本にすることが重要です。
  ②さらに要求を集約することで、行政交渉を強化するとともに、その実現に向けた手段を具体化していくことが必要です。生活・福祉のとりくみでも、一般施策では解決できない課題を、部落解放運動だからこそのとりくみで克服していくことが、部落内外で信頼される組織と運動づくりにつながります。同時に、地域や職場をふくむ日常生活のなかにあらわれる差別の実態を的確につかみとり、差別への怒りを結集するなかで、新たな運動展開と組織建設に向けたとりくみと結合していくことが必要です。
③これまでの運動と組織の改革・強化や人材育成などに向けた論議では、少子高齢化や若者の地区外流出、市町村合併による同和行政の転換や後退などの課題が明らかになっています。また、部落解放運動は、総体的に「運動の停滞」、「同盟員の減少」、「財政の困窮」、「人材の不足」という困難な状況に陥っており、これを乗り越えるための具体的なとりくみが求められていますが、まだまだ不十分です。こうした都府県連、支部の現状を直視しながら、課題の克服に向けた全国的な論議を積み重ねてきましたが、今後さらにその内容の具体化、実践交流をとおしての問題意識の共有化をすすめていきます。
  ④そのためにも、支部活動の強化が必要です。都府県連がそれぞれの支部活動の実態を十分に把握し、活動の活性化に向けた課題を明らかにしていくことが求められています。それぞれの支部の特徴、特色を生かしながら、あくまでも地域の生活に密着した課題にとりくむことをめざします。都府県連でも同様に、それぞれの組織の特性を生かし、新たな運動に対応しうる運動と組織の改革・強化に向けたとりくみをすすめることが必要です。それぞれの都府県連のとりくみ課題の交流や成果の共有化をすすめ、都府県連相互のネットワーク機能の強化をめざします。中央執行部もそうした実践から学び、全国的なとりくみ方針に反映させていくために、地方協議会との連携も深めながら、都府県連組織の強化に向けて、積極的なとりくみをすすめます。
  ⑤組織建設の重要な課題として、各地域で生活に密着した運動の活性化と人材の発掘のとりくみをすすめます。さらに、「組織強化・人材育成推進本部」での論議を精力的にすすめ、課題を提示し、組織や運動の強化に向けて全国的な論議をすすめます。
  ⑥「人権のまちづくり」運動をはじめ、部落内外をつなぐ協働のとりくみをすすめていくことをとおして、社会連帯の実現をめざします。さまざまな分野で、部落の枠をこえた多様な協働したとりくみをすすめることによって、部落解放運動の可能性を大きく拡げていくことが重要です。

 

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