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第2次中央集会に結集し部落解放・人権政策確立に向けて前進を

「解放新聞」(2024.10.05-3115)

 2024年度部落解放・人権政策確立要求第2次中央集会が10月31日、東京・日本教育会館でひらかれる。昨年の「全国部落調査」復刻版出版事件の東京高裁・控訴審判決で示された内容をふまえて、今年5月に成立、公布された「情報流通プラットフォーム対処法」(以下「情プラ法」)の本格施行を見すえて、同法律の趣旨などを生かした運動づくりを、部落大衆はもとより、差別と抑圧に苦しむ当事者や支援団体などと連携して強めていこう。

 この筆を執っている最中、自由民主党の総裁選挙と立憲民主党の代表選挙がおこなわれているところである。「政治とカネ」問題による政党改革や政治改革が大きな争点となっているが、当然というか世論は冷ややかで、国民の政治不信が深刻であることを物語っている。第2次中央集会の開催時には、衆議院の解散・総選挙が始まっているかもしれない―という政治・選挙の情勢でもあるが、私たちは現段階での到達点などを確認し、着実に運動を積みあげていこう。

 「差別されない人格的利益」を認めた東京高裁・控訴審判決をあらためて確認しておきたい。

 まず、部落差別について「我が国の封建社会で形成された身分差別により(中略)本件地域の出身であることなどを理由に結婚や就職を含む様々な日常生活の場面において不利益な扱いを受けることである」と定義。「復刻版」差し止めに関し「本来、人の人格的な価値はその生まれた場所や居住している場所等によって左右されるべきではないにもかかわらず、部落差別は本件地域の出身等であるという理由だけで不当な扱い(差別)を受けるものであるから、これが上記の人格的な利益を侵害するものであることは明らかである」と指摘した。

 結婚差別や就職差別に代表されるように、部落差別問題は「部落出身である」ことを暴露されることによっておこる差別問題である。

 そして、控訴審判決で「本件地域の出身等であること及びこれを推知させる情報が公表され、一般に広く流通することは、一定の者にとっては、実際に不当な扱いを受けるに至らなくても、これに対する不安感を抱き、ときにそのおそれに怯えるなどして日常生活を送ることを余儀なくされ、これにより平穏な生活を侵害されることになるのであって、これを受忍すべき理由はない」と認定。「復刻版」出版により被差別部落の所在地情報を摘示することは「差別されない人格的利益(人格権)」の侵害にあたるとしたのである。

 その適用も「現に本件地域に住所又は本籍を有する場合はもとより、過去においてこれらを有していた場合、両親や祖父母といった親族が本件地域に住所又は本籍を現に有し又は過去において有していた場合においても、不当な扱い(差別)を受け又はそのおそれがあるものと判断するのが相当」と言及した。

 現在、被差別部落で生活しているすべての住民(同盟員のみならず)やかつて被差別部落に住んでいた人たち、あるいは被差別部落にルーツをもつ人たちが、アウティング(他者が本人の同意を得ずに第三者に暴露すること)によって「人格的利益」が侵害されることのない、「差別されない人格的利益」が保障された社会へと変えていく運動づくりが求められている。

 先日、北海道が2023年度に実施したアイヌ生活実態調査で、最近3〜4年で自身が受けた差別体験について、回答したアイヌ民族の31・6%が「SNSなどインターネット上の書き込み」をあげて最多となったとの報道があった。自分以外の人が受けたことを知っているケースでも「SNSなどの書き込み」が58・3%とアイヌ民族差別の深刻さが明るみに出ている。「アイヌ施策推進法」は附則で施行5年を過ぎた段階で必要があれば見直すと示しているが、今年で施行から5年目。部落差別解消推進法も今年12月で施行9年を迎える。「差別の解消」を謳(うた)っていても理念法では、差別の抑止になんら効果をもたらしてはいない。

 「差別されない人格的利益」保障を求めていくため「ネット上における部落差別の禁止」規定を盛り込むことを見すえて「部落差別解消推進法」の改正を強く働きかけていきたい。各地域の実情、持ち味や特徴を生かし、被差別部落地域および部落の当事者にたいする「SNS上での差別的な書き込み」など今日的な部落差別の現実を世に問う闘いを展開していこう。

 新潟・埼玉・大阪を皮切りに展開している「部落探訪」削除裁判闘争を積極的に推進していくとともに、インターネット上で「被差別部落の所在地情報(識別情報の摘示)」が野放し状態である現状を一刻も早く変えていくことが大事である。「情プラ法」を契機に被差別当事者団体などと連携して「インターネット上における部落差別や人権侵害を禁止する法制度の整備」を展望した運動の展開につなげていく。

 部落解放同盟中央本部は先日、総務省と交渉をおこなった(「総務省交渉」記事)。「情プラ法」の早期施行に関しては認識などを共有することができた。今回の交渉結果をふまえ、院内外のとりくみを粘り強く展開していきたい。

 交渉のなかで総務省は「(ネット上の)権利侵害は待ったなしの問題」「この制度(情プラ法)は運用にすべてがかかっている。生かすことも殺すこともできる」との認識を示した。年内をめどに示される政省令の内容が一つの規準となるが、「情プラ法」の趣旨・目的の具体化を迫っていこう。

 第1に、中央本部として、「情プラ法」の対象となる大手プラットフォーム事業者はもとより、中小のプラットフォーム事業者などにたいしても「識別情報の摘示」が削除対象となるように働きかけを強めていく。

 第2に、「識別情報」は「権利侵害情報」であり、総務省の「違法情報のガイドライン(仮称)」に削除対象として位置づけられるよう、各自治体の首長として要望するなどのとりくみを強めてほしい。地方からの声を中央省庁に集中していくとりくみの一環としてすすめていこう。

 第3は、地方レベルで「情プラ法」の趣旨・目的などを生かしていくとりくみを強めていくことである。

 「情プラ法」は、被害を受けた個人からの申出にたいし、大手プラットフォーム事業者に削除などの対応の迅速化・透明化をはかることを義務づけたもので、個人以外は対象外となる。事業者の自主的なとりくみが基本で、事業者ごとに対策に温度差も生じるのだ。「この制度は運用にすべてがかかっている」と総務省がのべているように「情プラ法」の趣旨・目的を生かしたとりくみをどう広げ、深化させながら、「情プラ法」の運用だけでは解決できない問題は何かなど、懸案課題をあきらかにしていくことが重要となってくる。

 被害を受けた人たちを問題が解決するまで継続して支えていくことや、インターネットリテラシーなどの課題をかかえている人たちを支援していく相談支援体制の整備・充実。そして「情プラ法」の趣旨などの周知、リテラシー向上に向けた教育・啓発の充実と強化は、地方レベルでも求められる課題である。

 総務省が示す予定のガイドラインに「識別情報の摘示」が位置づけられたとしても、削除されないケースや、被差別部落に関する賤称語を使った差別的な書き込みでも削除されないケースが出てきたりすることが懸念される。地方レベルでこれらの事案を集積・分析し、立法事実として積みあげていく仕組みを整備し、さらなる法制度の強化・改正につなげていく―そうした不断のとりくみを展開していかねばならない。

 政治情勢が混とんとするなか、今通常国会で成立した「情プラ法」の本格施行を、インターネット上の部落差別の根絶に向けた確かな一歩にしていくことが重要である。高度情報化社会における差別や人権侵害を許さない、「包括的差別禁止法」の制定と国内人権委員会の創設をめざして、広範な運動づくりにとりくんでいこう。

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