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部落解放同盟ガイド

見解

「情報流通プラットフォーム対処法」(情プラ法)成立にあたっての見解

 「情報流通プラットフォーム対処法」(情プラ法)が5月10日の参議院本会議で可決・成立し、即日公布された。施行は公布後1年以内とされている。部落解放同盟としては、インターネット上に氾濫する部落差別情報への対応策として、「プロバイダ責任制限法」の大幅な改正によって成立した「情プラ法」を広く周知するとともに、積極的に活用することで、部落差別情報の削除など、インターネット上の人権侵害事案への取り組みをさらに強化していかなければならない。

 「情プラ法」は、インターネットを通じてSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス=インターネット交流サービス)を提供するプラットフォーム事業者(PF事業者)に対して、SNSなどにおいて深刻化する誹謗中傷や権利侵害への対応にあたり、「自主的な取り組み」としつつも「権利侵害情報」に対する対応の迅速化と運営状況の透明化を求めている。

 対応の迅速化では、削除申出の窓口をわかりやすくし、削除手続き等を公表するとともに、申出には「十分な知識経験を有する者(侵害情報調査専門員)」を選任して対応する体制を整備することが定められている。また、一定期間内を原則に、削除を申し出た者に削除するか否か、その理由を通知することとし、「一定期間内」については、国会での審議のなかで、総務大臣が「一週間を目途とする」と答弁している。

 「運営状況の透明化」では、PF事業者がそれぞれ削除の対象となる「権利侵害情報」の基準の作成や公表をすること、さらに「削除の基準」にもとづいた運用状況を公表するとともに、削除した場合は発信者に対して通知することなどが義務づけられている。なお、対象となるPF事業者は大手に限定されるが、詳細は政省令で示されることになっている。

 「情プラ法」は、今日の高度情報化社会において、PF事業者の自主的な取り組みとしているものの、SNSなどでの「権利侵害情報」という多様な人権課題に対応するよう明記している。安倍政権発足以降、個別人権課題の立法措置が実現してきたが、実効性などにおいて大きな課題があることが指摘されてきた。今回の「情プラ法」の成立によって、PF事業者がさまざまな人権課題における人権侵害情報の削除などの対応をすすめることで、そうした取り組みの成果を集約して、さらに包括的な差別情報への対応を確立するとともに、インターネット上の差別禁止に関する法整備を実現することが重要である。

 また、今回の「情プラ法」では、被害者の早期救済を明記している。これまで「刑法」改正による侮辱罪の法定刑引き上げ(2022年7月)や「プロバイダ責任制限法」改正による発信者情報の開示(2022年10月)で対策を強化した。一方、2022年に集約された「違法・有害情報相談センター」への相談のうち67%が「削除方法を知りたい」という報告もあり、被害者が削除を求めてもその申請窓口が分かりづらいことや、申請しても削除されたかどうか知らされないのがこれまでのPF事業者の対応であった。このようにインターネット上の人権侵害情報が放置され、拡散することへの早期救済の対応が義務づけられたことは一定の前進である。

 一方、今後の課題は「情プラ法」の対象が大手PF事業者であり、中小のPF事業者やウェブサイト管理者は対象外となっていることである。また、それぞれのPF事業者が作成・公表する「削除の基準」の内容がPF事業者ごとで異なることが懸念される。「情プラ法」施行後は、運用状況を集約しながら、大手PF事業者による統一的で厳格な「削除の基準」が策定され、業界全体に共有されなければならない。

 インターネット上では、膨大な情報やデータが流通し、容易に入手することができるが、差別や誹謗中傷などの人権侵害や権利侵害などの被害は、現実に人命を奪うほどに深刻化している。さらに、公然と暴力や差別を扇動するヘイトスピーチ、確信犯的な差別、誹謗中傷は、憎悪犯罪(ヘイトクライム)を誘発し、そうした犯罪行為を支持する言動さえ生み出し、社会の対立と分断をいっそう増大させている。

 部落解放同盟は、今回の「情プラ法」制定を契機にしながら、こうした高度情報化社会における差別や人権侵害を許さず、「包括的差別禁止法」と国内人権委員会の創設などにむけて、さらに広範な取り組みをすすめるものである。

 2024年6月7日

部落解放同盟中央本部

 

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