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部落解放同盟ガイド

見解

マイナンバー制度に対する基本的な考え方と対応について


■マイナンバー制度、番号とカードのひとり歩きの危惧

 

 昨年10月から住民票を有する全ての人にこれまでの住民票コードとは異なる新たな12桁の個人番号、また事業所にも13桁の法人番号が付けられ、本年1月1日から番号の利用と個人番号カードが交付されるマイナンバー制度(行政手続における特定個人を識別するための番号の利用等に関する法律=「以下、マイナンバー法」という)がスタートしている。住民票を持つ人全員、日本国民だけでなく、中長期の在留外国人や特別永住者に個人番号が届けられている。「通知カード」が届いた後、希望者には身分証明書として使えるICチップ内蔵の「個人番号カード」が本人確認を行った上で任意でこの1月から発行されている。
 しかしながら制度本格運用開始から未配達をはじめ、ICチップデータのプログラムミス・再発行等、日常的に混乱が連続して発生している。
  この制度は、2013年、社会保障と税の一体改革の一環として、住民登録した市民に一生変わらない番号をつけ、そのもとに「社会保障」「税」「災害」に関する諸々の個人情報をコンピュータで一元的に国家が管理・利用する仕組みとして制定された。
 しかしながら、当初の社会保障の充実をはかるという政策目標はそぎ落とされ、個人番号の通知や制度の実施前の9月には銀行口座や検診情報、その他自治体の要望を踏まえた利用範囲の拡充等の法改正が安保法案審議の混乱の中でなされた。また昨年9月には財務省が突然、消費税10%引き上げ軽減策に個人番号カードを使用した還付金構想を発表する等、当初、政府の説明になかった利用範囲があいついで拡大、打ち出されてきている。
  これらのことからも、政府のまずは番号ありきで制度を導入し、その後に利用内容を民間活用等も含め際限なく広げていく思惑が透けてみえる。今後、番号とカードがひとり歩きし、拡張・膨張を重ねることが危惧される。もし番号利用が民間にも拡大していけば、個人情報の流出被害のリスクは限りなく拡大する。

■拭いきれない情報漏洩と人権侵害の危惧
  2014年のベネッセの個人情報漏洩事件(2895万件とベネッセが推計)、2015年5月には日本年金機構から125万件もの個人情報が漏洩する事件の発生、また、行政書士による戸籍等の大量不正入手されたプライム事件といった情報漏洩や不正な個人情報の入手事件が後を絶たない。公務員や民間会社従業員による過失や情報売買、不正なコンピューターシステムへのアクセス等の事件は、どれだけセキュリティを強化してもこれら不正やハッカー等との「いたちごっこ」が繰り返され、情報漏れの危惧は拭いきれない。アメリカ合衆国や韓国では民間分野で個人番号が使用されるようになったことから、詐欺やなりすまし被害が激増している。ドイツ、イタリア、オーストラリア等では番号利用を一部に限定し、イギリスではICカード導入を撤回、カナダでも民間分野での番号利用を禁止、個人番号カードすら廃止している。
 また今後、日本では個人番号カードの券面に記載されている名前や性別に関することやさらには個人番号を告知することそれ自体で起こる深刻な事態が予想される。LGBT(性的少数者)とりわけ性同一障がいの人が本人の意思に反し性別を記載した個人番号カードや通知カードを提示せざるを得なくなる恐れがあること、在日外国人が通名で勤務している場合には本名と通名併記のカードを提示せざるをえなくなること、DV被害を受けて避難している人の場合には居所を登録しなければ通知カードを加害者が受け取ることになり、被害者の個人番号を知った加害者に本人の意に反した行政手続きを勝手にされてしまう恐れがある等々の問題がある。また、情報漏洩による個人のプライバシーが不正に暴かれ身元調査に利用されることも非常に危惧されるところである。あわせて、様々な理由で住民票の住所に住んでいない人、住民票がない人々(ホームレスや多重債務者、DV被害者等)は、公的サービスから締め出されることにもなりかねない。

■マイナンバー制度に対する基本的な考え方
  住民基本台帳ネットワークシステムが市町村の「自治事務」であることに対し、共通番号制は「法定受託事務」=国の仕事と法律で定められており、国から強制的に付番される「強制付番」であるため、実質的にマイナンバー番号そのものが付けられることは変えようがないのが現実である。
 自己情報コントロール権、人権の観点からも問題が多いマイナンバー制度であること、差別や人権侵害につながるセンシティブ情報が個人番号につながれること、漏洩や詐欺などの危険が大きく、個人番号を通じて個人情報が悪用される危険性があること、行政のみでなく民間でも扱うことで漏洩や悪用の危険性が一層高まること等の視点から、部落解放同盟としては、人権尊重・個人情報保護の立場から、マイナンバー制度には基本的に反対の立場をとる。
 しかし、個人情報保護法の改正により、人種、信条、社会的身分、病歴等、その取り扱いによって差別や偏見、その他の不利益が生じるおそれがある、慎重な取り扱いが求められる個人情報を「要配慮個人情報」と位置づけ、本人の意図しないところで第三者に提供されることがないように特別の規定が設けられたこと。さらに人権尊重・個人情報保護の観点から、現行法制度では番号利用を税、社会保障、災害関連でも法律や条例で定められた行政手続きにしか使用できないことになっていることの現状をふまえ、改正個人情報保護法や現行法制度の遵守を前提として、マイナンバー制度に対して適切に現実対応していくことが必要であると考える。

 と同時に、民間等の番号活用等に拡大させないこと、情報漏洩や人権侵害につながらないよう個人情報保護、セキュリティ、安全管理措置、職員研修・教育の徹底を当該自治体等に求めていかなければならない。また、人権侵害を未然に防いでいくためにも、戸籍や住民票を第三者が取得した場合に本人に通知する登録型本人通知制度について、未整備の市町村についてはその整備を強く求めていくとともに、すでに制度が整備されている市町村については、マイナンバー制度の周知の広報作業とあわせ、登録拡大にむけ創意工夫した周知啓発の実施を求め、登録者拡大を強くはたらきかけていくものである。

■マイナンバー制度に対する現実的な対応について
現実的な対応として、同盟員及び各地区における各種法人を含む事業者、企業連における当面の対応の考え方については下記の通りである。

<1>同盟員等に対する対応について

●個人番号の対応について
  個人番号については社会保障、税、災害対策の分野に限定されていることから、それ以外の分野には提供しないよう、注意喚起の徹底をはかる。あわせて、今後、社会保障、税、災害対策以外にも自治体独自であったり、民間の番号活用が予想されるが、何らかの形で個人情報が流出したり情報漏洩する危険性があることを十分認識した上で、個人番号、個人通知カード、個人番号カードの保管・管理には十分気をつけるよう注意喚起の徹底をはかる(「個人通知カード」には後に申請して発行される「個人番号カード」とは違い、ICチップや顔写真はついていない)。
●勤務する職場における対応について
 勤務する事業所・法人等から番号の提示を求められた際、就業規則で提出を義務づけられている等の場合には処分・不利益を被る可能性が否定できない。その事業所・法人等において社会保障や税といった利用目的を越えていないこと、特定個人情報保護方針や個人情報保護規程、情報の取得や廃棄の規程が整備され、管理担当者が配置される等、情報が漏洩しないよう個人情報が厳重かつ安全管理されている等の方策を確認した上で、適切に対応する。

<2>各種法人を含む事業者及び企業連の対応について

●事業者としての対応について
 マイナンバー法の関係法令整備法によって、個人番号を行政への提出書類に記載する義務が各個別法で規定されていることから、事業者にはその遵守が求められる。しかし事業者が、従業員等の個人番号を必要な書類に記載して、行政機関等又は健康保険組合等に提出する個人番号関係事務を行う場合には、利用目的を越えた個人番号の利用の禁止を明確にし、情報が漏えいしないための必要な安全管理処置を図り、必要な手続きを定めた各種規程を整備する等、法令にもとづいて適切に対応していく必要がある。

<3>当該自治体に対する対応について

●個人情報保護の徹底と本人通知制度等の周知・登録者拡大について
 当該自治体においても個人情報が漏洩しないよう厳重かつ安全に管理されること、安易な利用拡大を図らないこと、登録型本人通知制度や被害告知型制度の整備、マイナンバー制度とセットにした啓発活動の充実、登録者拡大にむけた取り組みを実施すること等、要請する。

 

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