集会アピール
42年前、東京高裁の寺尾正二裁判長は、石川一雄さんに無期懲役判決をおこなった。寺尾判決は、別件逮捕や代用監獄の取調べを正当化し、冤罪を生み出した部落差別の問題にふれることなく、警察の誤った鑑定と密室の取調べで作られた自白に頼って強引に石川さんを犯人と決めつけた。この不当有罪判決が、いまも石川さんに「みえない手錠」をかけている。
この寺尾判決の誤りを正すべく第3次再審請求が申し立てられて11年目に入っている。第3次再審請求では、これまでに180点を超える証拠が開示され、寺尾判決の誤りを明らかにする新事実がつぎつぎと発見されている。先日も狭山弁護団は、寺尾判決を根底からくつがえす新証拠である下山鑑定を提出した。下山鑑定は、石川さんの自白通りに発見されたとして有罪の根拠とされた万年筆が被害者のものではないことを科学的に明らかにした。有罪証拠とされた万年筆には被害者が使っていたインクがまったく入っておらず、別のインクだけが入っていた偽物だったのだ。この事実は、被害者の鞄から万年筆を持ち帰って自宅のお勝手の入り口のカモイに置いていたという自白が完全にウソの自白であったことを示している。そればかりか、2度の徹底した警察の捜索で見つからなかった万年筆が、2か月近くたった3回目の捜索で、わずか176センチの高さのカモイから発見されるという不自然さとあわせて考えれば、捜査機関によるねつ造以外に考えられない。まさに袴田事件の「5点の衣類」と同じである。
証拠開示された取調べ録音テープによって、石川さんが、死体の状況や鞄の捨てられ方など犯行内容をまったく知らず、犯行の体験を語れない石川さんに、取調官らが誘導してウソの自白をつくっていったことも明らかになった。「石川さんはスラスラ自白した」という警察官らの証言を根拠に自白は信用できるとした寺尾判決は完全に誤っている。当時の石川さんが字が書けない非識字者だったことも開示された上申書や取調べの録音から一層明らかになった。これらの新証拠によって、筆跡の一致を有罪証拠の主軸と言い、万年筆の発見を根拠に自白は信用できるとし、捜査に不正はないとした寺尾判決は根底から崩れている。いまこそ再審が開始されなければならない。
きょう冤罪当事者の訴えを聞き、冤罪を作り出す取調べの実態は狭山事件と同じであることをあらためて確認した。志布志事件、足利事件、布川事件の教訓は、徹底した証拠開示と事実調べが再審において不可欠であり、虚偽自白による冤罪の現実を裁判官は見なければならないということである。
石川さんが半世紀以上も冤罪を叫び続け、多くの新証拠が提出されてきたにもかかわらず、寺尾判決以来42年間、一度も事実調べがおこなわれていない。このような不公平・不公正な司法のありかたはこれ以上許されない。わたしたちは、狭山事件の第3次再審請求を審理する東京高裁第4刑事部の植村稔裁判長が、証拠開示を検察官に勧告し、鑑定人尋問などの事実調べをおこなうよう強く求める。東京高検が埼玉県警の証拠物一覧表や弁護団の要求する証拠物・捜査書類をすみやかに開示するよう求める。
袴田事件の一日も早い再審開始と無罪判決、すべての無実を叫ぶ人たちの再審開始を求める。そして、冤罪根絶にむけて、冤罪被害者や支援運動と連帯し、司法反動を許さず、再審における公正な証拠開示の確立、取調べの全面可視化を実現する闘いを全力ですすめる。
一日も早く石川さんの「みえない手錠」をはずすために狭山事件の再審を実現しよう!
2016年10月28日
狭山事件の再審を求める市民集会 参加者一同