最高裁判所第1小法廷(小池裕裁判長)は、6月25日付けで大崎事件の第3次再審請求の特別抗告審で、鹿児島地裁、福岡高裁宮崎支部の再審開始決定を取り消し、自ら再審請求を棄却する決定をおこなった。わたしたちは、この最高裁の暴挙に対して断固抗議する。
大崎事件では、親族とともに殺人犯とされた原口アヤ子さんが一貫して無実を叫び、出所後も冤罪を晴らすために再審を求めた。第3次再審請求で鹿児島地裁は2017年6月、再審開始を決定。検察官が即時抗告したが、2018年3月に福岡高裁宮崎支部も再審開始決定を維持した。これに対して検察官が最高裁に特別抗告を申し立てていた。今回の決定は検察官の特別抗告には理由がないとしながら、職権で調査するとして、地裁、高裁の再審開始決定を取り消し、高裁に差し戻すのではなく、自ら再審請求を棄却するという前例のない決定である。地裁、高裁の決定は鑑定人の尋問をおこなうなどして詳細な認定をおこなったうえで再審開始を認めたものである。検察の特別抗告に理由がないというなら抗告を棄却し、再審開始を確定させるべきであり、事実調べもしないで新証拠を否定し棄却する決定をおこなうことは手続きとしても市民常識に反し、あまりに不公平・不当である。
最高裁決定は、地裁、高裁の再審開始決定が再審開始の理由とした法医学鑑定について、鑑定人は死体を直接検分しておらず、遺体解剖時の写真から鑑定しているので証明力がないと否定している。しかし、このような言い方をすれば再審請求で別の法医学者があらたな鑑定をしても意味がないことになる。再審請求の新証拠のハードルを不当に高くしており、「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則を再審においても適用するとした最高裁判例に反していると言わざるをえない。
一方で最高裁決定は、再審開始決定が認定した事実を「全く想定できない」とか、死体遺棄した犯人は殺害をした犯人であり、犯人は原口アヤ子さんと親族以外に「想定し難い」などと断定的に認定しているが、その根拠は何も示していない。また有罪の根拠となった共犯とされた人たちの自白について、変遷や矛盾が見られるにもかかわらず、「相互に支え合っている」「信用性は相応に強固なもの」などと抽象的に言うだけで自白は信用できると認定しているが、具体的な説明は何も書かれていない。国民に納得のいく説明をつくした決定とはとうてい言えない。原口さんらに対する悪意に満ちた偏見さえ見てとれる。一方的な決めつけで、有罪判決に間違いない、冤罪ではないと宣告しただけであり、これがまかり通るならば、多くの再審も認められなくなると言わざるをえない。このような決定が最高裁第1小法廷の判事全員一致で出されたことに強い危惧を感じざるをえない。わたしたちは、今回の決定を徹底して批判し、再審の流れを逆行させないよう市民に訴える。
今回の決定を出した最高裁判事たちは、一貫して無実を叫び続け、92歳となった原口アヤ子さんの姿を見たことがあるのか。誤った裁判から無実の人を救うためにある再審制度は人権の制度であり、最高裁は人権擁護の最後の砦と言われるが、最高裁決定は再審の理念と人権を踏みにじるものである。今回の最高裁決定を出した判事たちには人権感覚が微塵もないことを示すものであるといわざるをえない。
わたしたちは、大崎事件の最高裁決定に強く抗議するとともに、再審の逆流を許さず、狭山事件の再審開始と石川一雄さんの無罪を求める闘いをより一層強化する。大崎事件の再審無罪を求める闘いに連帯するとともに、人権擁護と誤判救済の観点から司法のあり方、再審のあり方を変える運動を幅広く進め、とりわけ再審開始決定に対する検察官抗告の禁止、再審における証拠開示手続きの確立など再審法改正を国会に求めていくものである。
部落解放同盟中央本部